金相場の高騰をどう見るか

金の相場は1オンス1400ドルに迫っており、かなり過熱ぎみであると思います。以前、当ブログでは、米国金利の上昇に伴って、金利の付かない金は1000ドル超えで価格上昇が止まると予想しましたが、その後のFRBの金融緩和継続で米国金利上昇予想が崩れてしまい、金価格に関する予想もみごとに崩落してしまいました。

著名投資家のソロス氏は、2010年1月28日のブルームバーグ記事では、金相場は「究極のバブル」だと発言して現在の高値から急落するリスクがあるとの見方を示していましたが、FRBの緩和継続を受けて方針を変更し、持ち高の処分を延ばしたように見えます。

金相場の今後の予測については、10月29日の日経新聞の朝刊に掲載されていました次の記事が、現時点では妥当であるものと思います。

◆金価格、来年後半には下落も、バークレイズ、アナリスト予測 (2010/10/29, 日本経済新聞 朝刊)
「金の国際価格は14日に1トロイオンス1388ドルの過去最高値を付け、その後も高値圏を維持している。英金融大手、バークレイズ・キャピタルの商品担当アナリスト、ケビン・ノリッシュ氏=写真=に今後の見通しを聞いたところ「来年前半に1440ドルまで上昇したあと、年後半には下落に転じそう」と語った。主な発言は以下の通り。
一、金価格が上昇したのは世界景気の不確実性が高まり主要国通貨の下落や政府債務問題などさまざまな不安が広がったことが背景だ。現物が裏付けの上場投資信託(ETF)を通じて投資しやすくなり、投資家層が広がったことも上昇要因だ。
一、価格は当面、世界経済への不安を背景に資金の逃避先として堅調に推移するとみている。米連邦公開市場委員会(FOMC)を前に短期的には変動が大きいかもしれないが、高値更新を続けるだろう。来年4~6月期には1440ドルに上昇する見通しだ。
一、来年後半には景気回復で不安が和らぎ、利上げ観測が強まりそう。景気の不確実性から金へ逃避していた資金が株式など他の資産へ向かい、金相場は下落するとみている。2012年の相場予想は1240ドル。さらに長期的な予想では850ドル程度まで下げるとみている。」(以上引用)

■金価格6000ドル説
今後の金価格の予測として極端な論者は、「1オンス6000ドルもある」という予想の人もいます。たとえば、高橋靖夫氏は、その著書「金本位制復活!」(東洋経済新報社刊)の中で、米国が金本位制を復活させた場合、米ドルの裏付けとして(通貨発行残高の)25%を金とリンクさせるという構想を想定し、米政府が金価格1500ドルの時点でその「部分的金本位制」を発動すれば、金の価格はその4倍の6000ドルまで上昇するという仮説を述べています(この本には何に対しての25%なのか最後まで書いてないので「通貨発行残高の」と解釈しておきます)。

その点、副島隆彦先生の「今こそ金そして銀を買う」(祥伝社刊)では、世界のマネーサプライ55兆ドルの1割位(6兆ドル、16万トン)しか全世界の金現物はない、という数字が提示されていて、金本位制を採用するためには最低でも2割の実物資産が必要で、16万トンの金の価格が現在の3-4倍の18-25兆ドル位になれば金本位制も何とか可能にはなると説明されています(※1)。

簡単に言えば、両説ともに「金(ゴールド)価格はまだまだ上がる」ということです。

高橋説では、①実際にユーロは、発行額の15%の金のECBへの預託を義務付けているということ、②米国も1968年までは25%の法定金準備率制を採用していたということで、今後の米国「部分的金本位制」採用に一応の説得力はありますが、あくまでも予測でしかなく、ペーパーマネーの印刷し過ぎによるインフレ招来という以外に通貨制度移行の根拠が挙げられていない点は残念です。しかしながら、金本位制の最大の欠点である「経済成長に連動した通貨発行量を確保できない」ということを、金価格の定期的改定(つまり価格の値上げ)でもってカバーするという発想を付加していて、面白く組み立ててあります。

ただし、米国の金本位制は、以前当ブログで指摘しましたように、やはりドルが暴落して世界経済が混乱した場合に発動される可能性があるだけで、現実には現状の不換紙幣のドル機軸体制を維持することになるものと思います。

■ソロス・ファンドとポールソン・ファンドが買っている
公表資料では、ソロス・ファンドとポールソン・ファンドが金ETF(SPDRゴールド・シェア)を相当量保有しているようで、豊島逸夫氏の「金に何が起きているのか」(日本経済新聞出版社刊)の最初に出てきます。それによりますと、ソロス・ファンドは、2010年2月時点で、金ETFを5,585,947株保有しており、またポールソン・ファンドは2009年初頭に同31,500,000株を保有していることとされています。それ以外に金鉱山会社の株もかなり保有していますので、ファンドとしては随分と金に傾斜した運用構成です。

これらのデータは、四半期ごとの公開ですので、彼らヘッジ・ファンドの動きがタイムリーに把握できるわけではありませんが、ヘッジ・ファンドにしては結構腰を据えた中長期的投資行動であり、なぜ金が高騰しているのかという理解には十分役立ちます。金高騰の原因としては、①金融不安の中で各国中央政府が売り手から買い手に転換していること、②金鉱山会社がヘッジ売りからその買戻しに転換していること、そして③金ETFによって金投資需要が増大していること、の3つが大きいと考えられますが、特に③が一番影響が大きいものと思います。

