日銀は外債50兆円を購入せよ/日経ビジネスオンラインより

「日銀は外債50兆円を購入せよ」とする岩田一政・日本経済研究センター理事長の見解は、当室の見解とも一致する部分が多数あります(※1)。当室が日銀による外債購入を妥当と判断していることは以前すでに述べました。

日経ビジネンオンラインの記事は長文ですので、要点を次にまとめておきます。

[岩田一政氏の主張の要点]
①日本がデフレになった原因は、基本的には行き過ぎた円高だ。
②90年から95年で名目実効為替レートは45%も上がっている。バブルが崩壊して45%も名目実効為替レートが上がった国はほかにない。
③明らかに行き過ぎた円高が起こった時にはCPIがマイナスになる。
④最低限、これ以上の円高はどうしても阻止しなければいけない。手っ取り早いのは、外債を直接日銀が買うということだ。
⑤日銀が外債を購入すれば非不胎化介入になる。
⑥過去、日本の円相場を見ると、円高がシャープに進んでいる時は、ドルやユーロが急落している時であり、国際通貨体制が不安定になると、円が一番困った状況に置かれるということを繰り返している。
⑦第1に、日銀が金融危機予防基金を創設し、外債を50兆円買えるようにする一方、その損失は財務省が負担するというジョイントアクションでやるべきだ。
⑧日本は世界経済の金融の安定のためにこういう努力すると、ワンセットで世界に訴えるべきだ。その中で円相場を安定化させることを考えれば、海外からの批判は起こりにくい。
⑨購入する資産の種類としては日銀の法律を読めば、ETF(上場投資信託)を買うのと同じだ。財務相が金融政策の執行上、こういう資産を買うのは必要ですねと判断すればいい。
⑩電機大手の業績悪化の原因は決して円高だけではないと思うが、電機だけでなく製造業が日本で雇用を維持できなくなる水準、段階に来ている。
⑪日本の名目実効為替レートは1970年=100とすると、足元で400になっている。ドイツもマルク高で苦しんではいたが、220どまりだ。ところが、実質実効為替レートは1970年から100のままでずっと動いていない。日本は今200近い。名目で400、実質で200。その結果、輸出市場のマーケットシェアがどうなったかというと、93年は両方とも10%だったが、今日本は5%、ドイツは8%。日本は名目GDPで世界の8%ぐらいのシェアがあるのに、輸出のシェアは5%になっている。。「日本の製造業は怠慢なんだ」という人もいるが、実質実効為替レートが200まで上がった国は、100のままでずっと維持している国と同じだけ努力しても負けてしまう。
⑫中国との労働賃金の格差が大きく、生産を向こうに移転するとかぎりなく中国と労働賃金が等しくなるまでデフレが続くんだという議論もあったが、中国は世界中どこにでも輸出しているのに、どうして日本だけがデフレになるのか。そこが抜け落ちている。


さて、大事な論点が数々取り上げられていて、十分に読み込む必要がある記事内容です。

日銀の外債購入は、今回は夢物語ではなく、案外と実現する可能性もあります。というのは、前原経財相が外債購入に前向きだという事情もありますが(※2)、主な判断材料としては、米国の金融政策事情として、FRBがQE3の延長として米国債を購入するとしても、「財政ファイナンス」だという批判がくすぶっていますので、思うようには買えないマーケットの素地が形成されて来ています。

その点、日銀が買うのであれば、少なくとも米国内における財政ファイナンス批判は起きませんから、米国としては金融政策上のメリットがあります。多少円安に振れるので表面的には日本を批判する姿勢を示すとしても、米国債を買ってくれるのであれば、実質的には目をつむるものと思います。

いやむしろ、米国と何故か意思疎通の出来ている野田総理のことなので、前原経財相就任は、米国の意向なのかも知れません。色々な裏事情はあるとしても、当室としては行き過ぎた円高の是正は必要であると考えますので、経緯はともかく、日銀の外債購入による円安政策は妥当な政策だと思います。

しかしながら、当室の見解としては、すでに述べましたように、外為特別会計に滞留している米国債を日銀が買い取る方が、手順としては先行させるべきものと考えます。なにしろ100兆円相当の有効需要が外部漏れしたまま放置されているわけですから、これを日銀買取りで国庫に戻し、その資金の8割を関東・東海を中心とした防災対策に投入し、またその残り2割を防衛費に充当するのが妥当であると思います。

