山崎元、水瀬ケンイチの両氏による「ほったらかし投資術」

■「ほったらかし投資術」の論点
山崎元、水瀬ケンイチの両氏による「ほったらかし投資術」という楽しい著作が発売され(※1)、当室管理人もさっそく購入して読んでみました。その中で、インデックス・ファンドについて再度確認できた論点は、次の点です。

①インデックス・ファンドは、アクティブ・ファンドには「負けない」。
②あらかじめ、どのファンドが勝てるファンドなのかは不明で選択方法がない。
③手数料はアクティブ・ファンドよりもインデックス・ファンドの方が安くて有利。
したがって、インデックス・ファンドへの投資が有利であり、手間いらずで合理的なお金の運用ができる。

④たとえ景気変動の波があっても、インデックス・ファンド運用は頑健で安定的。
⑤アセットアロケーションとしては、国内株:先進国株=6対4~4対6の範囲内であれば、国内株単独の運用よりもリスクを小さく出来る。
⑥年1回、リバランスを実施することが重要。

■インデックス運用の是非
しかしながら、これらの事実は、運用対象としてアクティブ・ファンドよりはインデックス・ファンドを選択するという理由付けにはなり得ますが、運用対象をインデックス・ファンドに限定する理由とまではできません。

インデックス・ファンドは「負けない」とは言っても、常に市場平均値という意味で「負けない」というだけのことですので、市場平均値自体がマイナス運用となってしまえば、それに連動してインデックス・ファンドもマイナス運用となってしまいます。マイナス運用は明らかに「負け」ですので、市場平均値がマイナス運用ですとそれと一緒に連動して負けてしまうという点がインデックス・ファンド最大の問題点であり、また市場に大きく依存する商品特性上の弱点でもあります。

この点は、「長期的な世界経済の成長によって結果的に変動が均されてしまうから問題なし」という強度に他力本願的な信仰に近い信念でカバーする他はなく、マクロ経済動向に立脚した積極運用がテーマの当室としてはかなり不本意な想定となってしまいます。

当室とて、多分当面は世界経済は成長を継続するとは思いますし、インデックス・ファンドへの投資も今後間違いなく実施します。そして、10~20年後に運用結果を検証すれば、当室独自のアクティブ・インデックス混合運用よりも、「ほったらかし」でドルコスト平均積立投資によるインデックス・ファンド単独運用の方の勝ちかも知れません。

けれども、世界経済全体のプラス成長により、「長期的には運用実績のでこぼこが均されて結果的にはプラス運用になる」とは言ってみても、それは過去の経験則に立脚しているだけで、今後についてはその保障はなく、不確定であることは否定できません。確かなのは、資本主義経済である以上、「景気変動が今後も存在する」ということだけであって、もう一つの「世界経済全体が今後もプラス成長を継続できる」という想定の方は、結構不透明です。事実、日本経済も、かつてのバブル華やかなりし1990年頃には、そのあと間もなくデフレが到来し、その後現在まで20年もの長期間ずっとデフレが継続するなどという事態は、その当時は到底予測不可能でした。

したがって、マクロ経済的景気変動による売買差益の獲得を捨象して、プラスの持続的経済成長の方だけに賭けてしまうというのは、今後10年、20年という期間を想定した場合に、リスクがやや大きいように感じます。

■日本経済新聞による個別株時価総額増加率ランキング
12月25日付の日本経済新聞に、過去20年間における日本経済が停滞する中での個別株時価総額増加率ランキングが掲載されていました。これは、株式投資の成果を検証する上で、かつまた今後の投資の参考データとして、相当な示唆を含んでいるように思いますので、注記に全文を掲載しておきました(※2)。

当該記事の中での注目点は、次の事柄だと思います。

①1990年末からの20年間で日経平均株価は57%下落した。
②2009年暦年の1人当たり名目国内総生産(GDP)は369万円と90年比3%の増加にとどまった。
③ドル換算した日本の1人当たりGDPは経済協力開発機構(OECD)加盟国で8位から16位へ落ち込んだ。
④バブル崩壊後「失われた20年」といわれる日本経済の停滞期に、高い成長率を維持し株式時価総額を伸ばした企業は、得意分野で海外市場を切り開いた企業や、M&A(合併・買収)で規模を拡大した企業である。
⑤業種で多いのがハイテク機器や自動車の「部品・材料」と「医療」。新興国勢がまねできない高い技術力を誇る部品・材料と、高齢化社会に対応した医療が、日本企業の中長期的な成長分野であることを示した。

