中長期的には外貨(外債)投資は儲からないか(1)

■「中長期」の定義
「中長期」という言葉には、人によって解釈に幅があるため、或る意味で使い易い言葉であると思います。当室では、曖昧さを排除する目的から、トップページに特に次のように定義して掲載しています。

[当室で使用する用語の定義]
  短期・・・1年以内、中期・・・2-5年、長期・・・5年以上

これは概ね銀行貸出しにおける期間の定義と一致しているようですので、定義付けとしては妥当なところでしょう。ちなみに、銀行貸出しで「短期・長期だけの2区分」とする場合は、1年未満が短期、1年以上が長期ということで、1年が両者の区切りとなっているようです。

ところで、資産運用の説明をする場合に、「中長期投資」だとか、「中長期的にはこうなるはずだ」とかいった表現が散見されます。しかしながら、中長期とは、大体何年くらいを想定して使用しているのかは曖昧な場合が多く、一体何年くらい経過すれば投資結果がどう出るのかは、余りにも漠然としていて、いかにも無責任と言わざるを得ない「説明」が多数見られます。

仮に「中長期」という言葉を定義していなければ、たとえ10年経過して成果が上がらなくても、「長期的にと言っているのだから、さらに10年待ってみてください、20年くらい経過しないとダメです」というような逃げの抗弁も成立してしまいます。

とはいえ、「中長期的にこうなるはず」という主張内容が、蓋然性の高い法則性を持つものであるならば、少なくとも10年、長くても20年経過すれば、相応のトレンドだとか、あるいは予兆、気配、傾向値、雰囲気などといったものが感知できるはずです。にも拘らず、そうした「相応の妥当性」が少しも看取できない「長期理論」の説明や論説は、おそらくは間違いや勘違いの類か、そうでなければ大勢に影響のない話と見て良く、少なくとも投資に役立つ理論や論説ではありません。

主観的には、実際問題として、「長期=30年以上」と言われても、運用資金を取り崩して使う前に寿命の方が先に到来してしまいそうな感じですし、あまり高齢になってからお金を使って豪華な食事を食べたとしても、おそらくはそれほど美味しくはありませんので、当室の定義としては、自分本位に「長期=5年以上20年以内、20年超は超長期」としておきたいと思います。

■購買力平価説は外為相場形成要因の一面しか見ていない
ところで、外国為替相場は、インフレ率を調整計算した各通貨の実質価値だけを中心に変動するのではありません。

たとえば、購買力平価説に基づいたよくある理論的解釈で、「高金利国通貨には投資しても中長期的にはインフレで通貨価値が下がるから儲からない」という論旨の説明をする人がいます(※1)。確かに、「高金利なのは、インフレ傾向が強いからだ」という解釈は間違ってはいませんし、「インフレが進行すれば通貨価値が下落する」という解釈も、全くその通りです。

しかしながら、「インフレで通貨価値が下落する」という解釈は、当該国の国内で成立はしますが、対外的にまで成立するとは限りません。単純に、「インフレ率を考慮した通貨の実質価値の比較結果でもって通貨の交換レートが決まる」と考えるのは、いささか視野が狭いように思われます。なぜならば、為替レートを動かしている要因としては、他にもいくつか存在するからです(※2)。

購買力平価説は、各国のインフレ率のみに着目していますが、実際のところは次の主要な経済要因がインフレ率とセットになっています(いずれもインフレ国の場合。低インフレ国やデフレ国は逆)。

(1)DGP成長率高め・・・通貨高要因(海外投資資金流入)
(2)インフレ率高め・・・通貨安要因(通貨価値下落)
(3)政策金利高め・・・通貨高要因(海外投資資金流入)
(4)通貨供給量を当局が縮減・・・通貨高要因(通貨供給量<通貨需要量)

GDP成長率が高めですと、インフレ率も高めとなり、インフレ抑制の観点から当局は通貨供給量を制限して政策金利も高めに誘導することとなります。逆に経済が不振の場合は、インフレ率はゼロに近いかマイナスとなり、政策金利は低めに誘導されます。

上記のインフレ率以外の他の3つ経済要因を捨象してしまうか、あるいは偶然3つとも条件的に相対的静止状態に近い場合は、2国間のインフレ率の差によって為替レート動向の説明が付いてしまう可能性は生じますが、実際のところは、そう単純な状況にはなりません。それは「長期」という若干都合の良い期間設定でも同じことです。

しかも、インフレ率を考慮した通貨の実質的な価値というのは外国からは把握しにくいため、インフレ率の差は現実の為替レートには、頭で想定するほど簡単には反映しにくいものと言えます。

以上の事柄から考えて、思い切りよくインフレ率だけで一国の経済状態を代表させ、これを実質通貨価値に反映させて為替レート動向決定の強力な要因と見なしてしまうことは、現実にはいささか困難でしょう。

換言すれば、以前少し考察しましたように、購買力平価が単純に為替レートを決定しているのではありませんし、「現実の為替レート」が購買力平価に向かって必ず鞘寄せするものでもないということになります。

購買力平価説が「説」であって「理論」と称されていないのは、説明力の優れた有力な一つの考え方ではあっても、一般的通用力がやや不十分だからです。

◆(※1)たとえば、2011年7月4日付の日本経済新聞特集記事「Monday Nikkei」。見出しとして、次の文言が並んでいます。
「長期の外貨投資『購買力平価』軸に」
「インフレ通貨下落も」
「『モノ買える価値』、為替を左右」
「高金利通貨、『お得』と限らず」

