「持ち合い株」去りし今こそ日本株買いの好機(澤上篤人)

さわかみファンドの澤上さんに関する当室のイメージとしては、①日本株1本槍、②万年強気、③超長期投資、という感じで、当室管理人の所見とは異なる特殊澤上的見解の場合も多く、必ずしも同意できるものばかりではありませんが、今回日経新聞WEB刊に掲載されていたコラムには一部注目点があります(※1)。

それは標題ともなっております法人による株式持合いに関する所見です。

澤上さんは「構造的需給変化」と言っていますが、当室としても、そうしたマクロ的見地からの株式需給関係は当然ながら重要だと思います。

澤上さんによれば、89年末の史上最高値からみるに、もう25年にわたって日本株市場はひどい低迷状態から抜け出せずにいる原因は、67年の資本の自由化に相前後して、安定株主工作という大義名文で株式持ち合いと政策保有が本格化し、88年のピーク時に日本株の73%強(東証1部上場企業の全発行株数の実に55.3%)が法人保有となっていたものを、90年の年初から法人筋は一転してバブル崩壊による不良債権処理やらで、持ち合いと政策保有のやみくもな解消売りに転じた。それが、バブル崩壊後20年にわたって日本株を長期低迷させた最大要因である、ということです。

それ故、その持ち合いと政策保有だが、ピーク時の55.3%から、4年ほど前には8%前後にまで急減し、ここまで減れば、日本株市場を叩き潰してきた構造的な売り圧迫要因は出尽したと考えてよいから、個々の企業の収益向上の度合いに応じた選別投資を、思い切り進めよう、という結論に至ります。

持ち合い株の解消は銀行のBIS規制による放出も結構大きい要因だったと当室は考えますが、それはともかく、大局的見地からすれば、確かに「売り要因」の構造的本尊は消滅していると言えましょう。

マイナスファクターとしての中国経済の動向に加えて、ロシア経済の動向も注視せざるを得ない状況となってしまいました。もともと、QE3の停止と今後の米国金利上昇期待を動因として資金は米国へ向けて動きますので、ドル高・他通貨安および米国向け投資の優位性(新興国向け投資の不振)が予想されるところです。日本株については、澤上さんの指摘の通り、個々の企業の収益向上の度合いに応じた選別投資が妥当でしょう。


[以下、引用]
◆(※1)「持ち合い株」去りし今こそ日本株買いの好機(澤上篤人)

2014/12/21 7:00日本経済新聞 電子版

株式投資をするにあたって、需給動向をどう的確に読むかは、投資の成否を左右する重要なファクターとなる。とりわけ、相場を追いかける短期投資では需給の読みが全てといっていい。

■相場追いかけ投資と市場の需給
株式市場の需給とは、買い方と売り方との力関係が今どうなっているのか、今後どのように変化していくのかを指す。買いのエネルギーが強くなれば相場は上値を追うし、売りが集中すれば暴落する。買い方が突然、売り方に組することも日常茶飯事である。

従って現時点において、どの投資主体が買いまたは売りの方向で、どれだけのエネルギーを有しているかの読みと分析をし続けることは、短期投資家にとっては絶対条件となる。それは当然だろう。読みが外れたら目も当てられない結果が待っているのだから。

一方、われわれ長期投資家からすれば相場の需給など、どうでもいい話だ。何しろ、相場が大きく崩れたら買えばいいし、噴き上げたら薄く薄く売り上がっていくだけのことなんだから。相場の需給などに神経を尖らせる必要はかけらもない。

実は、ここからが大事なところである。短期投資家はじめ市場関係者は市場の需給をやたら気にするが、そのほとんどが目先の需給動向についてである。長くても、せいぜい数カ月から半年先を読むぐらいだろう。それでもって、日本株の見通しをどうのこうの言っているわけだ。

そこでは、ヘッジファンドがどう出てくるかとか、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の日本株投資比率引き上げで、いつ買いが入ってくるかといった読みが中心となってくる。

半面、10年ぐらいの時間軸で市場の需給を読むといったことは、誰もやらない。面白いことに、われわれ長期投資家はそういった構造的な需給変化に関する読みは、すごく大事にする。

