GDPは普通、前期比で表すから「ドッキリ効果」が起きてしまう。前年比で表せば驚きはない。

最近余り経済的に有用なトピックスに当たらないため、毎週書く予定のところが1週置きに延びています。

さて、この4月の消費税引き上げ(5%→8%)の影響について、4~6月期GDP成長率の年率換算速報値がマイナス6.8%という低く出ていささか波紋を呼んでいる様です。大げさに考えるエコノミストは、日本経済が撃沈されているかのように主張していますが、実際のところはそれほど厳しいものでもなさそうです(※1)。

たとえば、東洋経済オンラインの「『ヤバい日本経済』、本当はイケてない?」で吉崎さんが述べていることを要点だけ抜書きすれば次のようになりましょう。

①8月13日発表の4~6月期GDP速報値は、年率換算でマイナス6.8%という低い数値が出た。実質GDPは今年1~3月、年率換算で6.1%の高成長であった。それが4~6月期ではマイナス6.8%と大幅に下落した。つまり「行って来い」になってしまった。
②その主原因は、消費税の増税による駆け込み需要と、その反動減にある。
③GDPは普通、前期比で表す。だから需要の先食いをやってしまうと、変化率はプラスよりもマイナスが派手に見えてしまう。
④前年比で表していれば4回の四半期を通して変化率を眺めても、「ゼロ%、+20%、マイナス20%、ゼロ%」というような平坦な表示になり、あまりドラマチックではなくなる。
⑤だから今回の4~6月期速報値のマイナス6.8%にあんまり驚いてはいかんのだ。

肝心なのは、現在進行中のこの7~9月期のGDPであり、これが本当に消費税増税前の水準にまでGDP絶対額が戻るのであれば、日本経済は特に撃沈されていることにはならなくなります。成長率で比較すると惑わされますので、GDPはまず絶対額を見た方が無難です。

ところで、「金融緩和→インフレ率がプラス」というような短絡的な議論が一部に見られるようですが、本質的には有効需要が増加しなければ物価は上昇しません。金融緩和→有効需要増加→物価上昇というプロセスに伴うGDPが増加=所得増加という結果が重要なのであって、物価だけ上昇しても我々にとってプラスとは限りません。

たとえば仮に有効需要が一定である時に消費税を増税すれば、その増税分は概ね物価が上昇します。物価上昇=デフレ脱却という手放し賞賛論も見られますが、消費税を引き上げれば或る程度の物価上昇は当然なのですから、物価上昇=好景気(GDP増加)とも言い得ません。

理屈はともかく、身の回りの現実生活を眺めて見ますと、物価は間違いなく、密かにあるいは明示的に上昇しています。それは、①円安による輸入品の価格上昇、②消費税増税分の上乗せによる価格上昇、そして③有効需要増加による価格上昇という3つが合成されて値上がりしているように見えます。

たとえば、スーパーマーケットで買い物をしますと、各種商品のグラム数が密かに減少していて価格は元のままであったり、あるいは値段は変わらず袋の中に入っている個数は減少していたりしますから、これらは実質的値上げであります。あるいは使用材料の種類や分量を間引いていたりする実質値上げもあります。そしてまた当然ながら、同じ商品で単純に価格を値上げしているものもあります。

労働需給でいえば、有効求人倍率が1.0倍を超えてきていますし、時給も上昇していますので、景気は案外強い回復を続けているのではないかと思われます。卑近なところでは、当室管理人の大学生の娘が昨年12月に池袋の某食品販売店で行ったバイトの時給は1200円でした。あるいは最近の牛丼チェーンのバイト集めの騒動を見ていますと、労働条件の過酷さはあるとしても、時給上昇が騒動の背後にあるのは間違いのないところですし、また当室管理人の勤務先で計画している建物増改築の費用も異常に高騰しており、以前の3割り増し程度は常識だと業者に言われています。建築面では、資材、賃金ともども大幅に価格が上昇しています。2020年のオリンピックまでは、国内経済は案外強い地合いなのかも知れません。

ともあれ、中国経済には依然警戒が必要と当室は見ています。

国内総生産(支出側)
実質原系列(前年同期比%)
2013/ 1- 3.   0.1
    4- 6.    1.2
    7- 9.    2.3
   10-12.    2.5
2014/ 1- 3.   3.0
    4- 6.    -0.1
(内閣府ホームページより)

[以下、引用]
◆(※1)「ヤバい日本経済」、本当はイケてない?年末の消費税10%決定、「それでいいの」か

かんべえ(吉崎 達彦):双日総合研究所副所長

2014年8月15日東洋経済オンラインより抜粋

8月13日発表の4~6月期GDP速報値は、年率換算でマイナス6.8%という低い数値が出た。実は景気はすでに腰折れしているのかもしれない。日本経済は危ない、というオヤジ世代用語の意味でヤバイんじゃないですか?というのである。

まあ、待ちたまえ。この程度で日本経済は腰折れしない。が、当初の見込みを修正しなければいけない部分が出てきたのも間違いない。以下、きちっと説明するから、都合のいいところだけつまみ食いしないで、最後までじっくり聞きたまえ。

実質GDPは今年1~3月、年率換算で6.1%の高成長であった。それが4~6月期ではマイナス6.8%と大幅に下落した。つまり「行って来い」になってしまった。その主原因が、消費税の増税による駆け込み需要と、その反動減にあることは火を見るよりも明らかだろう。

ただし、ここで前期比の変化率に振り回されるようではイケナイ。仮に日本経済がゼロ%成長で、GDPが実額ベースで100億円だと仮定しよう。この場合、変化率は以下のように推移する。

