ドル不安と金/金を買うべきか?

昨日08/12/18の日経新聞夕刊に掲載されていた「金、プラチナ価格上回る」という記事が目を引きました。金の国際価格が17日のNY市場で12年ぶりにプラチナ価格を上回り、安全資産としての価値を見直されたということです。プラチナの方は自動車の排気ガス触媒向けが需要の6割ということで、この自動車不況の中で急落しています米国ゼロ金利の影響で、ドルの先安感からドルに代わる有力「通貨」としての金を買う動きが広がったようです(※1)。

ちなみに、17日の終値(期近)は、金が1トロイオンス867.5ドル、プラチナが同865.2ドルだそうです。

確かにゼロ金利政策の影響で、米ドルは他通貨に対してドル安となりました。が、これはとりあえず一時的なものだと思います。一本調子にはドル安は進行したりはしないでしょう。米国のゼロ金利政策に先立って、ECBが利下げ打ち止めをとりあえず決めたことが影響しているものと思います(※2)。

さて、今後の赤字国債引受(赤字財政拡大に伴う増発国債を市場から買っても同じ)や資産担保証券購入などに伴うFRBの資産膨張とマネーサプライ増加、およびFRBの資産劣化が進行した場合、その規模によっては、ドル不安が広がり、ドル暴落という事態も可能性としてゼロではありません。おそらくそれだけギリギリの規模でもって米国財政赤字の拡大と、FRBの資産膨張は09年を通じて進行するものと思います

以前、当ブログにも書きましたが、08年4月ごろのテレビ東京のスポット報道で、個人が市場売却したアクセサリーなどの金をFRBが購入しているという報道があったのを記憶しています。FRBも必要ないなら金など購入するはずがありません。

FRBは、やはり万一のドル防衛に備えた通貨の裏打ちとしての金、簡単に言うと何らかの形の金本位制を想定しているように思います。

金本位制復活はナンセンスという意見もありますが、その反対に金本位制復活を予想する意見も根強く存在します。仮に、ドル紙幣の発行過多でその信任がゆらぎ、ドル暴落という事態に陥ったとするならば、金によってドルの裏打ちをするのがドル暴落を阻止する一番簡単で確実な方法だと思います。FRBが金を溜め込んでおいて、何らかの兌換方法を発表すればいいだけのことです。もちろん通貨バスケット導入論や、SDR(IMF特別引出権)の拡大論も考えられますが、導入・定着までの手間が大変そうです。

部分金本位制」を想定するエコノミストもいます。いまひとつよく分からない概念ですが、たとえば100ドルのうちの20ドル部分を金で裏打ちする方法だ、ということだそうです。そうすると100ドル札を5枚集めてFRBに持っていくと、100ドル分の金に交換できることになります。金との兌換レートを安くするだけのように見えますが・・・。

仮に金本位制に戻るとしたならば、当室で妥当と考えている金本位制は、[金の市場価格 - α%] のディスカウント価格でもってFRBが兌換に応じる、ディスカウント型の金ドル本位制というものです。

例えば、1トロイオンス=1000ドルだとすると、兌換レートは5%引きの950ドル、というような考え方です。そうすれば、市場価格より兌換レートが常に有利になりますので、ドル紙幣の価値は常時保全されることとなります。ただし、これでどのような副作用が発生するかは、当室でもまだはっきりとは分かりませんので、あしからずご了解ください。まだ誰からも聞いたことのない単なる思い付きです。

ただし、一時的にしろ、仮にドル防衛策としてこうした何らかの金兌換が採用されるとしますと、円の方が暴落する可能性が高くなります。そうすると、金を買っておいた方がいいのではないかという感じになってきます。

加えて一方で、不気味な情報もあります。

「連銀は金相場の上昇を抑制してドルを防衛する目的で、非公式に米銀行に対して大量の金地金を貸し出している。連銀が保有する総量3万トンの金地金のうち、半分以上が貸し出しされた状態になっている」そうです(※3)。

なぜならば、「金地金の貸出金利は、最近まで1%以下の低さだった」ため、「米の銀行やその傘下のヘッジファンドが、この仕組みを使って金地金を借り、借りた金地金をCOMEXなどで売ってドルに替え、そのドルを使って利回りの高い投資を行う「金キャリー取引」をさかんに行った」結果として、金の価格は連銀の目論見通り上値を押さえ込まれているのだそうです(※3)。

この話が本当だとしますと、大変なことです。ここのところのFRBの低金利政策により、預金金利が低下して、売却代金を預金で運用していた金の借り手は運用難となってきているはずです。そうすると、起こるのは「金キャリー取引」の巻き戻し、ということで、今まで売られていた金が買い戻されるため、金価格が暴騰する可能性が高くなります。いや、プラチナ同様に景気減速に伴う需要減で本来価格が下落するべきものが、すでに金キャリーの巻き戻しによって価格が維持されているのかも知れません。確かに金は700ドル台から800ドル台に値を戻しています。

資産防衛のためには、やはり少しは金の購入を考えざるを得ない、ということでしょうか。そうであれば、現在のこの円高は好都合ということになります(12/19、17時時点で1ドル=88円93―96銭近辺で推移)。

購入するとしたならば、当室の考え方としては、ドルコスト平均法による①純金積立、②金ETF、③金鉱山株投信ということになります。投資判断はお任せしますが、まだ米財政赤字とFRB資産が危険水域まで急拡大しているわけではありませんので、それほどすぐにドル下落とはならないものと思います。ですので、ドルコスト平均法というやや時間のかかる方法を提案しているわけですが、しかし、「金キャリー取引」の巻き戻し、という情報は、判断がやっかいです・・・。