本件記事は、時価総額を20年前の1990年末と現在とで単純に比較したデータですので、増資なども含まれているはずですから、単純に株価の値上がりで「儲け」が何倍になったかという発想は適用できませんが、次の事柄は指摘できるものと考えられます。

(1)日経平均株価は57%下落しているため、インデックス・ファンドで、20年前から日本株を対象として投資していた場合は結構大きな損失が出ているものと推定されます。
(2)ただしその中で、成長分野を確保している個別企業の株は時価総額を大きく伸ばしています(ただし、増資部分は減額修正が必要)。

この事実は、「アクティブ・ファンドには負けない」、あるいは「手数料が安い」、「手軽に広く分散投資が可能でリスクを抑制できる」といったインデックス・ファンドの長所と思われる商品性をもってしても対応不能な別次元の要注意点であり、十分に考慮しておく必要があります。必ずしも「インデックス・ファンドによる長期運用=安心」ではないということです。

■国内株、外国株のリスク想定
「ほったらかし投資術」で山崎氏が提供している国内株、先進国株のリスクデータを見ますと、国内株が18.04、先進国株が19.51となっていて、当室の感覚ではそれほど大きな違いはありません。また、アセットアロケーションの計算結果として提示してあるリスク度合いを見ても、次のようになっており、株のリスクにやや鈍感な当室としては、その差異にあまり意味を感じないところです。

国内株6、先進国株4・・・16.86%
国内株5、先進国株5・・・16.95%
国内株4、先進国株6・・・17.19%
国内株10、先進国株0・・・18.04%
国内株0、先進国株10・・・19.51%
なお、期待リターンは、国内株、先進国株ともに6.00%としています。

この程度の差異であれば、内外の投資配分をわざわざ考えないで、国内株単独投資でも我慢できなくはないと思います。あるいはまた、内外経済の連動性、一体化が進行していることを考慮すれば、内外投資の配分割合はそれほど重要ではなく、株か債券か預金か不動産か、というような商品上の投資配分だけを決定すれば良いのかも知れません。(国内株の期待リターンが6%という実感はなく、想定としてやや高過ぎでは・・・)

なお、投資上考慮すべきリスクというものの対象は、過去の変動率統計だけに限定せずに、もっと本質的なリスクである経済成長率の鈍化や、マイナス成長に陥る可能性というものが加味される必要があるのではないかと思います。それは統計的手法では把握不能ですので、多分投資理論としてまとめて学問にするのは困難だとは思いますが、ボラティリティーだけをリスクと捉えるのでは不十分でしょう。

人間の本能として、リスクとはもっと本質的な危険(最悪は戦争や国家破綻、そして人口減少、高齢化等)を想定し、予測しておくべきものだと思います。その本能に基づく直感として、当室のアセットアロケーションは、国内6、外国4と設定していることは、毎月分配型リート投信の実績開示を先のブログで行った時に示した通りです。

■ひとつの重要な留意点についての追記(2011年1月2日)
「ほったらかし投資術」での論考内容について、上記のように当室が不安に感じている点の正体は、同書におけるアセットアロケーション上の債券投資概念が希薄なことにあり、同書では広く分散投資を目指す株式インデックス・ファンドに関する解説が詳細なのに対して、アセットアロケーションの基本投資対象の一つである債券インデックス投資に関する説明が乏しくなっていることにあります。

その原因は、山崎元氏の基本コンセプトにあるものと思います。実際に、山崎氏は、「ほったらかし投資術」の中で、以前の著作である「超簡単 お金の運用術」での基本概念に触れて、次のように説明されています。

「多少の予備も含めて、当面必要な数カ月分程度の生活費になるお金を普通預金に入れて置いて、残りは全て内外のインデックス・ファンドの組み合わせ(その本では、国内株4割、外国株6割)に投資してしまっても、多くの人にとって問題はないだろう、という趣旨のことを書きました」

今回の「ほったらかし投資術」においても、株式インデックス・ファンドを重視する同氏の基本姿勢に変化はないようで、「コラム インデックス・ファンドのアセットアロケーションについて」という項目の中でも、ごく簡単に、国内債券への投資配分を42.47%とし、残りを内外のインデックス・ファンドに投資するという説明になっているだけで、後の文面はほぼ全てが株式インデックス・ファンド関係の説明となっています。

また、同書で「商品ガイド編」として掲載されている「インデックス・ファンド、ETF商品完全ガイド」という項目も、中身は文字通り全て株式インデックス・ファンドと株式ETF商品の説明であり、債券インデックス商品の説明はゼロです。