東日本大震災の教訓としては、まさしく天が防災対策を実施せよと示唆しているものと思いますし、また北方四島・竹島・尖閣問題の発生は、同じく天が防衛対策を講じよと示唆しているものとしか思えません。不況の折、ちょうど良い機会ですので、まずは日銀による外為会計の外債購入代金にて、政府が防災対策、防衛対策を一挙に推進するのが妥当でしょう。次善の策としては、日銀のマーケットからの外債購入による円安政策となりましょう。

大きく円安に振れる可能性が出てきましたので、デフレだから円高方向という購買力平価説的な考え方は、一度リセットしておく必要があるように思います。購買力平価は取引の結果データに過ぎませんので、当室としてはあくまでも参考統計という位置づけです。


[以下、引用]
◆(※1)日銀は外債50兆円を購入せよ/日経ビジネスオンラインより抜粋

岩田一政・日本経済研究センター理事長インタビュー/市村 孝二巳
2012年10月2日(火)

岩田:昨年10月、私も政府の国家戦略会議のメンバーになってくれと言われたので、今のマクロ経済で優先的に解決すべき問題はデフレの克服だと考えた。デフレの克服を最も有効に達成するには、最も大きなデフレの原因は何か、というところから出発すべきだというのが私の考えだ。日本がデフレになった原因は、基本的には行き過ぎた円高だ。

1995年の円高というのは、1990年にバブルが崩壊して、それから急上昇している。90年から95年で名目実効為替レートは45%も上がっている。バブルが崩壊して45%も名目実効為替レートが上がった国はほかにない。英国のポンドは今回のバブル崩壊で33%下がっている。米ドルは2002年をピークに55%下がっている。バブルが崩壊して日本のように自国通貨が上がった国はない。1995年の円高は行き過ぎた、ファンダメンタルズから乖離した円高で、1994年第4四半期からGDPデフレータはマイナスになった。その背後にある原因はあまりに急速かつ大幅過ぎる円高だったと思う。

CPI上昇率がマイナスになったのは1998年夏だが、この時は1995年をピークとしてその後、円は下落していた。1994年にメキシコが通貨危機に陥り、1995年に就任した米国のルービン財務長官はドル安が問題だとして「強いドルが国益」と宣言して為替政策を大転換した。それが反映して円相場は円安・ドル高に向かったが、1997年にアジア通貨危機が起こり、1998年になると、今度は米国と日本が協調介入して円高に誘導した。その結果、円は急速に円高になり、1998年末からCPIがマイナスになる。明らかに行き過ぎた円高が起こった時にはCPIがマイナスになる。日本だけではなく、今はスイスがデフレで、消費者物価上昇率はマイナス0.7%で、スイスフランの名目実効為替レートは2007年第2四半期から30%上昇した。この間、円の名目実効為替レートは34%円高になっている。スイスよりも円の方が高い。スイスはたまりかねてスイスフランの相場をユーロに固定してしまった。そういう状況も合わせて考えると、日本はどうしたらいいのか。

日銀が外債を買うのが手っ取り早い

最低限、これ以上の円高はどうしても阻止しなければいけない。手っ取り早いのは、外債を直接日銀が買うということだ。財務省はユーロ圏の欧州金融安定基金(EFSF)債を買っている。そのお金は外貨準備として保有しているドルやユーロで買っている。それだと円相場の安定化には何の役にも立たない。これは極めてもったいない話だ。

そういう必要があるなら、日銀が買えば外債購入となり、その代金を市場に残せば、非不胎化介入と同じ効果がある。2001年に日銀が最初の量的緩和政策を取った時期に日本の名目実効為替レートはどう動いたか。2007年第2四半期までは傾向的に下落している。この間、日銀は通常5兆円の当座預金残高を35兆円まで引き上げ、30兆円規模の量的緩和を実施した。もう1つは当時の溝口善兵衛財務官が2003年から2004年にかけて1年間で35兆円規模の円売り介入を実施した。2003年3月、私は福井俊彦総裁と日銀に入り、この間に13兆円ぐらい当座預金残高を引き上げたから、介入資金のうち3分の1程度は非不胎化介入だったということだと思う。2003年には量的緩和と介入政策の組み合わせがあった。円相場の結果を見れば、円安方向に誘導することに成功したというのが、私の実感だ。

