ねじれる中国、とてつもない不確実性(武者陵司)

楽観主義の武者陵司さんが、中国経済については悲観的(?)な見解を日経新聞で述べていますので、引用しておきたいと思います(※1)。

いわく、
①今の中国経済は、なりふり構わぬテコ入れ政策が相次いで打ち出され、かろうじて失速を免れている状況といえる。
②最も必要な国有企業の改革や労働分配率引き上げによる消費主導経済への移行などは棚上げされ、経済の長期的な展望は絶望的となっている。
③それとは裏腹に1年で2.5倍という突出した株価上昇が進行している。企業破たんや経済の急減速により収益悪化が推測され、本源的企業価値が衰弱している下での株価急騰は明らかにバブルである。
④資本の毀損は、日本のそれを大きく上回っていくことは避けられまい。
⑤中国の成長持続と世界経済・政治におけるプレゼンスが高まり続けるシナリオはもはや無いのではないか。いずれかの時点で成長が停止し、経済危機が起きるだろう。
⑥その先には、共産党独裁に関わる体制問題が浮上する。とてつもない不確実性である。

上海総合指数の崩落も、それほど遠い将来ではありますまい。

画像
(上海総合指数10年間:SBI証券より引用)


[以下、引用]
◆(※1)ねじれる中国、とてつもない不確実性(武者陵司)
武者リサーチ代表
2015/6/14 6:30日本経済新聞 電子版

中国をどう見るべきか。経済規模と地政学において大きな存在感を示す一方、それとは好対照に目先の経済困難は深刻さを増している。このようにねじれている中国の現実、そのどこに注目するかで人々の対中イメージは180度異なる局面と言える。

中国は圧倒的な経済規模を見せつけている。2014年の購買力平価ベースで中国の国内総生産(GDP)は米国を抜き世界最大の経済大国となった。また外貨準備高は3.7兆ドルと第2位の日本の1.2兆ドルのほぼ3倍と突出している。これらのデータは19世紀初頭、世界GDPの3割を占めていた当時の清帝国のプレゼンスが再び復活するとの長期展望を正当化するものとなっている。過半の欧州人はそうした西欧・米国から中国への重心の歴史的シフトを所与のものとして受け止めつつある。

この流れに沿い中国は世界のルールメーカーになる野望を隠さなくなった。アジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立、「一帯一路」構想、「海と陸のシルクロード」、南沙諸島の岩礁の埋め立て、「新パナマ運河といわれるニカラグア運河」構想などを遂行、米国と並び世界秩序を決める側に立つことを鮮明にしている。

米国がボイコットを呼びかけたAIIBにイギリス、ドイツ、フランスなど欧州の米国の同盟国が参加を決めたのも、中国の世界秩序のセッターとしての自信を強めるものとなっている。習近平国家主席は米国の不同意をおして、米中の「新型大国関係」「太平洋は米国と中国がともに振る舞うのに十分広い」等と、米国と伍(ご)して存在感を誇示している。

しかし、翻って足元の経済の衰弱は顕著である。鉄道貨物輸送量、発電量、粗鋼生産量、輸入数量などは軒並み前年比でマイナス領域に陥っている。工業生産増加額も2010年のピーク時が前年比20%増だったのに対し、13年は10%増、14年は8%増にとどまる。2015年に入って以降は5~6%増に低下している。成長をけん引してきた設備投資と不動産投資は完全に失速した。不動産価格が下落に陥るなど、政府が今年の目標として掲げる「7%」成長とは程遠い経済の衰弱ぶりである。消費も減速が顕著で、4月には自動車販売が前年比マイナスになった。

今は、なりふり構わぬテコ入れ政策が相次いで打ち出され、かろうじて失速を免れている状況といえる。テコ入れの第1の柱は過大投資の上に屋上屋を重ねる高速鉄道、地下鉄、高速道路などのインフラ投資である。第2は金融緩和であり、預金準備率の引き下げ、金利の引き下げ、住宅ローン規制の緩和が実施されたが、加えて地方政府債務の証券化とそれの中央銀行引き受け(中国版量的金融緩和)が検討されている。

最も必要な国有企業の改革や労働分配率引き上げによる消費主導経済への移行などは棚上げされ、経済の長期的な展望は絶望的となっている。

それとは裏腹に1年で2.5倍という突出した株価上昇が進行している。企業破たんや経済の急減速により収益悪化が推測され、本源的企業価値が衰弱している下での株価急騰は明らかにバブルである。1990年ごろの日本のバブルと比較する見方があるが、根本を成す企業価値のあり方からしてそれとは比べものにならないほどのバブルなのではないか。

中国国有企業は政府が株式の過半を保有し共産党官僚が率いる経営であり、資本増殖と株主価値の増大化に責任を負う日本とはガバナンスが本質的に異なる。その結果生まれる資本の毀損は、日本のそれを大きく上回っていくことは避けられまい。

となると、中国の成長持続と世界経済・政治におけるプレゼンスが高まり続けるシナリオはもはや無いのではないか。いずれかの時点で成長が停止し、経済危機が起きるだろう。その先には、共産党独裁に関わる体制問題が浮上する。とてつもない不確実性である。

対外膨張を続ける中国に対し米国も重い腰を上げ始めた。米中新冷戦の兆しとも考えられる。危機はどう発現するか、また世界と日本に対する影響はどうか、注視しなければならない。

武者 陵司(むしゃ りょうじ) 武者リサーチ代表、ドイツ証券アドバイザー、埼玉大学大学院客員教授。1949年9月長野県生まれ。73年横浜国立大学経済学部卒業。大和証券株式会社入社。企業調査アナリスト、繊維、建設、不動産、自動車、電機、エレクトロニクスを担当。大和総研アメリカでチーフアナリスト、大和総研企業調査第二部長を経て97年ドイツ証券入社、調査部長兼チーフストラテジスト、2005年副会長に就任。09年7月株式会社武者リサーチ設立。主な著書に「アメリカ 蘇生する資本主義」(東洋経済新報社)、「新帝国主義論」(東洋経済新報社)、「日本株大復活」(PHP研究所)、「失われた20年の終わり」(東洋経済新報社)、「日本株100年に1度の波が来た」(中経出版)、「超金融緩和の時代」(日本実業出版社)など。
[以上 引用/マクロ経済動向と資産運用形成研究室]