■本日12/19、日銀は政策金利を0.3%から0.1%に引下げました。これにより、急激な円高の可能性は低くなりました。あとはECBが素直にもう一段利下げしてくれればいいのですが・・・。
◆「[東京 19日 ロイター] 日銀は18、19日に金融政策決定会合を開き、政策金利である無担保コール翌日物金利の誘導目標を0.2%ポイント引き下げ、0.1%前後で推移するよう促すことを決めた。賛成は7人、反対は1人で、反対は野田忠男審議委員だった。
悪化している企業金融の円滑化を図るため、時限的にCP(コマーシャルペーパー)の買い入れを実施するとともに、その他の金融商品についても対応を検討する。また、短期の資金供給オペの負担を軽減するため、これまで月1.2兆円のペースで行ってきた長期国債の買い入れを月1.4兆円ペースに増額。合わせて、買い入れ対象国債に30年債、変動利付国債および物価連動国債を追加する。
利下げとともに、基準貸し付け利率(ロンバート金利)は0.2%引き下げて0.3%とする。また超過準備預金に付利する補完当座用金制度の適用利率は0.1%のままで、政策金利と同水準となる。
政策金利引き下げに加えて、「金融調節手段にかかる追加措置」として、以下の措置について全員一致で決定した。
まず、長期国債買い入れ額を月1兆4000億円に増額、12月より実施し、買い入れ対象に30年債、変動利付国債および物価連動国債を追加する。また買い入れ国債の残存期間が極端に短期化あるいは長期化することを避けるため、残存期間別の買い入れ方式(残存1年以下、1年超から10年以下、10年超区分)を導入する。これらの措置については実務的な検討を行い、できるだけ速やかに成案をえるよう、執行部に対して総裁から指示があった。
また12月2日に導入を決定した「民間企業債務を活用した新たなオペレーション」について来年1月8日から実施することとした。
さらに、年度末に向けて企業金融が一段と厳しさを増すおそれがあることを踏まえ、時限的にCP買い入れ(買い切り方式)を実施することを決めた。他の企業金融にかかる金融商品についても対応を検討することとし、執行部に指示が出された。どの範囲でどの程度の期間を行うことが必要かつ適当か、中央銀行の財務の健全性と通貨の信認確保の観点から、政府との関係も含めどのような対応が必要かといった点からの検討を求めた。
CP買現先オペなどの対象先に日本政策投資銀行を追加することも決めた。
経済情勢についての声明では、金融環境について全体として厳しい方向に急速に変化している」との認識を示し、景気は「悪化している」と判断を下方修正、「当面厳しさを増す可能性が高い」として、今後さらに状況が悪化する見通しを示した。
その上で「物価安定のもとでの持続的成長経路へ復帰していくために、今後とも中央銀行としてなしうる最大限の貢献を行っていく方針」を示した。また「民間金融機関に対しては、低金利環境や様々な金融調節面での諸措置を最大限活用し、適切な対応をとられることを強く期待している」と異例のコメントを付け加えた。」
 (以上、「政策金利を0.1%に引き下げ、CP買い入れを時限導入=日銀」(08/12/19 ロイターより全文引用)

■「欧州中央銀行(ECB)のトリシェ総裁は、既に多くの銀行支援策をとっているとして、量的緩和には慎重な姿勢を示した」ということで、KYぎみなところが日銀と似ています。EUの経済状況を見れば追加利下げせざるを得ないと思います。たぶん未経験なので量的緩和が怖いのでしょうね・・・。
◆「[パリ 18日 ロイター] 欧州中央銀行(ECB)のトリシェ総裁は、既に多くの銀行支援策をとっているとして、量的緩和には慎重な姿勢を示した。欧州連合(EU)財務相との会合後、記者団に述べた。
「量的(緩和)について話すときには、ECBのバランスシート、そして他の中銀のバランスシートの規模を見る必要がある」としている。
ECBの政策金利は2.5%と主要7カ国(G7)では最も高く、量的緩和に踏み込む状況には至っていない。ただ、ECBが米連邦準備理事会(FRB)に追随し、金利がECBが妥当とみる水準以下に下がる前でも、社債か国債の購入を開始する可能性がある、とみられている。
ECBは今回の金融危機を受けて、金融システムへの流動性供給を拡大し、銀行から担保として受け入れる商品の種類も増やした。総裁によると、ECBのバランスシートはこの1年で55%以上拡大している。
総裁は「われわれが現在、金融システムのためにとっている対策を過小評価すべきではない。われわれが行っていることは非常に重要だ」と強調。「金融セクター、特に銀行に対して、われわれが多くの対策を打ち出したという事実を認識するよう、訴えたい。われわれは流動性の供給という点で多くのことをしてきた。これを認識すべきだ」と述べた。」
 (以上、「ECB総裁、量的緩和に慎重姿勢」(08/12/19ロイターより全文引用)http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPJAPAN-35535620081219

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◆(※1)08/12/18付 日本経済新聞夕刊3面より。
■(※2)しかし、ECBも苦しいところでしょう。EUも景気は米国以上に悪いはずですので、本当はまだ金利を下げる場面だと思います。苦し紛れに、「欧州中央銀行(ECB)は18日、下限金利(中銀預金金利)を、従来の政策金利マイナス0.5%ポイントから同1.0%ポイントに引き下げた。」という記事がロイターに出ています。
→◆「ECB、下限金利を政策金利-1%に引き下げ」(08/12/19 ロイター)http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPJAPAN-35527520081218
◆(※3)「操作される金相場」(2008年11月7日  田中 宇)http://tanakanews.com/081107gold.htm