中長期的には外貨(外債)投資は儲からないか(2)

■インフレ率のチャート
前回は、主要国対円レートのチャートを掲載し、対米ドルと対英ポンド以外は、「長期」と言えども必ずしも「購買力平価説通りの円高傾向が看取できるとは言い切れない」ということを示しました。今回は、まずはその参考データとして、インフレ率の推移チャートを掲載しておきたいと思います(なお、英国とユーロは掲載年数が他と違いますのでご注意ください)。チャートだけですので、感覚的ではありますが、概ね想定通りインフレ率は日本が一番低そうです。

(1)日本
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(2)米国
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(3)英国
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(4)カナダ
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(5)ユーロ
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(6)スイス
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(7)オーストラリア
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(上記チャートは、すべて 「Trading Economics」による。→http://www.tradingeconomics.com/inflation-rates-list-by-country

■購買力平価説にゆらぎがある以上、外債投資と国内債投資の長期利回り(期待リターン)は同一になるとは限らない

上記の購買力平価説(インフレ率を反映させた実質通貨価値が2国間の為替レートを決定するという説)の延長線上に、「外債投資は国内債投資と長期利回り(期待リターン)的には同じになる」という考え方も存在します(以下、「内外債券利回り同一説」と呼ぶこととします)。

先に触れた日本経済新聞(2011年7月4日付)によれば、次の説明がしてあります。

「購買力平価の考え方が分かると単純に『高金利通貨に投資すると得』とは言えないことが理解できる。高金利の国はインフレ率が高いことが多く『そうした通貨には脆弱性があり、通貨下落で高金利のメリットが失われるリスクがある』」

そして、「過去30年間の日本債券と海外債券の総合リターン」という次のグラフが掲載されておりまして、「ずっと海外の金利の方が高かったのに、30年間では金利と価格変動を総合したリターンはほぼ同じだ」という明快な解説が付記されています。
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 (日本経済新聞(2011年7月4日付)

しかしながら、すでに実際の各国通貨対円レート・チャートを掲げて説明して来ていますように、購買力平価説では為替レート動向を必ずしも説明できていないと解釈するならば、同説に立脚したこの「内外債券利回り同一説」の考え方もまた「理論上そうなる」というレベルの話であり、現実には適用できない場面も多数存在しているものと思います。

事実、上記の日経新聞のグラフに掲載されている「シティグループ世界国債インデックス」は、いかにも海外の債券の集合体の代表かと思わせる名称ではありますが、その中身を確認しますと、日本国債が32.15%、米国国債が25.90%、その他ユーロ圏先進国が40%弱となっています(※1)。これでは内外運用利回り比較の代表指数として例示するのは、いささか不都合ではないでしょうか。

運用利回りが国内と同一の日本国債、および円高傾向が明らかな米ドル国債の2つで、全体の6割近くを占めていれば、当然のように結論は見えてしまいます。しかも30年間という設定は、1985年のプラザ合意前後を挟んだ設定となっていますから、帰趨は一層明らかです。自説の論証補強にしては、設定がやや恣意的な例示と言えましょう。もっとも、他に適当な指標がないだけなのかも知れませんが。

当室の結論としては、購買力平価説は一般的説明力がやや不足しているため、それに立脚した(同一通貨換算での)「内外債券利回り同一説」もまた、説得力は不十分ということとなります。

それにしても、日経新聞に同時に掲載されていました「見事な」購買力平価曲線の次のグラフは、検証済みの本当に正しい内容のものなのでしょうか。当室の印象では、あまりにも一致度が高そうであるが故に、やや「?」な感じがしています。
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 (日本経済新聞(2011年7月4日付))

◆(※1)次の一覧表の通り、2011年6月時点のデータで見ています。それ以前の明細は確認していませんので、過去から継続的に当該比率が維持されていたかどうかまでは確認できておりません。
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 (Citigroup Global Markets Japan Inc.より)


■山崎元氏の「資産運用実践講座Ⅱ」による「外債運用の期待リターン」
ところで、「内外債券利回り同一説」は、上記のように購買力平価説に基づくものと思っていましたら、山崎元氏は、その著書「資産運用実践講座Ⅱ」の中で異なった説明をしています。簡単に言えば、「内外金利差による為替レート調整説」(と勝手に呼びます)です。次に、同書から該当部分の要点を抜粋しておきましょう。

①基本的に、外貨建ての金利が高くても低くても、あるいは為替リスクをヘッジしてもしなくても、信用リスクが同等な債券の期待リターンは、国内債券の期待リターンとそう大きくは違わない。
②例えば、A国通貨をB国通貨に交換して運用した場合と、A国通貨でそのまま運用した場合とで、期待される運用利回りに差がなくなるようにA、B両通貨のフォワード・レートが決定されている。
③つまり、A国通貨のままで運用しても、B国通貨に交換して運用しても、期待リターンは同一となる。
④基本的にこの関係が維持されるように、為替レートと両国の金利が決定される。