つまり、この本は何故か債券投資への関心が薄く、かつまた解説もほぼ皆無で、債券価格の変動による経済変動の緩和効果をおおむね捨象して投資を考えており、山崎・水瀬両氏のファン以外で初めて読む人は、株式インデックス・ファンドだけで投資対象が十分網羅されるかのような偏った印象を持ってしまう可能性が大と言えましょう。

しかしながら、インデックス投資家の巨頭バートン・マルキール、チャールズ・エリス両氏による最近の著作「投資の大原則」には、「適切な分散投資のためには債券への投資も必要であり、また、個人投資家が債券を所有するにはインデックス・ファンドが最も効率がよい」という説明があって、株式インデックス商品と並んで、債券インデックス商品の実例が掲載されています。それは当然ながら、同書の説明する通り、「優良な債券投資信託は、株式市場が大きな上昇や下落に見舞われたとき、それを相殺するような動きをしてリスクを緩和する」からであり、分散投資の徹底を旨とするインデックス投資家が当然取るべき基本スタンスと言えるからです。

もっとも、徹底した分散投資という原則を遵守するかどうかは投資家個人の自由であり、またそれに付随する結果も自己責任であります。

なお、今後の金利上昇局面では債券は値下がりする可能性が高いため、当室は、意図的に債券インデックス商品への投資は避ける予定です。現状存在していないようですが、米国債券ベア・ファンドとして適当な商品があれば、投資対象の一つとして考慮することは可能でしょう。

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◆(※1)「ほったらかし投資術」(山崎元、水瀬ケンイチ著、朝日新書、2010年12月30日)

(以下引用)
◆(※2)「失われた20年」の時価総額増加率、1位はユニ・チャーム(データ解読)」 (2010/12/25, 日本経済新聞 朝刊)

「バブル崩壊後「失われた20年」といわれる日本経済の停滞期にも、高い成長率を維持し株式時価総額を伸ばした企業はどこか--。20年前の1990年末と直近の株価を比べて、企業の市場価値を示す時価総額の増加率をランキングしたところ、1位はユニ・チャーム、2位はトヨタ紡織、3位は日本電産となった。
20年前と比較可能な上場1418社(新興市場企業は除く)を対象に日本経済新聞が集計した。
上位には、国内市場が縮むなか得意分野で海外市場を切り開いた企業や、M&A(合併・買収)で規模を拡大した企業が目立つ。業種で多いのがハイテク機器や自動車の「部品・材料」と「医療」。新興国勢がまねできない高い技術力を誇る部品・材料と、高齢化社会に対応した医療が、日本企業の中長期的な成長分野であることを示した。

90年末からの20年間で日経平均株価は57%下落した。2009年暦年の1人当たり名目国内総生産(GDP)は369万円と90年比3%の増加にとどまり、この間、ドル換算した1人当たりGDPは経済協力開発機構(OECD)加盟国で8位から16位へ落ち込んだ。

だが日本経済が停滞した「失われた20年」を、「成長の20年」とした企業は多い。ユニ・チャームの時価総額は715億円から10倍近い6850億円に拡大した。00年代から海外展開を本格化し、東南アジアや中国などに販路を広げて、91年3月期に約40億円だった海外売上高は20年後の今期、当時の40倍以上に膨らむ見通しだ。
紙おむつや生理用品など吸収体の世界シェアは約7%で、米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)、米キンバリークラークに次ぐ3位。高原豪久社長は「数年内に世界シェア10%を獲得したい」と話す。
11位のホンダや13位のスズキなども新興国需要を確実に取り込んでいる。スズキは80年代からインドで四輪車の生産を始め、今やインドの乗用車市場で5割近いシェアを握る。現地の四輪子会社は10年4~9月期に、スズキの連結営業利益の4割弱を稼ぎ出した。
日本電産や7位の三菱UFJリースなどは積極的なM&Aが時価総額の増加につながっている。
電機大手が上位に1社もないのと対照的に、得意分野で圧倒的なシェアを握る電子部品・材料メーカーが存在感を高めた。日本電産はハードディスク駆動装置(HDD)用精密小型モーターの世界シェアが約8割。15位のHOYAはHDD用ガラス基板の世界シェアが6割強だ。自動車部品会社もトヨタ紡織やケーヒンが上位に入った。
この20年、人件費が安いアジア企業の台頭で日本の加工・組み立て産業は激しい価格競争に巻き込まれた。一方で、アジア企業が追随できないような高付加価値な部品や材料を作る会社は高い利益率を確保し続け、株式市場でも多くの投資家の支持を集めている。」
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(以上引用)