私が心配していたのは2006年3月に量的緩和を解除した時に円相場が跳ね上がるのではないか、ということだった。しかしそうはならず、まだ金利水準が低かったので、円キャリートレードによる影響の方が強くて、2007年第2四半期ぐらいまでは円安基調が続いた。しかし、キャリートレードはもともと投機的なものなので、いつかは反転してしまう。それを気にしても仕方がないと思っていた。キャリートレードで円安になるのであれば、デフレ克服がより確実になると、それが続くのであれば結構なことだと思っていたが、あの時、海外、特に欧州連合(EU)だったと思うが、キャリートレードで過度に円安になっているとして、日銀は早く金利を上げるべきだという圧力があった。

日銀の外債購入は「非不胎化介入」になる

日銀が外債を購入すれば非不胎化介入になる。前回の介入は35兆円、量的緩和30兆円で円安傾向に誘導した。今回の金融危機はほかの国で起こったことなので、日本経済へのショックは小さいと考えるのは危険だ。グローバルな金融危機があって、そのショックは米国でも欧州でも巨大な金融機関が苦しんでいる。グローバルなマーケットでのインパクトはより大きいと考えなければいけないのに、当事国でないという錯覚に陥り、マイナスのインパクトを十分評価しなかったところが大きな問題だと思う。

海外からは日本がエゴイスティックに円安を誘導するために外債を買うのか、と必ず批判が来る。介入政策にしても全く同じ批判が米国からもどこからもあった。それをもう一度よく考えると、日本は世界経済の安定のために努力している、その一環としてこういう政策も実施するという考え方を示すことが極めて重要だ。

過去、日本の円相場を見ると、円高がシャープに進んでいる時は、ドルやユーロが急落している時だ。主要通貨がクラッシュする時にスイスフランと円が買われる。変動相場制になった1970年代以降、それで急速な円高になってしまうという事態を繰り返しているのだ。それは言ってみれば国際通貨体制の安定性の問題だ。不安定になると、円が一番困った状況に置かれるということを繰り返している。今はユーロ危機がグローバルな危機の火元になっていて、そこから危機が拡大しないように、外にあまり波及しないように対策を考えるべきだとして、3つの政策をワンセットで提案した。

国際金融安定へ4つの提言

まず第1に、日銀が金融危機予防基金を創設し、外債を50兆円買えるようにする一方、その損失は財務省が負担するというジョイントアクションでやるべきだとした。言葉だけでなく行動で一体になってくれという趣旨だ。

第2に、IMFの資金源は元々7500億ドルだったが、危機がスペインやイタリアに波及した場合、それが明らかに足りなくなる。これを1.5兆ドルに倍増すると同時に、FRBを中心とする中央銀行が主要通貨を供給しあうスワップ協定を連携させてグローバルな金融安全網を作る。去年10月に提案し、今年1月になってIMFのラガルド専務理事が5000億ドル必要だと主張して4500億ドルは集まったが、それでもまだ足りない。

第3には、金融危機予防、国際通貨体制安定、マクロプルーデンス政策を議論する場をIMFに専門委員会を設置し、そこで議論をして専門家がG20に金融危機予防のための措置を提言する。リーマンショック後、各国首脳はG20に集まり、グローバルな金融危機をもう起こさないと決意してさまざまなフォーラムを作ったが、結局ユーロ危機を起こしてしまった。これは今ある仕組みだけでは明らかに何かが足りないということだ。

第4に、日経とCSISの緊急提言の中で提案で出てきたものだが、IMFの資金源は加盟国からの出資が中心で、金融機関で言うと信用組合のようなものだ。それでグローバルな経済の最後の貸し手の機能を果たせと言われているが、資金力は十分でない。EFSFが債券を出して資金を集めるなら、IMFもSDR建てで債券を出せばいい。それで金融危機を予防するための融資もより積極的にできるようになる。

