EU首脳、危機対策で合意 各国認識の違いも露呈/ウォールストリート・ジャーナル日本版より

欧州債務危機問題は、予想外のEU首脳による危機対策合意で一段落した印象があります。

同首脳会議では、来年から救済基金を通じて銀行に直接資本を注入することを認めたほか、救済基金による国債買い入れでも合意し、また、欧州中央銀行(ECB)を中心に域内銀行監督制度を統一することを決定しました。格付け会社フィッチも、その点をプラス評価しています(※2)。

しかしながら、細部については、一筋縄では行かない情勢が感じ取れます。ウォールストリート・ジャーナル日本版では、その混沌とした点が次のように指摘されています(※1)。

①EUの結束を示す合意について、各国毎に様々な条件付けがあり、それらが一致していない。
②フランスのオランド大統領は、ドイツやオランダ首脳とは全く異なり、欧州各国が全て一致しなくても各種決定ができるようにESMの規則が変更された、と説明したが、その解釈はESM条約に合致していない。
③ドイツのメルケル首相は、従来の交渉姿勢とは大きく変化した28日深夜の交渉でもドイツは何も譲歩しなかったことを自国記者団に強調し、ESM条約の意に沿わない全ての部分については、ドイツ議会が拒否する権利を留保していると述べた。
④メルケル首相はまた、ユーロ圏諸国が政策上の追加的制約なしに救済資金の拠出を受けられるとした同日の合意のもう一つの柱について、ドイツが大幅譲歩したのではないとし、「従来方針通りの結果だ。何か(資金供出)を得るには、何かを差し出す、つまり諸条件と監督だ」と述べた。
⑤同日の各種合意の大半は各国が全員一致で将来の「銀行同盟」の第一歩となる銀行を監督する新組織を発足させられるかどうかにかかっている。

この報道が事実であれば、大きな方向性が決定した以外の細部は依然混沌として流動的なままであり、ドイツの意向次第でどうにでも変化するという肝心部分は従来通りです。

スペイン、ポルトガル、ギリシャなどの実態経済は悪化したままであり、総体的に株価にプラスという情勢下にはないように思います。


[以下、引用]
◆(※1)EU首脳、危機対策で合意 各国認識の違いも露呈/ウォールストリート・ジャーナル日本版より
2012年 6月 30日 9:10 JST

【ブリュッセル】欧州連合(EU)は29日の首脳会合で、域内銀行の救済で欧州安定メカニズム(ESM)の弾力的運用や欧州中央銀行(ECB)の銀行監督権限の拡大などで合意した。市場から歓迎されたものの、ほどなく各国の理解の違いが露呈する結果になった。

この予想されなかったEUの結束を示す合意について、各国首脳が詳細をそれぞれ説明したところ、さまざまな条件付けがあり、それが一致していないことが判明したためだ。

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REUTERS
EU首脳会議後、記者会見するメルケル独首相(29日、ブリュッセル)

EUの救済基金である欧州金融安定基金(EFSF)とその後継となるESMはこれまで、経営不振となった銀行にその銀行の本国政府を通じて資本を注入する仕組みだった。今回合意された最大の柱は、政府を介さずに直接注入できるように変更して、その政府のバランスシートを悪化させることが防げるようになることだ。

これに加え、先に決まったスペインの銀行救済で、資本増強のために行う融資の返済順位がスペインの政府債のそれより優先させないことでも合意した。両合意とも銀行資本注入と政府債務の増大の悪循環という市場の懸念に配慮したもので、29日の取引ではスペインとイタリアの国債利回りは急落する一方、銀行株価は大幅に上がった。

スペインのラホイ首相は「ユーロはこれでより強く、信頼される」と称賛する一方、欧州の金融混乱や景気後退で自国経済も後退を始めている英国のキャメロン首相も「各国首脳が大変重要な前進を始めた。大いに歓迎すべきことだ」と語った。

