米国の金融政策はいつごろ効き始めるのか

米国のFF金利は、2007年8月の5.25%から、2008年12月の0~0.25%まで、1年5ヶ月の間に約5%引下げられています。

白川日銀総裁によれば、物価上昇に対する金融引き締めの効果は、平均的に1~2年で発揮されるようです。逆に、デフレの場合の金融政策の効果は、金融緩和が有効需要を直接発生させるものではないため、効力発生までの期間は不明と言えますが、引き締めの場合から類推することが許されるのであれば、やはり1~2年と見てもいいのではないかと思います(やや強引ですが・・・)。

米国のFF金利が2%台となったのは、2008年3月ですので、この2月でようやく1年経過することとなります。その後もゼロ金利まで緩和していますので、金融政策の効果があるのであれば、そろそろ効き始めてくる頃合いではあります。

バーナンキFRB議長はその著書「リフレと金融政策」の中で、「金融政策についての四つのエピソード」として、フリードマンとシュワルツによる金融政策の効果の検証事例を引用しています。四つのうち三つは金融引き締め政策ですが、一つは金融緩和政策の事例です。以下、少し長くなりますが、孫引き引用します。

「この第三のエピソードは一九三二年四月に起きました。このとき議会は金融緩和、特に公開市場での大規模な証券買い入れをさせようとFRBに対して圧力をかけはじめました。FRBはこれに極めて消極的でしたが、一九三二年の四月から六月の間に大量買入れを認めたのです。この流動性注入によりマネーサプライの下落は目に見えて緩慢化し、政府債、社債、コマーシャル・ペーパーの流通利回りは著しく下がりました。フリードマンとシュワルツが注目したように(三二四頁)、ここでもっとも興味あることは、「マネーサプライの下落の漸減と証券買い入れプログラムの開始直後に、一般的な経済指標にもまた顕著な変化が生じてきたことである・・・(中略)・・・卸売物価が七月に上昇を始め、生産も八月には上昇に転じた。個人所得は下落を続けたがその割合はずっと少なくなった。工場の雇用、鉄道のトン・マイル単位の輸送量、その他多くの実物経済活動の指標も同様のことを物語っていた。総じて、一九三一年の初めと同様に、諸データは景気循環が回復過程に入った多くの特徴を再び示した。

つまり、世界恐慌の時の事例ではありますが、FRBが通常の金融緩和ではなく、証券の大量買いによって流動性供給をした場合の事例では、各証券利回りの急激な下落(つまり金利低下)によって、四月から買取りを開始して早くも三ヵ月後には景気回復効果が確認できている、ということです。

このたびの金融不況では、FRBはCPなどの買取りを2008年10月から開始しています。この1月からのモーゲージ担保証券(MBS)の買い取り開始がなされれば、中長期金利面の金融緩和はより確かなものとなります。世界恐慌の研究家であるバーナンキFRB議長の金融緩和策によって景気対策の下地はできていますので、あとは大型財政出動の効果を期待するだけです。

[参考]
◆「短期金融市場の流動性改善策として、満期が90日以下のドル建て預金証書(CD)やコマーシャル・ペーパー(CP)を買い取る。買取額は最大6000億ドル。10月21日発表。09年4月30日までの時限措置。」(「〔情報BOX〕米FRBの流動性対策(11月26日現在)」 08/11/27 ロイター)http://jp.reuters.com/article/businessNews/idJPJAPAN-35128820081127