この4つの提言をパッケージとしてやるべきだ。

今月、東京でIMF・世銀総会が開かれる。日本は世界経済の金融の安定のためにこういう努力すると、ワンセットで世界に訴えるべきだ。その中で円相場を安定化させることを考える。日本の国のためにもなるし、グローバルな経済のためにもなる措置だ。円は主要通貨の1つであり、責任ある立場にあるのだから、責任ある提言を行うべきだと思う。

日本は過去にもそういう貢献をしてきた。1980年代に中南米の債務危機があった時、「宮沢提案」を出した。中南米各国が累積債務を返せなくなった時、EFSF債に似ているが、IMFが担保を提供することによって、質の悪い政府債務を質のいいものに替えるという、当時の宮沢喜一蔵相の提案だった。これをブレイディ米財務長官が取り上げて、IMFの担保ではなく、米国債を裏付けにすればいいという提案に変えたので、「ブレイディ債」として採用されたが、元々のアイディアは日本だ。あの時は国際金融のビッグプレイヤーになろうとしていたし、現実に対外資産は大きくなり、発言力もあったし、世界経済を安定化させる提案を積極的にしていた。

しかし、それが今は消極的というか、米国があまりサポートしてくれそうもないから、介入もあまり積極的にはできないと、非常に内向きの姿勢になっている。私が最初、3つの提案をした時、IMFの資金を倍増すべきだと言ったら、その時の反応は「米国は絶対賛成しない。そんなのはやる必要ない」というものだったが、現実には米国は全然資金を出していない。

そういった考え方は多分間違いだと思う。米国が言っていることをそのまま忠実に繰り返すのが日本の役割なのか。もっと日本は積極的な役割を果たすべきだ。

日本が資金を拠出したことによって、中国も出さざるを得ないような状況になった。

岩田:日本は600億ドル出して、ドイツよりも多い。ドイツは当事国だから、当然もっと出すべきだと思うが、結果的にはそうなった。

外債購入に対する典型的な批判として、本来財務省に権限がある介入をなぜ日銀がやるのか、というものがあり、白川総裁も日銀法の改正が必要ではないかと言っている。

岩田:私がなぜ国家戦略会議で提言したか。政府と日銀が一丸となってやるべき行動だからだ。総理も、財務大臣も、日銀総裁も出席している。購入する資産の種類としては日銀の法律を読めば、ETF(上場投資信託)を買うのと同じだと思う。ETFを買うには財務大臣の認可が必要だ。

現行の日銀法で実現可能

43条ですね。

岩田:財務相が金融政策の執行上、こういう資産を買うのは必要ですねと判断すればいい。場合によっては国際協調の観点から中央銀行が外債を買うのが必要だと認めればそれでできる話だ。ただし重要なのは財務相が認めることだ。だから戦略会議で申し上げた。

白川総裁が日銀の法律上できませんと言うのはそれなりに分かるが、私は法律上できると言っているわけではなくて、できないとも読めないと思うので納得していない。

例えば2001年頃の金融政策決定会合で中原伸之審議委員が外債の買い入れを提案していた。国債を買うのと同じで毎月1000億円買うことにして、金融政策上必要だと言えばいいという提案で、それには私は心情的にはシンパシーを感じる。最初から買ってはいけない資産が禁止してあるわけではない。その時の財務省の代表は、為替レートは我々の主管だから難しい、と言っていた。財務相はそのスタンスを変えていないと理解している。

もう1つの批判は溝口財務官の時には35兆円の介入をして市場の需給に影響を与えたが、あれから為替市場が大きくなり、果たして日銀の外債購入で持続的にレートに影響を与えられるかという点。大きく分けて2つの批判があると思うが、どうこたえるか。

岩田:後者の方から言うと、通常の量的緩和を含めて、為替レートに対する影響はゼロですかと問いたい。国際通貨基金(IMF)が最近シリーズで出している、スピルオーバー効果の研究によると、FRBのQE1 、QE2は為替レートにどういう影響を与えたか。ドルは5%ドル安になったが、円は12%円高になったという。量的緩和政策はさまざまな資産価格に影響を与える。株価、長短金利、リスクプレミアム、為替レートにも当然影響は及ぶ。FRBは外債を買ったわけではなく、国内のMBSとか国債を買ってそれだけ効果があった。それでは仮にFRBが外債を買っていたらどうなったか。明らかにもっとドル安になったと思う。

