評価の分かれる米国経済の行方

結構極端とも思われる米国経済悲観論が日経ビジネスオンラインに掲載されていましたので、ちょっと目を止めてみますと中原圭介氏の論説でした。同氏いわく、「米国は少なくとも5年、欧州は20年、経済低迷が続く」のだそうです。現段階における米国経済悲観論の代表として、備忘的に中原氏の論説を全文転載しておきたいと思います(※1)。

[中原氏の主張の要点]
①日本経済に与える影響の度合いが大きいのは、消費増税そのものよりも、そのときの海外の経済情勢の方である。
②そのことは、リーマンショックとは直接関係がなかった日本の実体経済が、ショック直後に先進国の中で最も落ち込んだことからも明らかだ。
③米国経済の景気低迷の要因が、日本と同じく「バランスシート不況」にあるから、米国でも10年単位の低迷が避けられない。
④米国では、債務超過となった家計が、消費を抑えて、借金返済を優先するため、投資や消費が伸びずに、実体経済に悪影響を及ぼしてしまう。
⑤今現在、住宅を売り払っても借金が返せない家計が1100万世帯もある。これは、住宅ローンを借りている家計の4分の1を超えており、住宅価格が上がらない限り、これらの家計のバランスシートを改善する方法は、家計が地道な「節約」を続けるしかないから、消費は抑えられ、景気も足踏みを続けることになる。
⑥バランスシート不況が沈静化するためには、最低でも10年単位の時間が必要。2008年の住宅バブル崩壊から2012年は5年目であるから、少なく見積もっても、あと5年は低迷が続く。


これに対して当室管理人は、すでに述べましたように、シェール・ガス革命、シェール・オイル革命により、エネルギー・コストが低下することから、米国経済の回復は、近いうち(ここ1~2年内)に明確化するものと考えていますので、中原氏の米国経済悲観論は当たらないと思っております。

ただし、欧州の不況はまだしばらく継続しそうです。ECBによる南欧諸国の国債無制限買取の大方針が示されはしても、景気が回復しない限りは何らかの揺れ戻しが繰り返されそうですので、総体的にはまだ安心はできません。

「スペイン国債利回りは当面、人為的に抑えられるであろう。しかし、年末までには急騰再燃必至と見る」という豊島さんのコラム(日経新聞WEB刊に掲載)は参考になります(※2)。焦らずに、微速前進しつつ、9月の欧州情勢を観察したいと思います。


[以下、引用]
◆(※1)米国は少なくとも5年、欧州は20年、経済低迷が続く/日経ビジネスオンラインより
第2回:世界経済の約半分を占める欧米の苦境は日本企業への重い負担
2012年9月7日(金) 中原 圭介

前回の記事では、「日本経済に与える影響の度合いが大きいのは、消費増税そのものよりも、そのときの海外の経済情勢の方である」と述べました。また、「経営者たるもの、『米国や、欧州、新興国のそれぞれの経済がお互いにどのように作用し合っているのか』『米国や欧州の経済を低迷させている本質は何なのか』『それでは、その低迷はどのくらい続くのか』といったことを、予め知っておく必要がある」ということもお伝えしました。

それは、リーマンショックとは直接関係がなかった日本の実体経済が、ショック直後に先進国の中で最も落ち込んだことからも明らかです。ちなみに、日本と同じく輸出依存型の経済を持つ韓国の落ち込みも、新興国の中では群を抜いていました。

そこで第2回では、「米国や欧州の経済を低迷させている本質は何なのか」「それでは、その低迷はどのくらい続くのか」といった事柄に焦点を当てて説明したいと思います。

米国は10年単位の低迷が避けられない
私は、日本が経験した「失われた10年」と同じように、米国でも10年単位の低迷が避けられないと見ています。なぜかというと、米国経済の景気低迷を長引かせる要因が、日本と同じく「バランスシート不況」にあるからです。

バランスシート不況とは、バブルが崩壊し資産価値の急落が起こると、債務超過となった企業が財務内容を修復するために、投資や労働コストを抑えて、借金返済を優先するようになることをいいます。債務超過となった家計が、消費を抑えて、借金返済を優先するようになる場合にもこの言葉は使われます。前者が日本型、後者が米国型のバランスシート不況です。いずれの場合も、投資や消費が伸びずに、実体経済に悪影響を及ぼしてしまいます。

