持ち家が得か、賃貸が得か、この難題に、ひとつの答えを出そう/山崎元氏

投資関係では最近は余り興味深い記事が少ないため、当ブログも休載してしまう週が増えました。今回は、山崎元さんが、持ち家と賃貸住宅とを比較した場合の有利性についてコメントしている記事が現代オンラインにありましたので、全文掲載しておきたいと思います(※1)。

山崎さんは賃貸住宅有利説のようですが、当室管理人は条件付持ち家有利説を確信しています。条件付というのは、持ち家の残存価値による、ということがあるからです。

普通のサラリーマンである当室管理人自身の偏狭で一般性のない実例で説明しますと、約20年前に住宅ローンを組んで購入した現住のマンションの当時の価格を100としますと、現在の価格は65レベルです。

一方で、このマンションを賃借した場合の家賃は買い値から見ますと4.2%レベルで、これは購入当時からほぼ変化しておりません。20年間このマンションで家賃を支払ったと仮定した場合の総支払い額は、4.2×20年=84となり、マンション残存価値(現在価格)が100-84=16以上であれば賃貸支出を上回って持ち家の価値が残存した、ということとなります。

ただこれだけでは賃貸との比較には不十分であり、当然ながら住宅ローンの金利支払い額を計上・考慮する必要があります。

当室管理人の住宅ローンの金利は、低金利のお陰で概ね2.4%レベル(現状の住宅ローンとしては結構高金利?)で推移しましたし、内入れ返済を何度か実行したこともありますので、元利金等返済による構造的利払い負担の割増し分を考慮しなければならないとしても、それでも2.4%の単利払いの場合と大差ないと思われますので、それで計算・比較してみます。

当室管理人は買い値の50%の額でローンを組みましたので、利息累計の概算額は、50÷2×2.4%×20年=12となり、16+12=28以上のマンション残存価格があれば、十分にペイしたということとなります(ローンは20年でゼロになると仮定)。

これが仮に、通常取引レベルの買い値の80%で住宅ローンを組んだ場合ですと、80÷2×2.4%×20年=19.2となり、それでも16+19.2=35.2の残存価格があれば十分にペイしたこととなります。

簡単に言えば、この事例における賃貸利回り4.2%よりもローン金利が20年間の間低ければ、購入が有利というおおまかな結論が得られます。

もちろん金利以外にも、売買の場合には、仲介手数料として3%+6万円が必要であり、登記費用なども必要ですが、賃貸の場合でも礼金、敷金、仲介手数料が必要ですし、契約更新の場合は2年ごとに仲介手数料が発生しますから、売買ほどではなくとも、それと遜色ないくらいの(?)費用負担が発生しますので、これらの経費は比較上考慮はせずに捨象することとします。

そうしますと、以上から、結論的には山崎さんの所論と大差ない話とはなりますが、比較に関係する変数としては、住宅ローン金利の水準と、持ち家の残存価格(つまり立地条件にともなう売却価格レベルの維持可能性)ということになろうかと思います。

ところで、人口減少社会という難問をどう織り込むかという大きな課題がありますが、単純に思案すれば、住宅需要減少ということは、購入に有利で売却にとって不利であることは間違いありません。今後将来的に住宅が余りぎみで価格が長期低落傾向を持つとするならば、今購入して20年後に売却というのは不利な感じがします。ただ、人口減少による物品の消費需要減少からインフレ率の低下(つまりデフレによる金利の低下・低迷)をもたらすことも同時に予想されますから、ローン金利は将来的にも現状のまま低位維持ということは有り得ます。

他方、賃貸住宅については、賃貸需要の減少から賃貸価格の中長期的下落を招来することが予想されますが、住宅価格との比較では、賃料の方が下方硬直性が高めと思いますので、購入・賃貸の条件比較のうえでは効果は概ねパラレルか、やや賃貸有利となりそうな感じはします。