銀行券を刷ればいい

過去と比べて外国為替市場の規模は大きくなっているが、区別しなければいけないのは、円安に誘導したい場合と、円高に誘導したい場合では違いがあるということだ。円高に誘導したい場合は、持っている外貨資産を売らないといけない。持っている外貨資産には限りがある。日本は相当持っているが、それでも上限がある。韓国は常に少なかったので、いかにウォン安を妨げようと思っても、マーケットで「あなたは外貨建て資産をあまり持ってない」と見られると、投機筋をかえって刺激してしまう。従って効果はない。為替レートを円安にしたい時は対照的で、中央銀行が銀行券を刷ればいい。上限がない。仮に上限があるとすればインフレだけだ。

50兆円というよりも、「いくらでもやります」と言った方が効果はより強くなる。量的緩和の効果を強くするのと同じ問題だ。でも最初から無制限にと言うわけにはいかないので、2003年からの介入額が35兆円、そのうち日銀が非不胎化した、外債購入に当たる部分は13兆円だから、合わせて50兆円としている。しかし上限があるわけではない。

ドラギ総裁も同じ言い方をしているが、白川総裁は「金融政策は時間稼ぎに過ぎない」と発言し、その間に財政再建や構造改革を進めるべきだと政府に求めている。

岩田:財政に要求する、その気持ちはよく分かるが、FRBもBOEもインフレ期待を2%程度に維持するのには少なくとも成功したと思う。その効果は時間稼ぎだけではない。もちろん構造改革を行うことはデフレ克服の課題とオーバーラップするところはあるが、それは独自でやるべきこと。もう少し微妙なのは財政政策との関係だ。ドラギさんが直面しているのは、銀行危機と政府債務危機がリンクしてしまった時に中央銀行がどこまでそれをファイナンスするかという、もっと切羽詰まったところに置かれていると思う。

今年2月に野村総合研究所が主催している「金融市場パネル」のシンポジウムで、雨宮正佳理事が最後の貸し手(LLR)機能がどう変わっていくか、というテーマで講演していた。リーマンショックの時はマーケット・メーカー・オブ・ラスト・リゾート(MMLR)、中央銀行が誰も買わない資産を買い上げることでマーケットを作ってあげるという段階に至った。さらには中央銀行が支援する対象が政府になってきた場合はどう考えるか、という話で、日銀の幹部がここまで講演で言うのか、すごい時代になったなと思った。

岩田:ECBはそれに直面していると思う。しかもECBが複雑なのは加盟国が17あって統一した財務省がないということ。ジャン・クロード・トリシェ前総裁が要求していたのはユーロ代表の財務大臣を1人選んでくれということだった。ユーロ圏全体としての財政政策を決定できる人がいなければ、その人と信頼ある関係がない限り、金融政策は困るということだと思う。重要なのは財政当局がきちんとした財政規律を守って政策を運営すると、どれくらい明確に約束するかにかかっていると思う。それは財政当局の問題だ。ドラギ総裁が要求しているのは、スペインももっと財政規律をきちんとしてください、そうしたら、国債を買いますよ、ということだ。

財政政策と金融政策はどこかつながっている

白川総裁が懸念しているのも、ひょっとして日銀の政策が行き過ぎることによって財政規律を損なってしまうことではないか。すでに基金を合わせると銀行券ルールを超過していて、市場の中には財政赤字のファイナンスだ、マネタイゼーション(財政赤字の穴埋め)だと言う人は増えている。

岩田:そこのところは一番デリケートな問題だと思う。財政政策と金融政策はセパレートしているが、どこかつながっていて、コインの表裏みたいな部分がある。通常はセパレートで動けるが、危機になると、お互いにほとんど共通のことをする必要に迫られる。財政も金融的なことをやらざるを得ない、金融も財政的なことをやらざるを得ない、両方の機能を分離することが非常に難しくなる。機能の分離について、私はうまくやっているのはBOEだと思う。量的緩和をする前もキング総裁は財務相ときちんと話をして、これから量的緩和をするが、そこから生じる損失は財務相に見てもらうと約束した。今回、銀行貸し出しを促進する政策を取ったが、これもユーロ危機の波及予防策だ。資金調達コストを下げないと、企業がもたなくなる。その時もちゃんと財務相に断っている。財務相が損失の面倒を見て、購入額はBOEが決める。そういう実例があるので、私の提案では外債の購入についてもそこはルールをはっきりさせるべきだということだ。具体的な措置について透明性を持って仕分けをするという、しかし仕分けと同時に、一緒にやらなければならない部分は一緒にやる。損失の分担をどうするか、透明性のあるルールの下で問題解決に当たる、そういうことが必要だと思っている。