山崎氏は外貨運用に関して、高金利国の対円先物レートが、両国の金利差を帳消しするような円高レベルに決定されるディスカウント体系を重視して取り上げ、その裁定機能により、先物予約をしてもしなくても、期待リターンは同一と解釈しています。

これだけの説明ですと、正直なところ、どうもうまく理解できません。豪ドルのような対高金利通貨のフォワードレートが先高(円高)となることは理解していますが、そのことがオープンの場合(=為替予約なしの場合)の外貨運用利回りまでも下げてしまう理屈がいま一つ不明です。仮にこの「内外金利差による為替レート調整説」が成立するのであれば、過去・現在・未来と、低金利の日本円は各通貨に対してずっと円高基調でなければならなくなるという気がします。

確かに為替予約の先物レートは、相手通貨が豪ドルのように日本円よりも金利が高ければ、期日が先の予約ほど円高となる体系が形成されます。その理由は、スポットレートが仮に86円で先物レートが同一の86円であれば、誰もが高い金利で利息を稼ごうと行動するが故に、市場の裁定が働いて両通貨の利回り差が消滅する値まで先物レートが円高となったところで為替需給が均衡するからです。

数値例を示すならば、豪ドルのスポットレートが86円、1年後の先物レートが同じく86円、日本円の預金金利が0.1%、豪ドルの1年定期預金金利が4%とすれば、1年間豪ドル定期預金で運用してから円転すれば、約4万円の利息が付与されることとなります。しかし、金利差がある通貨間ではスポットレートと先物レートとは金利差分が打ち消されるように裁定機能が働いて調整が発生しますので、1年先期日の先物レートは3.99%分円高の82.70円と設定され、円を豪ドルに変換して1年間運用して再び円転したとしても、日本国内で運用したのと変わりない利回りとなってしまうという理屈です。

高金利通貨と日本円との間のそうした直先(じきさき)の為替予約のディスカウント体系が存在することを考慮するとしても、現実にはスポット為替レート自体が、既述の通り、循環的変動チャートを描いているケースも存在するわけですから、直先のスワップ予約を締結して最初から利回りを確定させていない限りは、高金利通過を円高時に円転すれば利益が減少しますし、円安時に円転すれば利益が拡大する結果となります。

したがって、「中長期的」運用利回りと言えども、当然ながら外貨運用期間経過後の円転時のレート次第で大きく結果が異なることとなります。そしてそのレート水準は、必ずしも或る時点の先物円高体系に準拠した大人しいものではなく、時間の経過とともに大きく変動して行きます。故に当然結果も大きく異なります。

「内外金利差による為替レート調整説」が成り立つとするならば、金利差が存在する限り、過去・現在・未来という時間軸の中で、ずっと円高が進行しなければならなくなりますが、前回示したチャートのように、現実には米ドルとポンド以外はその様にはなっておりませんし、対米ドル、対ポンドでも、いつかは円高も停止するはずです。むしろ金利差が小さいが故に、2国間の通貨供給量増加率の差が影響して円高になっているとも見られます。

■暫定的結論
以上の結論として、高金利通貨は表面利回り的に得とは言えますが、それよりも為替変動による円元利金価額への影響が大きいため、運用の成果上は、開始と終了の円投・円転のタイミングの方が一層重要と言えます。それらしい理屈よりは、現実的な各通貨のレート実態や変動性質を把握する方が安全でしょう。

たとえば仮に1豪ドル=86円で運用をスタートし、4%で1年間運用し、また1豪ドル=86円で円転して終了できれば、明らかに国内運用の0.1%金利よりは利益が出たこととなりますが、1年後の豪ドル円レートが仮に80円であれば利息部分が消し飛ぶ大損ですし、逆に90円であれば利息分以上に利益が伸びてしまいます。すなわち、儲かるかどうかは、その時々の(開始時と終了時の)為替相場次第だというとです。

そしてこのことは、運用期間が10年であっても、20年であっても、基本的には同様です。先物の為替予約でもって事前に出口のレートを確定させない場合(オープンの場合)については、「先物円高の為替予約体系を想定して中長期的には高金利の外債投資の利回りは低金利の国内投資の利回りと同レベルとなる」という解釈には少し無理があると考えられます。

なお、以上の説明から少し離れて、別な見方をすれば、「金利の高い国はインフレ傾向が強い国」ということですから、「通貨価値が下落傾向にある国」と理解でき、そうであるならば購買力平価説と本筋は同じ理屈ということも可能かも知れません。

また、期待リターンの計測・設定には、山崎元さんも苦慮している様子が複数の著書の中で伺えます。過去実績の延長やバックデータ検証だけではダメだという点は、山崎さんも断言していますが、そうは言っても各種予想シナリオや予想経済成長率等の様々な要素と、その選択やウェイト付けなどの主観が交錯する中では、結果的には過去実績の延長と大きな差異は出にくいのではないかと当室管理人は勝手に想像しています。

それよりは、運用途上のその時々において、経済情勢とチャートを頼りに間近な予測をする方が現実的ですし、当室のアバウトな体質に合っていることだけは確かなところです。