それにやや遅れて、企業や家計に必要以上に貸し込むことでバブル崩壊のダメージを受けた銀行は、財務内容を修復させるために、貸出や新規の融資を減らすという行動を取るようになります。その結果、いくら中央銀行が金融緩和を行っても貸出は伸びず、企業の設備投資や労働者の賃金が抑制されて、景気がいっそう悪化してしまうのです。

米国では、リーマンショック以降、不動産価格の下落によって住宅ローン返済の負担が重くなる一方、経済の中核を担う中間層の収入が減少することによって、家計のバランスシートが著しく悪化しています。その結果、米国のGDP(国内総生産)の約7割を占める個人消費が思うように伸びず、景気回復の重い足かせとなっています。

日本のバブル崩壊時には、地価の暴落によって、土地を担保に膨大な借金をしていた企業のバランスシートが大幅に悪化しました。その後、企業が借金を返済することを優先し、設備投資や人件費の圧縮に長期的に取り組むこととなりました。このことが、日本の「失われた10年」を招く直接の原因となったのです。

一方で、米国の場合は、悪化しているのは家計のバランスシートです。住宅バブルが崩壊する以前の米国では、住宅価格の値上がり分を担保に借金してモノを買うという「ホームエクイティ・ローン」が消費を必要以上に大きく上振れさせていました。ところが、それまでの流れが逆回転し住宅価格が下落に転じると、一気に家計のバランスシートが悪化し、家計は借金返済を優先せざるを得ない状況に陥りました。

米国の住宅価格は最悪期を脱したように見えますが、ピーク時に比べるとなお半分以下にとどまる物件も多く見られます。代表的な住宅関連指標であるS&Pケース・シラー全米住宅価格指数は、2011年10-12月期に住宅バブル崩壊後の最低値を付け、2012年1-3月期は少し上昇しましたが、まだ力強い上昇過程を描くにはほど遠い状況です。

今現在、住宅を売り払っても借金が返せない家計が1100万世帯もあります。これは、住宅ローンを借りている家計の4分の1を超えています。住宅価格が上がらない限り、家計のバランスシートを改善する方法は、家計が地道な「節約」を続けるしかありません。だから、消費は抑えられ、景気も足踏みを続けることになるのです。

日本の歴史が示しているように、バランスシート不況が沈静化するためには、最低でも10年単位の時間が必要です。2008年の住宅バブル崩壊から2012年は5年目です。ということは、少なく見積もっても、あと5年は低迷が続くという見通しを立てざるを得ません。

欧州は米国よりも傷が深い
私は、欧州については米国よりも低迷が長引くだろうと見ています。欧州は「国(政府)のバランスシート不況」にあるからです。欧州の大半の国々ではこれまでずっと、国の収入に見合わない社会保障制度を維持してきたため、国の財務内容が著しく悪化してしまいました。リーマンショックはその異常な国の財務内容を炙り出したきっかけに過ぎないのです。たとえ、今後1~2年で収まるであろう債務危機を乗り切ったとしても、その後の実体経済には茨の道が待っています。欧州の財政再建、特に南欧諸国の財政再建はあと5年ではとても終わらないからです。

さらに、欧州はかつての日本が犯した過ちを繰り返してしまっています。欧州債務危機が域内の金融機関の財務を著しく悪化させ、そのことが「貸し渋り」や「貸し剥がし」を引き起こしているからです。そのことが、実体経済をよりいっそう落ち込ませています。

域内の銀行は大小問わず、財務が深刻な状態に陥っています。ユーロの誕生によって、欧州の銀行は国境を越えて過大な投資をした結果、金融バブルの崩壊で巨額の損失を抱えてしまいました。欧州中央銀行は2011年12月と2012年2月の2回にわたって、域内銀行に巨額の資金を融通しましたが、中小企業への融資はいっこうに伸びていません。