来年4月に白川総裁の任期が来る。市場では円安を志向している人が総裁になっただけで、円安になる効果があるだろうとも期待している。

岩田:そこは何とも分かりませんが、私の印象では、速水優総裁はやっぱり円高論者だったと思う。どういう場合でも円高が望ましい、通貨のインテグリティが一番大事だ、インフレは絶対にいらない。デフレがいいとまでは言わなかったが、トレラブル(容認)に近い、1%ぐらいのマイナスなら物価の安定と見ておられたのではないか。

「物価の安定の理解」では、政策委員会メンバーの中央値が1%だった。福井総裁の場合は、デフレをいいとは思ってなかったことは明らかだ。そこには大きな違いがある。
今、速水総裁時代の議事録が出ているが、量的緩和をするにしても、政治的な圧力があるから、本当はこんな政策は何の役にも立たないけれど、仕方がないからやりますということがはっきり書いてある。同じ政策をするのでも、いや、私はデフレを克服するために量的緩和をします、というのでは相当違いがある。

例えば、お医者さんがこの薬は全然効きませんよ、もしかすると毒があるかもしれませんよ。と言って薬を飲みなさいというのと、この薬は効きますからというのと、たとえプラシーボ(偽薬)だったとしても、自ずからものの言い方によって違いはあると思う。それが不十分であればもっとやる気があるのか、不十分ならすぐやめる気なのか、市場がどう予想するかで、当然効果は違ってくる。特に金融政策は先行きが問題なので、市場は日銀が先々どこまで戦うのか、というところを見ている。すぐやめてしまうような政策なら当てにならないから価格も変えないということになってしまう。そこはすごく重要な事実の認識の問題だ。そこが違うと後が全部違ってくる。

円高が続けば雇用を維持できなくなる

円高やデフレにしても、どこが円高なんですか、デフレって誤差の範囲でしょ、と言う人もいるが、製造業の人には耐えがたい。電機大手の業績悪化の原因は決して円高だけではないと思うが、電機だけでなく製造業が日本で雇用を維持できなくなる水準、段階に来ていると思う。トヨタ自動車も5割生産を国内に残すといっているが、3年も今の円高が続いたら維持できないと言っている。日産はもう1割しか残さないと、ドライにグローバル企業としては正しい判断をしていると思う。企業は生きていけるかもしれないが、国内の雇用は維持できなくなる。最近の産業構造審議会の報告書を読むと、今回の円高は根こそぎ空洞化だと書いてある。1990年半ばの円高も空洞化につながったが、そこは何とか持ちこたえた。今度は部品レベルまで、自動車、機械だけでなく化学まで及んできた。経営者に聞くととても耐えられない、危ういと言っている。日本の名目実効為替レートは1970年=100とすると、足元で400になっている。ドイツもマルク高で苦しんではいたが、220どまりだ。ところが、実質実効為替レートは1970年から100のままでずっと動いていない。競争力に重要なのは実質実効為替レートだ。

まるでターゲッティングしているかのように。

岩田:まっすぐなんですよ。日本は今200近い。名目で400、実質で200。その結果、輸出市場のマーケットシェアがどうなったかというと、93年は両方とも10%だったが、今日本は5%、ドイツは8%。日本は名目GDPで世界の8%ぐらいのシェアがあるのに、輸出のシェアは5%になっている。電機がもう戻ってこないと、このシェアはさらに落ちる。自動車も今のままだったらやっぱり出ていくだろう。その危機感が、極めて弱いと思う。個別の企業は技術があればグローバルに生きていけるが、日本の雇用は維持できない。

韓国ウォンの実効為替レートも1970年=100とすると、今は10程度なんですよ。人民元は30程度。いずれにしてもそれだけの違いがある。「日本の製造業は怠慢なんだ」という人もいるが、実質実効為替レートが200まで上がった国は、100のままでずっと維持している国と同じだけ努力しても負けてしまう。そのギャップは極めて大きい。