■持ち合い解消終了という変化

日本株市場は1989年末に付けた史上最高値を二度と抜けないのではとよくいわれる。現に、日経平均株価は最高値の半値以下の水準をウロウロしている有様だ。

実際、89年末の史上最高値からみるに、もう25年にわたって日本株市場はひどい低迷状態から抜け出せずにいる。これだけ長く上昇期待を裏切られ続けたから仕方ないのかもしれないが、日本の投資家には弱気の相場観が染みつき、へっぴり腰の投資しかできないという悪循環に陥っている。

ところがだよ、そんな日本株市場に長期の需給を当てはめてやると、全く違った絵が描けるのだ。そこからは、一刻も早く日本株を目一杯買っておこうよという結論が導き出せる。当コラムで、自分がずっと日本株は強気で買っておけと主張してきている根拠でもある。

どういうことか? 日本株市場をして89年末まで年率20.2%(日本証券経済研究所調べ)という世界最高の長期上昇トレンドを描かせたのは、企業と企業・銀行の間での株式持ち合いと、生命保険会社による株式の大量政策保有であった。

67年の資本の自由化に相前後して、安定株主工作という大義名文で株式持ち合いと政策保有が本格化した。法人筋は88年のピーク時に東証1部上場企業の全発行株数の実に55.3%まで保有するに至った(大和総研調べ)。そこへ、機関投資家の日本株保有を含めると、驚くなかれ、日本株の73%強が法人保有となったわけだ。

法人筋がこれだけ買いまくり、全く売らなければ日本株市場はすさまじい上昇トレンドを追って当然である。それが89年末までの、日本株市場における構造的な需要超過状況だった。

ところが、90年の年初から法人筋は一転して日本株の売りに転じた。バブル崩壊による不良債権処理やらで、持ち合いと政策保有のやみくもな解消売りに転じたのだ。

彼ら法人株主には投資家という感覚がない。たとえ保有株を叩き売って大損を出したところで、他の利益を持ってきて相殺させれば、いくらでも決算ができる。とにかく保有株は売るのだという経営判断でもって、一方的な売りを出し続けた。それが、バブル崩壊後20年にわたって日本株を長期低迷させた最大要因である。

その持ち合いと政策保有だが、ピーク時の55.3%から、4年ほど前には8%前後にまで急減した。ここまで減れば、日本株市場を叩き潰してきた構造的な売り圧迫要因は出尽したと考えてよい。

■ファンダメンタルズ重視に

日本株市場が89年末まで年率20%強の上昇を続け、90年からは80%強の下落をしたまま低迷を続けているのは、ひとえに特殊な日本的需給構造の結果といえる。株式の持ち合いと政策保有が20年超のすさまじい上昇相場を演出し、その後の解消売りがやはり20年越しの株価低迷を引き起こした。

全発行株数の50%強を買い上がった津波のような買いエネルギーと、その後47%分も売り切った圧力の前では、誰も何の抵抗もできない。企業収益の改善などファンダメンタルズの動向は関係なく、株価を押し潰してしまう。

しかしながら、すさまじかった津波は去った。その再来もない。

そう、ようやく日本株市場は株式持ち合いの急激な進捗と、メチャクチャな解消売りという絶対的な需給要因から離れて、ファンダメンタルズを反映させた投資ができる環境となってきたわけだ。いよいよ、われわれ長期投資家の出番である。

ここからは、収益動向や将来可能性から大きく買われる銘柄が、どんどん飛び出してこよう。日本経済がどうの、デフレがこうのといったマクロ要因は横へ置いてでも、市場で個別人気を集める銘柄が続出しよう。

持ち合い解消といった構造的な売り圧迫はもうない。個々の企業の収益向上の度合いに応じた選別投資を、思い切り進めよう。

澤上篤人(さわかみあつと)
1973年ジュネーブ大学付属国際問題研究所国際経済学修士課程履修。ピクテ・ジャパン代表取締役を務めた後、96年あえてサラリーマン世帯を顧客対象とする、さわかみ投資顧問(現さわかみ投信)を設立。
[日経マネー2015年1月号の記事を基に再構成]
[以上 引用/マクロ経済動向と資産運用形成研究室]