         Ⅰ     Ⅱ     Ⅲ     Ⅳ
GDP実額  100億円  100億円  100億円   100億円
変 化 率    0%     0%     0%     0%

次に第3四半期から消費増税が行われて、需要が20億円分、前期にずれ込んだと仮定しよう。第3四半期はGDPが80億円に減るが、第4四半期には元通り100億円に戻ると考える。この場合、実額ベースのGDPは下記のようになる。
         Ⅰ      Ⅱ     Ⅲ      Ⅳ
GDP実額  100億円  120億円   80億円   100億円
変 化 率    0%     +20%   -33.3%   +25%

需要の先食いをした場合の「マジック」に注意

この場合、第3四半期のマイナス33.3%を見てつい慌ててしまうのだが、それは第2四半期という「山」から「谷」を見るために起きる錯覚である。第4四半期はまたプラスで元に戻る。つまり需要の先食いをやってしまうと、変化率はプラスよりもマイナスが派手に見えてしまうのだ。

GDPは普通、前期比で表す。だからこそ、上記のような「ドッキリ効果」が起きてしまう。前年比で表していれば(例えば中国のGDPは前年比で公表される)、「ゼロ%、+20%、マイナス20%、ゼロ%」という表示になり、あまりドラマチックではなくなる。だから4~6月期速報値のマイナス6.8%にあんまり驚いてはいかんのだ。こんなのは初歩だよ、ワトソン君。

しかし日本政府は、もう少し腹黒く計算していることだろう。彼らにとって、真に重要なのは足元の7~9月期なのだ。4~6月期はいくら悪くても、「これは想定の範囲内」と言い張ることができる。彼らにとって重要なのは、次の7~9月期がちゃんとプラスに戻るかどうかである。7-~9月期が見栄えのする数字になるためには、4~6月期はむしろ悪い方が都合がよい。それだけ「深い谷から山を見る」ことができるからである。

7~9月期のデータがなぜ重要なのかは、わざわざ説明するまでもないだろう。年末になると、来年10月からの消費税再増税(8%→10%)の決断が待っている。7~9月期のGDPは、一次速報が11月17日、二次速報が12月8日に発表される。12月15日に発表予定の日銀短観と併せて、増税を判断する最重要材料となるのである。

しからば、本当に消費税を10%に上げてしまってよいものかどうか。この問いに対する答えはまた別で、筆者は「たとえ7~9月期が高めに出たとしても、慎重に検討するべき」だと思う。慎重に、とは消費税増税法案の付則18条を適用した一時凍結も除外せず、という意味だ。

景気の先行きに、3つの不安定要素

正直なところ、筆者は6月までは景気の先行きを楽観していたのだが、天候不順とともに7月から不安を感じ始めた。理由は以下の3点である。

① 消費税増税は何とか消化しつつあるが、久々の物価上昇が家計に響き始めている。

② 輸出が相変わらず増えず、生産の動きも今一つである。

③ マレーシア機撃墜問題(7月17日)を契機に、国際情勢の不透明感が増してきた。

まずは物価上昇で、脱デフレが軌道に乗りつつあるのは結構なことだ。が、久々の物価上昇に対する戸惑いもある。特に地方へ行くと、「リッター170円台のガソリン価格は痛い」「年金世帯に物価上昇はきびしい」といった声をよく聞く。景気ウオッチャー調査の7月分を見ても、現状判断DIは改善しているとはいえ、「実質賃金の上昇が追い付かない」「価格高騰が続き、経営が圧迫されている」といったコメントが目につく。

次に生産に関するデータが振るわない。円安が続いているにもかかわらず輸出は低調である。特にアジア向けが不満足な水準にとどまっている。昨今は全世界的に、貿易が低調であるとも言える。企業の設備投資も、1~3月期に盛大に伸びた後が続かない。さらに4~6月期の在庫投資が増えているのも、意図せざる在庫増加を示唆しているのかもしれない。

それに加えて「地政学的リスク」がある。ウクライナ問題や中東情勢の混乱次第では、石油価格の高騰、安全通貨としての円資産買いによる円高の進行、貿易量のさらなる減少などの事態が考えられる。これらは言うまでもなくヤバイ(オヤジ世代の意味として)。全体として景気回復の基調は崩れていないものの、ちょっと嫌な感じが漂い始めたのである。

ところが政府の「月例経済報告」は現金なもので、4月に基調判断を下方修正し、5月と6月は据え置いた後に、7月になって上方修正してきた。つまり「4~6月期は捨てて、7~9月期で勝負」というシナリオ通りの進行である。

これはちょっとマズイ。景気の先行きを読むときは、虚心坦懐にして謙虚であるべきである。「ここはこう来てくれないと、俺が困るじゃないか」式の身勝手な読み筋は、得てして外れて痛い目を見る。もちろん当コラムを愛する競馬ファン諸氏には、その辺は「釈迦に説法」であろう。

ということで、今年下半期の景気は慎重に見ていくべきだろう。仮に「景気が持たんぞ」ということになった場合、どうすればいいのか。これだけ人手不足が鮮明になってくると、景気対策で公共投資を積み増ししても、ちゃんと執行されるかどうかがわからない。12月の再増税検討期に向けて、今から「プランB」を考えておく必要があるのではないか。ちなみに軽減税率っていうアイデアはダメですよ。あれは金持ちの方が得する政策ですから。

ついでに言っておくと、同じ時期には与党税制調査会で法人減税の議論も行われるはずである。「庶民に増税して、企業は減税か」というお馴染みの議論が出てくることだろう。年末の税の論議は、つくづく心しておかねばなるまいて。
[以上 引用/マクロ経済動向と資産運用形成研究室]