産業構造の変化は1、2年で起きるわけではない。名目実効為替レートは400までじわじわ上がってきたので、今後も円高が続くという「期待」が埋め込まれてしまっている。企業経営者はそれに備えるには、販売価格を下げ、賃金をカットするしかない。人件費を下げ、固定費を下げれば、デフレになるのは当たり前だ。日銀短観で販売価格の予想を聞くと、圧倒的に「下がる」という回答が多い。それではデフレは治るわけがない。「自己実現的な円高期待を通じるデフレ期待の形成」、というものが根強く残っている限り、デフレからは出られない、と思っている。

中国との労働賃金の格差が大きく、生産を向こうに移転するとかぎりなく中国と労働賃金が等しくなるまでデフレが続くんだという議論もあった。

岩田:一時ありましたが、根本的におかしい。中国は世界中どこにでも輸出しているのに、どうして日本だけがデフレになるのか。そこが抜け落ちている。中国だけではなく、新興国はみんな先進国に比べれば低賃金で、そういう現象はずっと続いている。それなのに、日本とスイスだけがどうしてデフレなのでしょうか。


◆(※2)前原経財相就任で強まる日銀への緩和圧力、外債購入にも前向き (1) /ブルームバーグより

10月2日(ブルームバーグ):前原誠司国家戦略兼経済財政担当相は、日本銀行が消費者物価指数(CPI)の前年比上昇率1%を目指していることに関し、厳しく注視して必要ならさらなる対応を促していく方針だ。日銀の外債購入も金融緩和を進めるための「有力な材料の一つ」と表明。前原氏の経済閣僚就任で、日銀に対する金融緩和圧力が強まることになりそうだ。

「私がこの立場についた以上は、今まで以上に厳しく、日銀が本当に2月14日の政策目標を実行する気構えがあるのか、どうなのかといったことを厳しく見る」-。前原氏は1日夜の就任会見で、日銀の対応を注視していく考えを強調した。その上で、「他の政策責任者とも相談しながら、足りないということであれば、しっかりと対応を促すような発言をしていきたい。発言のみならずそれを実行するように主体的に取り組みたい」とも語った。

党政調会長として政府・日銀による金融政策の目標に関する協定(アコード)の締結や日銀の外債購入について言及してきた前原氏。民主党内で日銀法改正を求めている議員グループ「円高・欧州危機等対応研究会」会長の小沢鋭仁元環境相は前原氏について「リフレ派の政調会長」と指摘したほどだ。クレディ・スイス証券の白川浩道チーフエコノミストは、前原氏は金融緩和に極めて積極的だと指摘する。

外債購入

外債購入に関しては会見で、「検討課題の中だと思っている。いろんな立場の人がいるが、金融緩和を進めていく上での有力な材料の一つだ」と述べ、前向きに検討すべきだとの認識を示した。

外債購入は日銀元副総裁の岩田一政氏らが円高対策として国家戦略会議でも提唱したが、政府が7月に閣議決定した日本再生戦略には盛り込まれなかった。日銀内では佐藤健裕審議委員が7月24日の就任会見で一案との考えを表明しているが、白川方明総裁は否定的だ。1日に就任した城島光力財務相も「慎重に検討していくべき課題だ」と述べるにとどめている。

一方、藤村修官房長官も2日午前の記者会見で、前原氏の発言について「政調会長時代から一つの持論として言っていたと承知している。それぞれいろんな意見を持っているが、それぞれの議論をしていくということだ」と指摘。自らの外債購入に関する認識について聞かれると、「日銀法上も慎重な検討が必要だ」と語った。

このほか、前原氏は会見で、野田佳彦首相からは2014年4月から消費税率を引き上げられるよう、デフレ脱却への対応を指示されたことも明らかにした。為替相場については「行き過ぎた円高をしっかりと是正していかなければ日本のものづくりは成り立たない」と指摘。その上で、現在の「円高水準は行き過ぎている」と語った。

記事についてのエディターへの問い合わせ先:大久保義人 yokubo1@bloomberg.net;Peter Hirschberg phirschberg@bloomberg.net

更新日時: 2012/10/02 12:12 JST
[以上 引用/マクロ経済動向と資産運用形成研究室]