格付け会社は信用できないか/サブプライムローン格付け判断の誤り

「格付け会社がどうして信用できないのか」というコラムを山崎元氏が読売オンラインで書かれていましたので、興味深く読みました。山崎さんは転職過剰で様々な業務経験を豊富にお持ちですが、さすがに格付け会社だけはご経験がないようですので、一般債券の場合と、ストラクチャードの場合とに分けて、以下当室の見解を説明しておきたいと思います。

格付け会社がどの程度信頼できるのか、結論から先に言いますと、通常の債券格付けについては、概ね信頼できると言えます。その格付け会社の格付け体系の中で、狂いがあったとしても1-2ノッチのことだと思います。一方、ストラクチャードの方は、まちまちだと思います。

以前に少し説明しましたように、一般債券の格付け符号の決め方は、大雑把にいうと、①財務・収益の安定性評価と、②格付け符号の相対感(=符号体系の中の位置付け)によって為されていますので、財務・収益の安定性評価がアナリストの個性で多少のブレがあったとしても、格付け符号体系の中の位置付け感覚でもって修正されますので、ほぼ妥当な符号位置に落ち着く場合がほとんどです。

従って、山崎さんが指摘するように、格付け符号を売って収入を得るという弱い立場の格付け会社が、発行体のご機嫌取りのために甘い格付け符号を提示・販売するということも可能性としては十分に考えられるものの、実際のところはあまりに不自然に格付け体系から外れた符号というのは提示できるはずがなく、格付けアナリスト個人の強い意見とか、格付け会社の都合とかいうものは、それほど織り込むことはできません。仮に織り込めたとしても、1-2ノッチのことであり、それ以上の恣意性を入れるのはほとんど不可能といっていいでしょう。

むしろ問題なのは、(ア)初めから全体の符号体系そのものが甘い格付け会社の場合と、(イ)符号の社会的影響力の大きさを恐れて超法規的に符合をねじ曲げてしまう場合であると思います。

(ア)の場合はどの発行体が格付けを依頼しても、当然ながら他の格付け会社よりも甘い符号が付けられてしまいます。JCRの格付け符号はその典型で、R&Iよりも通常2ノッチ前後は甘い符号となっています。

(イ)は、たとえばムーディーズによる日本国債の符号「Aa2」で、日本国債の方が米国債よりも2ノッチ低く付けられていますが、どうして債権国の方が債務国よりも符号が低くなるのか、理解に苦しむところです。日本が米国債を売却したら共倒れになることは間違いありませんので、少なくとも格付け符号は同等なのが当然だと思います。軍事力も含めて格付けしているのではないでしょうか。また、英国債の格付けが「トリプルA」を維持しているというのも、かなりの眉唾物だと思います。ソブリンに関しては、実際問題、符号体系の相対感は明らかに大きくねじ曲がっています。

次に、ストラクチャード・ファイナンス債券の格付け符号について述べますと、こちらはもっとマニュアル的な符号付けとなります。これがサブプライム問題の共犯だと山崎さんが指弾している方の格付けで、符号内容に大きな狂いが生じてしまっているのは明らかです。サブプライム問題を世界中に拡大させた原因の一つとなったこのストラクチャード格付けの方は、単純に言えば、格付け方法の間違い、つまりは格付けの考え方の誤りが符号を誤った原因だと思います。

ストラクチャード格付けについて概念だけを単純化して説明します。まず個別ローン債権の集合体を想定してこれを信用力順に、上・中・下(シニア・メザニン・エクイティ)に区分しますと、シニア部分は「AAA」で、メザニン部分は「BBB」の格付け、エクイティ部分はもっと低い符号、というような優先劣後構造になっています。個別ローン債権が地域的、金額的、所得階層的など様々な項目から見て広く十分に分散されていれば、景気変動の影響や経験的な倒産確率の程度によって上述のように区分けを付けるのは正しい方法であり、格付けの間違いも起こりません。そして、格付けの高いシニア部分を担保とした債券を発行して「AAA」の格付けで販売し、エクイティ部分は格付け符号が低いので裏付け販売しないで組成者等が保有することとなります。この組成を第一弾(第一段階)と呼ぶとしましょう。

ところが米国金融機関は、その第二弾として、第一弾の売れ残りのメザニンの部分だけをたくさん集めて来て個別ローンの集合債権を再び組成し、これをまたシニア・メザニン・エクイティと区分けしてそれぞれ格付け符号を第一弾と同様に取得してしまいました。そしてシニア部分を担保とした債券を発行してまたまた「AAA」格付けで販売しました。格付けが「AAA」でなおかつ利回りも高いため、よく売れたはずです・・・。

さらに米国金融機関は、その第二弾の売れ残りメザニン部分をたくさん集めて来て再々組成し、同様な方法で格付けを取得して第三弾も販売しました・・・。

サブプライムローンの債務者というのは、もともとが返済能力の劣る債務者ですので、だからこそ金利が高いわけです。サブプライムローン債権を集合組成しても、おそらくは「シニア」部分がもともと少ないと推定されるのに、それ以外の売れ残りメザニン部分だけを十分にたくさん集めて来たとしても、その組成集合体の上澄み部分が果たして「シニア」と言えるものでしょうか・・・?