ところが、その後間もなく開かれた各国別の合意説明で、合意の幾つかの柱となる部分で首脳らの間に大きな隔たりがあることが露呈した。

その一つがESMの「全員一致」原則で、フランスのオランド大統領は、ドイツやオランダ首脳とは全く異なり、欧州各国が全て一致しなくても各種決定ができるようにESMの規則が変更された、と説明した。オランド大統領は「(EFSFと比べ)ESMは優れた点がある。全員一致条項がないことだ」と説明した。

しかし大統領の発言に複数のEU高官は驚きを表明し、オランド氏の解釈は今後数週間内にフランスをはじめ各国で議会承認を得る手はずとなっているESM条約に合致していないと否定した。

あるユーロ圏の外交官は「もし大統領がこんな発言をしたとしたら、それはESM条約で合意されたことと全く異なっており、われわれはすぐ国に帰ってESMをつぶさなくてはならない」と述べた。

オランド大統領とは対照的にドイツのメルケル首相は、従来の交渉姿勢とは大きく変化した28日深夜の交渉でもドイツは何も譲歩しなかったことを自国記者団に強調。ESM条約の意に沿わない全ての部分については、ドイツ議会が拒否する権利を留保していると述べた。ESMの個別の資金供出の認可にとどまらず、ESMの活用法の詳細についても拒否できるとの解釈を示した。

ESM条約の本来の条文では、ESMに関する諸決定は全員一致で決議されることが求められているが、ユーロ圏全体の金融安定を損なうリスクがある場合には投票者の85%の賛同があれば、資金の拠出ができるとしている。

メルケル首相はまた、ユーロ圏諸国が政策上の追加的制約なしに救済資金の拠出を受けられるとした同日の合意のもう一つの柱について、ドイツが大幅譲歩したのではないとし、「従来方針通りの結果だ。何か(資金供出)を得るには、何かを差し出す、つまり諸条件と監督だ」と述べた。

この諸条件として取るべき政策は今後、EUの行政執行機関である欧州委員会が年次各国報告に記され、今年5月に初めての報告が提出された。各国がこの報告で求められた政策を実行していれば、原則として、EFSFかESMに資金提供を求めることができ、その資金で発行および流通市場で政府債を買い支えることができる。

同日の各種合意の大半は各国が全員一致で将来の「銀行同盟」の第一歩となる銀行を監督する新組織を発足させられるかどうかにかかっている。そのためには新組織の明確な権限について相当慎重な議論が必要となる。また、並行してユーロ圏全域をカバーする預金保険の新機構を作る交渉も必要となる。それに加え、こうした一連の議論の開始時点で欧州北部国と南部諸国で経済、金融状況が全く異なっているという難しさを抱えることになる。

記者: Geoffrey T. Smith、Vanessa Mock

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◆(※2)ユーロ圏首脳会議、域内ソブリン債格付けへの圧力緩和=フィッチ/ロイターより
2012年 06月 30日 03:48 JST
[ニューヨーク 29日 ロイター] 格付け会社フィッチ・レーティングスは29日、ユーロ圏首脳会議の決定は、域内ソブリン債の信用格付けに対する短期的圧力を緩和したとの見解を示した。

首脳会議では、来年から救済基金を通じて銀行に直接資本を注入することを認めたほか、救済基金による国債買い入れでも合意した。また、欧州中央銀行(ECB)を中心に域内銀行監督制度を統一することを決定した。

フィッチは声明で「ユーロ圏首脳の銀行監督メカニズムを一本化する決定は、ユーロの長期存続の確実化に向けた重要な一歩だ」と評価した。「銀行財務の健全性とソブリンの連結を弱めることで、ECBの金融政策の効果を高め、債務危機の致命的な特徴となっていたソブリンと銀行の信用力の間の悪循環を緩和することができる」と指摘した。

[以上 引用/マクロ経済動向と資産運用形成研究室]