今の欧州経済は、日本経済が1990年代の後半に不良債権処理で苦しんでいたときの状況とよく似ています。当時、日本の銀行は自己資本比率を高めるために、資本を増やすよりも総資産を減らすという誤った選択をしました。その結果、貸し渋りや貸し剥がしが横行し、雇用者の賃金は下落に転じ、デフレを深化させてしまったのです。

今まさに、欧州の銀行も日本と同じ過ちを繰り返しています。銀行が貸し渋りや融資の回収をすることで、企業は借り入れができず苦しい状態に陥っています。とりわけ深刻な影響を受けるのが、財務基盤の弱い中小企業です。先進国、新興国にかぎらず、雇用の中核を担っているのは中小企業です。多くの中小企業は借金返済を優先させるために、事業規模の縮小や人員の整理を進めていかざるを得ません。成長企業でさえも借り入れができないケースが増え、せっかくの事業や雇用を拡大するチャンスを奪われることになりかねません。つまり、実体経済の大部分を担っている中小企業の弱体化が進むのです。


◆(※2)問われるスペイン人の勤労意欲/豊島逸夫の金のつぶやき・日経新聞WEB刊より
2012/9/7

スペインという具体国名にまでは言及しなかったが、「国債買い取りの対象国」が「ヘルプ!」と援助要請すれば、「無制限買い取り」に応じます、とのドラギ発言。ただし、緊縮政策をキッチリ遂行すれば、という条件つきである。

問題はこの条件。

多くのスペイン人庶民は既に十分緊縮していると思っている。現官僚でさえ緊縮政策論議の最中に「スペイン人は人生を楽しむために生きているのだ」と公言してはばからない。最近は人生を楽しめていない。それほどに自分たちは緊縮しているのだ、というのが本音だろう。

しかし、イソップ物語に例えればアリ組のドイツ基準からみれば、キリギリス組の緊縮努力はまだまだ足りない。ドイツ流の価値観は、人生を楽しむために地味に働く。その意味で、勤労意欲に欠けると見えるスペイン人の借金証文である国債の無制限買い取りを、独連銀の反対を押し切って決断したドラギ欧州中央銀行(ECB)総裁に対するドイツ人の不信感は根強い。

最近、ドイツの調査会社が独シュテルン誌の依頼で行った世論調査に、ドイツ人のドラギ氏への信頼度を問う項目があった。その結果は、30%が「ほとんど信頼せず」、12%が「全く信頼せず」、31%が「その人物を知らない」、そして、「尊敬する」との答えは18%であった。そもそも、現ローマ法王はドイツ人なのに、欧州の金融政策決定権を持つ人物がイタリア人という事実に庶民感覚として違和感を覚えているようにも思える。

メルケル首相の立場も微妙だ。「ユーロ堅持」の姿勢を強くアピールする過程で記者団に問われれば、「ドラギ氏率いるECBが任務を逸脱しているとは思わない」とかなり苦しげな答弁。しかし、ドイツ国内の選挙民は、南欧国債買い取りのインフレ効果を懸念する。ワイマール時代にハイパーインフレを体験させられた国民の民族DNAは変わらない。

6日にはメルケル首相とラホイ・スペイン首相の会談もあった。しかし、「救済条件について具体的な議論はなかった」と記者会見で両氏が認めている。ラホイ氏は「ニュースになれば語る」とのコメント。6月末のEUサミットでは(ギリシャと同列に扱われず)「条件なしの救済案」を勝ち取ったと誇らしげに記者団に語っただけに、なんとも歯切れが悪い。「スペインはギリシャとは違う」というプライドを果たして捨て切れるのか。

短期国債に限定して買い取り、とりあえず国債利回り高騰を防ぎ、時間を稼ぐ策は、あくまで止血剤でしかない。病巣にメスを入れる構造改革は人生の楽しみを奪う。そして、ECBもEUもIMF(国際通貨基金)も、スペイン人気質を変えることはできない。

スペイン国債利回りは当面、人為的に抑えられるであろう。しかし、年末までには急騰再燃必至と見る。ラホイ氏の不用意発言などが、そのキッカケになるかもしれない。

[以上 引用/マクロ経済動向と資産運用形成研究室]