日経新聞による購買力平価の定義では、「購買力平価は、為替レートは2つの国の通貨の購買力(モノを買える価値)が同じになるように決まるという考え方。インフレ率の高い国の通貨は、同じお金で買えるモノが少なくなるので、長期的には価値が下がる」とされています。

日経新聞も、「短期~中期(数年規模)では為替は金利差など様々な要因でめまぐるしく変動する」と認めていますが、「しかし、長期は別。」と断定し、「プロの間で『長期では為替は購買力平価を軸に動く』のは常識。」とまで言い切ってしまっています。ここまでは言い切らない方が後々のためでしょう。(ここまでが(※1)の内容です)

◆(※2)自由主義経済では、ほとんどの物や商品は需要と供給によって価格形成がなされることは、みなさんご承知の通りです。一国の通貨についても同様で、通貨需要量が多いかあるいは通貨供給量が少なければ当該通貨は値上がり、つまり金利が上昇しますし、逆に通貨需要量が少ないか通過供給量が多ければ当該通貨は値下がり、つまり金利が低下します。

二国間の通貨であれば、需要量が多い方の通貨(供給量が少ない方の通貨)が交換レート的に値上がりし、逆に需要量の少ない通貨(供給量の多い方の通貨)は値下がりします。

ただし、そこには政策当局の経済政策が入りますので、政策方針に基づき、金利水準は当局が通貨供給量の操作を通じて管理・調整しています。景気が良くて通貨需要量が拡大する場合は、当局が通貨供給量を減少させて金利を引き上げる方向に誘導しますし、景気が悪い場合は金利を低下させる方向に誘導します(この考え方にも異論が存在します。あくまでも当室の見解です)。

従いまして、国内で言えば、通貨の需給バランスは金利水準を見れば分かるということになります。(ここまで(※2))


■実際の外為チャートでの大まかな把握
購買力平価説は外為相場動向を説明するための有力な説ではありますが、上記の通り、その理論的一般性は必ずしも高いわけではないと当室は解釈しています。

もし理論的一般性が高いのであれば、主要通貨(米ドル、ポンド、ユーロ、円、スイスフラン、カナダドル、豪ドルなど)間の長期的相場動向が、概略にしろ一様に説明できてしまう必要があります。逆に、あまり例外が多いようですと、理論的一般性があるとは言えません。

そこで、その確認作業として、まずは、日本円と比較して高金利通貨の代表と言える豪ドルの対円レートのチャートを見てみましょう。円は低金利で経済はデフレ傾向を持つ国の通貨ですから円の価値は増価傾向にあり、購買力平価説に従えば、対外的には基本的にどの通貨に対しても「円高」傾向を持つはずです。

しかしながら、この十分に「長期」と言える20年月足チャートを見る限り、豪ドル・円レートは、一定幅で変動しているということが判明するだけで、特段の円高・豪ドル安トレンド、あるいは逆の円安・豪ドル高トレンドといった方向性は読み取れないというのが正直なところです。

(A)豪ドル・円
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インフレ傾向のある高金利通貨豪ドルは、この20年という期間に、実質価値は相当減価しているはずですし、逆にデフレ傾向の日本円は増価しているはずですので、購買力平価説の理屈通りであれば、当然「円高・豪ドル安」という流れが看取できるはずです。

しかしながら、それが読み取れない以上は、「豪ドル・円レートは実質通貨価値とは別の要因で変動している」ということにならざるを得ません。すなわち、少なくとも外為市場参加者(プロ)の大勢は、20年間という「長期」であっても、「豪ドル・円取引では、インフレ率やデフレ率を考慮した通貨の実質的価値の増減は重視していない」ということになります。

どのような要因でこうしたチャートが形成されているのかは、また後日分析してみたいと思いますが、極度に円高に振れた場面があれば、当室としては資金投下したくなる変動幅を持ったチャートではあります。

同様に、ユーロ・円、スイスフラン・円、カナダドル・円、ポンド・円、米ドル・円レートの各30年チャートを順に見てみます。ポンドと米ドルは比較的明確な円高傾向が見て取れますが、その他はトレンドとして必ずしも円高傾向とは言い切れず、カナダドルとスイスフランは最近は円高トレンドが停止していることが分かります。

(B)ユーロ・円
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(C)スイスフラン・円
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(D)カナダドル・円
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(E)ポンド・円
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(F)米ドル・円
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(チャートはいずれも The Pacific Exchange Rate Service による → http://fx.sauder.ubc.ca/plot.html

なお、1985年近辺の急激な円高は、プラザ合意によるものです。戦後まもなく設定された1ドル=360円という為替レートは、日本経済救済のための米国による意図的な割安設定であったという見解を当室は持っています。その修正がプラザ合意です。従いまして、1985年近辺の急激な円高チャートは、購買力平価の影響というよりは、国際政治的な相場修正局面と解釈するのが妥当と考えます。

以上、手元に各種の長期経済データが十分にないので、外為チャートによる大づかみな説明しかできませんが、説明の趣旨はご理解いただけるものと思います。

長くなりましたので、続きは次回にしたいと思います。

[まとめ]
①購買力平価説は、世間で言われるほど説明力があるとは思えない。
②それは検証期間を「長期」と設定しても同様。
③購買力平価説の一般的説明力を示すためには、ドル円レートだけでなく、他通貨対円、あるいは円以外の他通貨同士においても検証が必要。