■このロイター記事には、08/11/26現在のFRBの政策が要領よくまとめられています。今後のために次に全文を掲載しておきます。

◆「[ワシントン 26日 ロイター] 米連邦準備理事会(FRB)は金融危機に対処するためこれまでに数々の流動性拡大策を導入してきた。以下は信用収縮が発生して以来FRBが取った一連の流動性拡大策。
 ◎公定歩合の引き下げ
預金金融機関への流動性拡大のため、公定歩合の引き下げはFRBが伝統的にとる手段。2007年8月17日の0.5%ポイントの利下げが一連の公定歩合引き下げ局面の始まりだった。08年3月16日以降、主要政策金利であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標との差は0.25%ポイントに縮小している。 
 ◎マネー・マーケット・ファンド向け資金供給措置
マネー・マーケット・ファンド(MMF)から資産担保コマーシャル・ペーバー(ABCP)買い入れ支援のために公定歩合で融資する。また連邦住宅抵当金庫(ファニーメイ)、連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)、連邦住宅貸付銀行(FHLB)の債券を買い入れる。9月19日発表。 
 ◎ターム物資産担保証券ローンファシリティー(TALF)
FRBは、新規消費者ローンと小規模企業向けローンを裏付けとしたトリプルA格付けのABSの保有者に対し、最大2000億ドルのノンリコース融資を実施する。融資の資金として財務省が200億ドルを拠出する。11月25日発表。
 ◎コマーシャル・ペーパー・ファンディング・ファシリティー(CPFF)
一般企業の短期資金調達手段であるコマーシャルペーパー(CP)購入制度を創設。CPFF制度のもと、一定の格付け以上のドル建て3カ月物CPを対象に、特別目的機関(SPV)を通して買い取る。延長されない限り10月17日から2009年4月30日までの時限措置。10月7日発表。 
 ◎マネー・マーケット・インベスター・ファンディング・ファシリティー(MMIFF)
短期金融市場の流動性改善策として、満期が90日以下のドル建て預金証書(CD)やコマーシャル・ペーパー(CP)を買い取る。買取額は最大6000億ドル。10月21日発表。09年4月30日までの時限措置。 
 ◎通貨スワップ協定
短期金融市場のドル資金調達圧力の緩和を目的に、各国中央銀行との間で通貨スワップ協定を締結。締結当初は各協定に上限額が設定されていたが、10月13日に欧州中銀、スイス国立銀行(SNB、中央銀行)、イングランド銀行(英中央銀行)、翌14日に日本銀行との間の協定の上限額を撤廃。他にカナダ、ノルウェー、オーストラリア、スウェーデン、ニュージーランド、ブラジル、メキシコ、韓国、シンガポールの中央銀行と通貨スワップ協定を締結。 
 ◎プライマリーディーラー向け連銀窓口貸出制度(プライマリーディーラー・クレジット・ファシリティー=PDCF)
プライマリーディーラー(米政府証券公認ディーラー)向けに公定歩合で資金を貸し出すPDCF制度を3月16日に新設。預金金融機関以外に公定歩合で資金を貸し出すのは1930年代の大恐慌以来。当初は6カ月の時限措置だったが、その後期限を2009年1月30日まで延長。 
 ◎ターム証券貸出制度(TSLF)
ニューヨーク連銀は、プライマリーディーラー向けの期間28日の財務省証券貸出入札を毎週実施。貸出予定額は2000億ドル。 
 ◎ターム証券貸出制度(TSLF)のオプション入札
プライマリーディーラー向けの証券貸出制度(ターム証券貸出制度=TSLF)のオプション入札。四半期末などの資金ひっ迫時のために実施。オプション入札対象は500億ドル。 
 ◎TAF(ターム入札ファシリティー)
07年12月(訂正)に設定。10月6日に期間28日と84日のTAF入札の規模をそれぞれ1500億ドルに拡大。年末越えの資金供給にそれぞれ1500億ドルのフォワード入札を2回計画。これらの措置によりTAFによる供給額は年末時点で9000億ドルになる可能性。 
 ◎プライマリーディーラー向けレポ取引
3月7日にプライマリーディーラー(米政府証券公認ディーラー)向けに28日物レポを通じた資金供給策を発表。 
 ◎準備預金の利子支払い
米政府が決定した総額7000億ドルの金融安定化法のもと、FRBは金融機関が積み立てている準備預金に対し利子を支払う。 
 ◎従来の資金供給策
公開市場操作、プライマリーディーラー向け証券貸出。通常は財務省証券、政府機関債、モーゲージ担保証券(MBS)をを受け入れ担保に翌日物レポで実施される。

訂正:TAF(ターム入札ファシリティー)の項目で、「08年12月」を「07年12月」に訂正します。」
 (以上が、08/11/26現在のFRBの政策の要点の全文引用です。)

◆「歴史的な金融危機を背景に、米債券利回りは今年、過去最低水準をつけ、過去13年間で最高の成績を記録した。住宅市場の低迷が3年目に入り、クレジット市場がほぼ凍結状態となるなかで、指標10年債の利回りは過去12カ月間で実質的に半分の水準に低下した。 他の金融市場と同様、債券市場も極端なボラティリティがみられ、年初時点で4.03%だった10年債利回りは、2.20%近辺で2008年を終えた。10月時点では4.11%付近で推移していた。」
 (以上、「米金融・債券市場=反落、通年で10年債利回りが実質半分に低下」08/12/31 ロイターより抜粋)http://jp.reuters.com/article/domesticFunds/idJPnJT834601120081231

◆「米連邦準備理事会(FRB)は30日、政府系住宅金融機関の連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)、連邦住宅抵当金庫(ファニーメイ)、および連邦政府抵当金庫(ジニーメイ)が保証するモーゲージ担保証券(MBS)の買い取りを、1月初旬に開始すると発表した
買い取り期間は6月末まで。買取額の上限は5000億ドル。」
 (以上、「FRB、政府系住宅金融機関が保証するMBS買い取りへ」 08/12/31 ロイターより抜粋)http://jp.reuters.com/article/financialCrisis/idJPJAPAN-35672420081231

[参考文献]
■「現代の金融政策」(白川方明著 2008/03/17 日本経済新聞出版社刊)
■「リフレと金融政策」(ベン・バーナンキ著 2004/01/23 日本経済新聞社刊)