サラリーマンは「老後破産」しない

サラリーマンは「老後破産」しない、という目を引く標題のコラムが日経新聞に掲載されていましたので、引用しておきたいと思います(※1)。

老後資金というのは、一体いくらくらいあれば足りるのか、これは個人によって違うはずですので、一概には言い得ませんが、ここでこのコラムの筆者が述べている通り、次の点を満たしていれば、年金だけでも確かに十分収支の帳尻は合うのかも知れません。

①住宅ローンが完済されていること。
②子供の教育資金が必要ないこと。

当室管理人も定年が近いので、自分の家計の毎月の支出の平均値を計算していますが、一番負担の大きいのが子供2人の学費であり、次が食費、その次が住宅ローンです。特に子供の学費は圧倒的です。

仮に、子供たちが就職して学費負担がなくなり、住宅ローンが完済となってその負担が消滅し、食費が家内と2人だけとなって圧縮されれば、必要なのは、自宅マンションの管理費、水道光熱費、食費の半分、固定資産税、雑費のたぐいですから、「年金+α」で25万円程度の月収があれば確かに収支トントンといったところだと思います。

持ち家というのは、住宅ローンさえ終われば、家賃が掛かりませんし、立地条件が良好であれば相応の価格で売却もできるので、賃貸住宅に住み続けるよりは結構利得のある生活投資なのかも知れません(なお、戸建てですと自分で修繕積立金を確保する必要がありますが、マンションの場合は管理費と一緒に修繕積立金も支払うので強制的に貯まっています)。

さて、老後資金を準備するとした場合、ほとんど趣味で投資している当室管理人のような人物は別として、毎日の仕事に多忙な一般のサラリーマンとしては、投資に邁進・注力している暇は到底ありませんから、毎月の積立方式で自然に将来の自分年金が積み上がるというのが一般的でかつ多数派であると思います。

そうした点では、インデックス投信への積立という方法は、ポートフォリオが適切であれば一番無難なやり方であると思われます。

ただし、相場には変動がありますので、日本株の様にバブル的に上昇した後に長期間低迷したまま、ということも十分有り得ますから、適当な場面での利確の必要性を感じるのもまた事実であり、実はそこが当室管理人が純粋なインデックス運用のできない理由です。

ところで、当室管理人好みの毎月分配型投信、ETF等の評判はインデックス投資家には今一つですが、これらの商品は、「分配金部分を毎月自動利確する商品」と当室管理人は理解していますので、或る程度の利確を重視するのであれば、毎月分配型投信、ETFを特に投資対象から排除する必要性はないものと思います(もちろん、信託報酬が1%を超えるものは敬遠しますが)。

元金としての投信価額が維持されていれば(10000円の投資価額がそのまま10000円で維持されていれば)、分配金部分は(特別分配金にしろ)利得ということで間違いなく、キャッシュフロー(現金流列)が手元にもたらされる有用性があります。

それを再投資する場合は、確かに毎月の税金支払い部分は損した感じになりはしますが、ただそれは含み益で保有するか、実現益として保有するかの好みの問題および期待利回りの違いだと思っています。

利回りは高い方がベターなのが当然だとしても、①含み益は運用できないのに対して、実現益は(税金分利回りは低下しても)再投資だけでなくて生活費などにも使用できますし、別の投資商品に回すことも可能だという流用性があります。しかも、②仮に相場が下落しても、あらかじめ部分利確が出来ていますので、分配金なしの投信が相場通りに全面下落するほどにはダメージを受けないと見ることも可能です。

ちなみに、当室管理人の保有している米国ETFは分配金のあるものだけとしています。分配金があるために、元本資産の価格水準は、確かに概ね横這い推移です。

もちろん、元金が増価する方が運用感はありますが、それでも分配金が定期的サイクルで確保できれば、元金増価部分または利息部分が利確されていると思えば良いだけのことであり、銀行定期預金と感覚的には大差ありません。個別株の様な派手さはありませんが、継続的に目標利回りが毎年確保できるのであれば、インデックス運用に引けはとらない方法となるように思います。

そうした定期分配金型のETFでも、リーマン・ショックのような市場全体の下落場面では、確かに連動して大きく下落しています。その場合の損失防止の対応策としては、やはり買い増しの一手、「ナンピン買い下がり」であろうと思います。いずれの投資方法にも共通ではありますが、フルインベストメントにすることなく、手元資金を少し残しておくということが大事です。

その点、③定期分配金があれば、自動的に手元資金は残存傾向を持つこととなります。定期分配金型のETFは、当室管理人の考え方では、結構メリットがあり、総体的に見れば特に不利ということはない印象を持ちます。


[以下、引用]
◆(※1)サラリーマンは「老後破産」しない
経済コラムニスト 大江英樹
2015/5/28 3:30日本経済新聞 電子版

最近は雑誌やテレビの番組などで「老後の不安」を取り上げられることが多くなってきました。年金への不安や不信というのがその背景にはあると思われます。高齢化が進展していくなかで自分の将来が一体どうなるだろうと不安が頭をもたげてくるのは当然かもしれません。