それを思い切り良く「シニア」と解釈してしまったところに格付け会社の考え違いと検証不足があります。いや、個人的にはおかしいと感じていた格付けアナリストもいたと思いますが、多分みんなで赤信号を渡ってしまったのでしょう。世界中の損失が大きすぎて、考え違いでしたというだけでは済まされることではありませんが、少なくとも非を認める態度は大事だと思います(※1)。今後の信用回復に期待したいものです。それにしても、ムーディーズはともかく、S&Pはもっと保守的で注意深いスタンスが信条だったはずですが・・・。

以下、山崎さんのコラムのポイント部分をを掲載しておきます。

◆「一昨年にサブプライム問題が起こり、これが昨年9月のリーマン・ショックをきっかけに世界的な「金融危機」と言われる状況につながった。この事態をもたらした原因をあえて犯人と呼ぶと、その候補は複数あるが、本来はリスクの大きな金融商品(たとえばサブプライム・ローンの証券化商品)に「AAA(トリプルエー)」をはじめとする高格付けを与えた格付け会社が少なくとも共犯者であることについて、金融業界に詳しい人なら、誰も反対しないだろう。
それでは、どうして格付け会社は、このような間違いを犯したのか。
手っ取り早く答えを言うと、それは、格付け会社は格付けされる証券を発行する発行体から格付けの報酬をもらっていたからだ。
たとえば、不動産の証券化商品を正しく分析することは難しかったかもしれないが、米国全体で不動産価格が過剰に上昇する可能性や、現に証券の担保となっている不動産の価格が高すぎる可能性について、格付け会社のアナリストが何も気付かなかったとは考えにくい。仮に、本当にそういうことならば、そもそも彼らに債券の格付けなど無理だ。
格付け会社は、証券化商品の発行者(主に投資銀行と呼ばれた証券会社)から格付けの手数料をもらいつつ、この商品のセールスに大いに加担した。」
(「格付け会社がどうして信用できないのか」 山崎元 09/09/04 読売オンライン)
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/trend/yamazaki/20090904-OYT8T00359.htm

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◆(※1)「格付けの質と独立性に向けたスタンダード&プアーズの努力
  /スタンダード&プアーズ社長 デブン・シャーマ
過去2年間にわたり、金融危機はわれわれの社会に多くの課題を投げかけた。スタンダード&プアーズが格付けした米国の住宅ローン関連の証券化商品のパフォーマンスが非常に残念なものであったことはわれわれも十分認識している。われわれの事業は質、厳正さと独立性に対する評価をベースに成り立っており、われわれの業務に対する投資家からの信頼回復に向けて努力を払っている。
われわれには2つの質問が恒常的に投げかけられている。一つは、証券の格付けを依頼する発行体から手数料を徴収する一方で、どのように発行体からの影響を排除しているのかという疑問、もう一つはどのようにして今後格付けの質の向上を図っていうかという質問である。本稿は最初の質問を取り上げ、次に発表する小稿で分析の質の強化の問題を取り上げたい。(・・・中略・・・)
ではいかにして発行体から手数料を徴収するビジネスモデルで潜在的な利益相反を効果的に管理できるかという点が問題になる。答えは明快で、透明性の向上、内部の管理強化、そして規制の強化を通じてこうした問題は解決できる。
スタンダード&プアーズは既に以下のような多くの改革を実践している。
- ストラクチャード・ファイナンスの分野で格付けのパフォーマンス、前提条件、ストレス・テスト、格付け規準にかかる開示水準の向上
- 格付けチームから分離されている格付け規準、品質管理、モデル検証、リスク管理グループによる内部のチェック&バランスの強化による格付けの独立性の強化
- 分析担当者と営業担当者の隔離の強化
- 職員、投資家や市場参加者から提起された問題を独立した立場から検討、対応するために前アーンスト・ヤング会長兼CEOのレイ・グローブスをオンブズマンとして採用
- 格付けの独立性を担保するために、定期的な検査の実施とポリシーやプロセスを検証するため内部検査組織を新設
- 証券化格付けの過程でアドバイザリーやコンサルテーションと受け止められかねない行為を排除するために、証券化格付けのポリシーと手続きを強化
- アナリストの担当替え制度とアナリストが弊社を退職し、弊社の顧客に転職した場合に、担当時につけていた格付けを一つ一つ見直して、その格付けの厳正性を確認するという「ルック・バック」制度の導入
規制の重要性
われわれは、格付けに関しては、投資家の利益が最優先させるために、格付け会社に対する政府の規制強化が必要であると認識している。オバマ政権および米国財務省によって提案された法案は、格付け会社が不適切な既得権益(それが発行体であれ、情報行購読者であれ)の影響を受けないようにすること、オリジネーター、発行体、格付け会社を含め、証券化のプロセスを首尾一貫して規制することを目指したものである。特に財務省の提案は以下を求めている。
- 証券化案件に異なった格付け記号を使用すること。過去のヒストリカルなパフォーマンス・データ、および分析手法とリスク規準の開示水準の向上
- 内部管理と倫理規定の文書化と公開
- 格付け会社の監視を専門に担当するSEC機能の新設
欧州連合もまた、最近格付け会社に対し、情報開示、監督、検査の強化を含む新たな規制の枠組みを導入した。
現状からすると、格付けのプロセスがより公開され、透明性が高ければ高いほど、信用市場における投資家の信頼をより回復できるといえるだろう。」
(2009年8月 S&Pホームページより抜粋)
http://www2.standardandpoors.com/spf/pdf/japanArticles/SP_Commitment_to_Rerorm_JP.0908.pdf