日銀のREIT購入に対する批判は当たらない

■REITに対する一般的疑問点
J-REITについては、その商品性にいくつかの疑問点があり、いまひとつ投資に踏み切れないという人もいるものと思います。そうしたREITの商品性に一般の人が抱くであろう疑問点を整理集約したコラムが、今般の日銀によるREIT買入れ政策に関連して、10日の日経新聞夕刊の記事「十字路」に掲載されていましたので、ここに引用しておきたいと思います。

◆日銀がREITを買う前に(十字路)(2010/11/10, 日本経済新聞 夕刊)
「日銀が基金を設け、不動産投資信託(REIT)を購入する。日銀が不動産に目を向けるのは悪いことではないが、問題も少なくない。
まず資産デフレ対策にはならない。REITは床面積が広く、IT(情報技術)対応の優良なSクラスビルはほとんど組み込んでいない。株式でいえば新興市場銘柄の位置づけで、日銀が買っても全体の不動産相場の押し上げ効果はごくわずかだ。
次に株式投資信託などと違い、お金を借りて規模を膨らませて投資している。相場観が当たればもうけられるが、外れれば大損する。いま多くのREITがこの投機的な手法で含み損を抱えており、日銀による購入は投機の尻ぬぐいになりかねない。
商品性の遅れを指摘する声もある。不動産売買は売り、買い両方から3%ずつの売買手数料を取る。REITの運用会社は信託手数料も取るため、例えば10億円のREITの実際の不動産価値は9億円強。株式とは異なり古い手数料体系が残り、日銀が買えばそれを温存することになる。
REITでは運用物件をスポンサーである不動産会社から購入する例も後を絶たない。不動産会社が優良物件を抱え、下のクラスの物件をREITに押しつけているとの疑念が一部で持たれている。日銀が買い入れに当たって強調する「公正さ」とは相いれない面がある。
日銀が不動産のリスク・プレミアムを下げたいなら優良不動産の直接購入や、不動産会社の株価指数に連動した指数連動型上場投資信託(ETF)購入の方が効果は高い。REITを買い入れるのなら、親会社との取引の禁止、売買手数料の1%程度への引き下げ、レバレッジ禁止などを求め、それを満たしたREITを買えばいい。株式では上場は公正さの要件だが、それがすべての不動産に当てはまるとは限らない。上場不動産はREITしかないと購入するのは早計で、日銀はもう少し知恵を絞る必要がありそうだ。(花盗人)」
(以上引用)

■REITに関する疑問点のまとめ
このコラムの要点をまとめますと、次の疑問をREITおよび日銀の買取政策に対して抱いていることが分かります。
①REITは優良物件を組み込んでいないので、日銀がREITを購入しても、全体の不動産相場の押し上げ効果はごくわずか。
②株式投資信託などと違い、REITはお金を借りて規模を膨らませて投資しているから投機性が強い。
③多くのREITがこの投機的な手法で含み損を抱えている。
④不動産売買は売り、買い両方から3%ずつの売買手数料を取る。REITの運用会社は信託手数料も取るため、例えば10億円のREITの実際の不動産価値は9億円強。
⑤運用物件をスポンサーである不動産会社から購入する例も後を絶たない。下のクラスの物件をREITに押しつけているとの疑念がある。

■REITに投資上それほど大きな懸念はない
しかしながら、当室の見解では、これらの疑問点はすべて心配するほどのものではありません。

まず、①日銀によるREIT買取りの経済政策的効果については、すでに述べましたように規模的には不十分ですが、少なくともREIT価格の下支え効果は確実に持っています。そして、REIT価格がこれ以上下落しないという安心感が市場に拡大すれば、REIT市場の取引拡大につながりますし、REIT市場が規模的に拡大すれば、当然物件購入が増加しますので、不動産市場の活性化効果を有します。米国のREIT市場規模は27.7兆円(株式時価総額の2.4%)であるのに対して日本の規模は3.1兆円(株式時価総額の1.0%)であり、政策次第ではREIT市場拡大の余地はまだ十分にあります(※1)。最上位優良物件の保有数の多寡が、超重要とも思えません。

②の借金による物件購入があるのでREITは投機性が強いという見解は当たりません。無借金企業以外はすべての企業が、自己資本に借金を加えることで事業規模を拡大し、レバレッジをかけて利益額を増大させているのが普通です。借入れ金利を上回る総資本利益率が確保できるのであれば、借入れを起こして投資に回すのが正常な経営判断ですから、REITの場合だけ借入れ依存を「投機的」と称して悪者扱いするのは誤りです。一般の企業経営をご存じなくて批判しているのか、それとも知っているのであれば悪意を感じます。

③の借入れで規模を膨らませる「投機的手法で含み損を抱えている」という表現は、あたかもヘッジ・ファンドまがいの悪辣な方法が横行し、なおかつ失敗した含み損が多額に存在するような連想を誘います。しかしながら、それはこの「十字路」の筆者の誤認であると思います。もし仮にこの筆者の主張通りであるとするならば、当該REITが少なくとも「AA」ゾーンの格付けを取得することは不可能です。格付け会社は、不動産の含み損益についても一定の査定をし、格付けに反映させています。

④はいまひとつ意味が理解できない部分がありますが、不動産の取得費用を簿価に含めて計上する税法の話ではないかと思います。不動産の簿価は、不動産自体の取得価格以外に、その取得に要した費用も合算計上することとされています。簿価が水増しされていることが主張の趣旨のようですが、これは企業の経理処理ではごく一般的なやり方であり、REITに特有の話ではありません。

⑤は、REITのスポンサーによる不良物件の「はめこみ」問題です。しかしながら、どこから購入するかは、大した問題とは思えません。仮に「はめこみ」の事実があって価値の低い物件を多数保有しているとするならば、「AA」のような上位の格付けが取得できないだけの話です。

以上、本件「十字路」は、REITに対する疑念を針小棒大に悪意をもって主張しているということが明らかです。現状、J-REITも淘汰される過程にありますので、既存のものが次第に整理統合され、あるいはまた名の知れた大資本の傘下に組み入れられして、少しずつ格付けの高いものばかりに集約されて来るものと思います。日銀のように「AA」格以上の個別REITか、あるいは当室のようにREIT投信、REIT-ETFを購入する限りは、それほど余計な心配は要らないものと考えられます。

(※1)㈱住信基礎研究所のデータ(2010.9.30)による。 http://www.stbri.co.jp/market/jreit_index.html#anchor03

画像
               (東証REIT指数連動型上場投信チャート3年間:SBI証券による)