「老後には1億円必要」とか「退職時には少なくとも3千万~4千万円は用意しておかなければ」といった文言を目にすると普通の人は驚き、焦るに違いありません。私自身が金融機関で営業をやっていた30年前も今と全く同じことを言って不安をあおり、保険や投資信託を買ってもらう営業がおこなわれていました。

でもそういうことをいっている人たちのほとんどは実際に退職後の生活の経験がない人ばかりです。「老後に1億円必要」の根拠は一般にいわれている「ゆとりある生活をおくるために必要な生活費は月額35万円」ということのようですが、私自身が3年前から年金生活をするようになった実感からいうとそれほど必要とは思えません。実際に生活している人の平均額は恐らく25万円程度でしょう。計算の仕方にもよりますが、これなら老後生活に必要な金額は7千万~8千万円ぐらいです。

私は退職後にどれぐらい生活費がかかるかを実際に知りたくて退職前から自分で家計簿をつけてみました。退職時点で住宅ローンも終わり、子供も独立していましたから、夫婦2人だけの生活であれば、退職後はだいたい月に20万円前後の生活費でまかなえます。もしこの金額でずっと生活するのであれば、必要な額は6千万円ぐらいに減ります。

サラリーマンであれば生涯に受け取る公的年金の金額は5千万~6千万円ぐらいはあります。たとえば夫の月給が38万円で、5歳年下の妻が専業主婦。夫妻共に65歳から平均余命(男性約19年、女性約24年)まで支給されるとしましょう。夫の支給額(厚生年金と国民年金)は年193万円で計約3700万円、妻の支給額(国民年金のみ)は年78万円で計約1900万円。2人でざっと総額5600万円受け取る計算です。もしこれに退職金や企業年金が加わるのであれば、老後の生活費のかなりの部分はカバーされます。

サラリーマンの場合は自営業者よりも公的年金の金額は多いのが普通です。妻が働いていて厚生年金加入者であれば、普通に生活していれば、そうそう老後破産するようなことはないといっていいでしょう。

ただ、これは定年時に住宅ローンや教育費の負担がなくなっているということが前提です。したがって最近のように晩婚化が進むと、定年時にこの2つの大きな負担を残さないようにすることが大切です。ローンであれば可能な限り返済を早めておくことと教育費が退職後に発生するのであれば、別途準備しておくことが必要です。

お金のかかる趣味をたくさん楽しみたければそれなりに準備しておくことが必要です。でもそれほどお金を使わず、月15万円程度で楽しく生活している夫婦だって決して少なくありません。要はライフスタイルの問題なのです。

老後に対して自助努力で備えておくことは大切なことですが、それは金融機関主導で行うのではなく、あくまでも自分主導で行うべきです。最も大切なことは老後にどんな生活をしたいかを自分でイメージすることです。

人間には「ヒューリスティック」といって、あまり深く考えたり冷静に分析したりするのではなく、直感的に判断する傾向がありますから、テレビなどで悲惨な老後をおくる人たちの実態を見ると不安心理が増幅されます。人は誰しもネガティブなことについては、たとえそうなる確率が低くても自分がそうなってしまうのではないか、という気持ちが強くなります。結果として自分が見たことが起こる可能性が高いと感じてしまうことになるのです。

もちろん公的年金制度が何の問題もなく万全だとは思いませんし、様々な不幸な事態が重なった結果、厳しい老後生活を余儀なくされている方がいらっしゃることも事実です。ただ、世の中の大部分の人がそうなるということではありません。にもかかわらず、そうした現状があたかも全ての人に当てはまるかのようにあおることで金融機関が自社の金融商品へ誘導しようとすることにはやや違和感を覚えます。

「老後破産」というショッキングな言葉にあおられて焦って投資する必要はありません。自分がどんな生活をしたいか、それにはどれぐらいお金がかかるか。そして公的年金や退職金でそのうちどれぐらいまかなえるのかをじっくりと計算してみてから始めた方がいいのではないでしょうか。

気持ちはうんと楽になると思います。

本日から、「定年楽園への扉」というコラムを連載することになりました。リタイア後のシニアライフについて、年金・保険・資産運用から趣味・健康管理まで、みなさまのお役に立てるような情報を発信いたします。

大江英樹(おおえ・ひでき) 野村証券で個人の資産運用や確定拠出年金加入者40万人以上の投資教育に携わる。退職後の2012年にオフィス・リベルタスを設立。行動経済学会の会員で、行動ファイナンスからみた個人消費や投資行動に詳しい。著書に「自分で年金をつくる最高の方法 確定拠出年金の運用【完全マニュアル】」(日本地域社会研究所)など。近著は「老後貧乏は避けられる」(文化出版局)。CFP、日本証券アナリスト協会検定会員。
[以上 引用/マクロ経済動向と資産運用形成研究室]