既出の副島先生の著書によれば、世界の金の需給構成として、次のデータが掲載されています。

        2007  2008  2009年
新産金    2476  2407  2579
公的売却   481   232    41
再利用    956  1316  1674
供給合計  3912  3957  4287

宝飾加工  2401  2193  1759
工業用    671   696   658
退蔵需要   236   386   187
投資需要   158   330  1429
ヘッジ買戻  446   352   254
需要合計   3912  3957  4287
平均価格   695   872   972
(単位:トン、ドル/1オンス)

金需要の構成内容として、2009年に投資需要が大幅に増加していることが分かります。亀井幸一郎氏の「純金争奪時代」(角川SSC新書)によれば、2009年第1四半期での投資需要の約8割を占めるのが金ETFで、2010年2月17日現在の金ETF残高は1789トンとなっているそうです。

投資需要は、経済情勢が変化すれば、当然「売り供給」に早変わりしますので、金投資の中核である金ETFの存在とその動向には十分な注意が必要です。ヘッジ・ファンドの動向次第では、金価格の暴落も十分あり得る話です。

■今後の金価格動向は米国金利次第
結局のところ、金は利息や配当金のようなキャッシュフローを生みませんので、妥当な価格水準の計測が困難ですが、生産コストの面から言えば、最低価格の推定は可能です。それは、金価格が産金コストよりも低くなれば、当然生産が減少し、供給が細って価格低下に歯止めがかかることになるからです。既出の豊島氏の著書によれば、金鉱山の操業を長期的に維持できるコストは900ドルだそうです。

従いまして、今後の金価格の動向としては、米国金利が上昇を始めた場合が要注意であり、端的にはFRBが利上げに踏み切った段階から、金価格の下落が開始すると判断するのが妥当なところであると思います。逆に、金融緩和が長期化するのであれば、金価格はまだ上があるのかも知れません。ソロスやポールソンが保有している間は大丈夫とも言えます。ただし、下落したとしても、金の長期的生産維持価格が900ドルだとすれば、相場的なオーバーシュートはあるとしても、やがてはその前後で下げ止まると考えられます。

■日本は銀保有でも良い
米国が「部分的金本位制」を採用するような事態が到来したとしますと、円の為替相場はどうなるのでしょうか。おそらくは、一瞬大きく円安に振れるものと思われます。なぜなら、日本の金保有残高が諸外国に比較してあまりにも少ない(765トン)からで、高橋氏の著書によれば、また1ドル360円時代に逆戻りで大混乱、というようなことが想定されています。

しかしながら、日本は外貨準備としてのドルを多額に保有していますので、もし仮にドルが金に裏打ちされるのであれば、ドルの保有高の多さを前面に押し出してアピールするだけで、ドル円相場は適当な水準に収斂し、1ドル360円のような極端な円安にはならないものと思います。

日本政府は米国からの指示で、金の保有増額を禁止されているのではないかというウワサもあります。その真偽のほどは確認の仕様もありませんが、もし仮にそうだとしても、当室では単純に銀の保有を増額すれば良いのではないかと考えています。世界の歴史を見れば、必ずしもすべての国が金本位制であったわけではなく、中国も明の時代は一条鞭法に基づく銀納制で、その後、清朝では康熙帝時代から地丁銀制となりましたが依然として銀納制でした。

銀は金よりは価格的には安いですが、金価格に概ね連動しており、貨幣価値を裏打ちする担保力は十分ありますから、通貨安となった場合の対策として銀を備蓄しておくのも悪い方法ではないと思います。ちなみに、10月19日付の日経新聞によれば、過去40年間の金銀比価平均は52.8倍だそうで、現在それに近い比価53.8倍になっています(金1グラム約3500円、銀約65円)。

■ドル円の為替相場に注意が必要
なお、当たり前の話ですが、日本円で金投資を行う場合には、ドル円相場が大きく関係します。国内の金価格推移を見ますと、ドル建てで上昇しているほどには、円建てでの金価格は上昇しておりません。これは円高の影響によるものです。仮に高橋氏の想定通りに、米国が金本位制に復帰して、金価格が暴騰、円が暴落するような場合は、破格の大儲けとなりますが、一部のエコノミストが想定する1ドル60円のような円高になれば、損する可能性もあります。

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              (NY金5年チャート:フジフューチャーズ㈱による2010/11/01)
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              (東京金5年チャート:フジフューチャーズ㈱による2010/11/01)

■(※1)副島氏の算定根拠数値・・・金1グラム3500円、1ドル=90円、金1オンス=1102ドル。したがって、副島氏の言う「現在の3-4倍」の想定金価格は、1オンス4400ドルのレベルと思われます。
■参考文献
「金本位制復活!」(高橋靖夫著 東洋経済新報社刊 2009/12/10)
「副島隆彦の今こそ金そして銀を買う」(副島隆彦著 祥伝社刊 H22/9/20)
「金に何が起きているのか」(豊島逸夫著 日本経済新聞出版社刊 2010/9/21)
「純金争奪時代」(亀井幸一郎著 角川SSC新書 2010/3/25)
■なお、ソロス・ファンド等の持ち高については、次のHPが参考になります。
「海外投資家保有銘柄」 http://tommybrothers.blogspot.com/search/label/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%BC%E3%82%B8%E3%83%BB%E3%82%BD%E3%83%AD%E3%82%B9