とはいえ、20年間の金利水準や20年後のマンションの売却価格を予測するのは到底無理というものですから、購入する場合は、結局は①立地条件の良い場所の物件を購入するということでありましょうし、②金融緩和が継続している間は金利は低いものと見なして、内入れ返済を前提とした住宅ローン(無理した借入れをしない)調達を行う、という平凡な判断に尽きるものと思います。その場合は、ボラティリティ概念などを持ち出さなくとも、必ずや購入の方が賃貸よりも有利となりましょう。

なお付言するならば、賃貸の場合は保証人が必要という結構難儀な問題がありますし、高齢者には大家さんの貸し渋り心理が働きますので、賃貸には老後に経済的条件以外の不利な要素が存在するものと思います。一方で、持ち家の方は、住宅ローンが終了すれば、その後何年住んでも(?)家賃に相当する費用がかかりませんから、歳を取ってからは安心感があります。


(注) 住宅ローンの内入れ返済・・・ボーナスなどが出た折に、50万円、100万円など一定の額を前倒しで返済してしまうこと。毎月のローン返済額が減額となるか、あるいはローンの期間が短縮できる効果があり、内入れ時にどちらか選択できる。内入れ返済するとローン元金が減少するので、借入れ期間中における累計利息削減効果は大きい。


[以下、引用]
◆(※1)持ち家が得か、賃貸が得か――
この難題に、ひとつの答えを出そう
2015年06月18日(木) 山崎 元 /現代ビジネスより

アベノミクスに浮かれてばかりいてはいけない

筆者が本当のことを言える理由

自宅の住居に関して、「持ち家か、賃貸か」は雑誌などで頻繁に取り上げられるテーマだ。あるテレビ番組がこのテーマを取り上げることになり、たまたま筆者は「賃貸派」側に立ったディベートへの参加を求められることになった。

率直にいって、筆者の側は、経済的に著しく損なディベートへの参加となる。テレビで不動産を買う方が得だと論じると、不動産会社や金融機関が今後開催するセミナーの講師などに呼ばれる可能性が大きい。評論家にとって、講演こそが割りのいい収入源だ。

しかし、「不動産を買っても得にならない」と論じる筆者の側は、不動産会社からも銀行などの金融機関からも講師として不人気だろう。もっとも、もともと彼らには不人気なので、実害は小さいが。

今回は、このディベートに臨むにあたって、主に賃貸派の側から見た不動産について論点をメモしてみたい。

いきなり日和るようで恐縮だが、「持ち家か、賃貸か」は一概には決められない。主として、家賃と不動産価格との間の関係で決まる。不動産価格が高すぎるなら賃貸がいいし、不動産価格が十分に安い時は持ち家がいい。

不動産価格の高低の判断基準は、「自分が払うはずの家賃も含めて収益と見なした時に、リスクに見合うリターンがあるかどうか」だ。

筆者は不動産の専門家ではないので、昨今の不動産事情の参考書として沖有人『2018年までのマンション戦略バイブル』(朝日新聞出版社)を参照した。豊富なデータに基づいて不動産事情が的確に紹介されている良著で、不動産に関心のある方には一読をお勧めする。経済の見方についても筆者と一致点が多い。

だが、本書はマンションを買うべきだと推奨し、筆者は、特に普通の人は買わない方がいいと考えた。結論は正反対となった。

なぜ正反対の結論がでるのか

沖氏は、東京都心の好立地にある主にタワーマンションを購入して自宅として住むことを勧めておられる。

主な理由は、アベノミクスによる金融緩和、外国人のマンション需要、相続へのマンション利用に伴う特需などだ。また、見かけの家賃利回りに惹かれて郊外のマンションを買ったり、今後地価の下落が予想される郊外の一戸建てなどは買わない方がいいと論じている。

同書によると、収益還元法的な不動産価格評価が普及した結果、家賃と不動産価格の間の関係がかつてよりもはっきりして、東京の郊外のマンションの家賃利回りで5%くらい、都心の人気物件では3~4%くらいだという。

問題は、この不動産価格が「買い」かどうかの判断だ。

仮に、郊外の物件は価格下落の損が発生するとしても、都心の人気物件は値下がりせずに転売できると考えてみよう。3~4%は好利回りか。

もちろん、事後的に結果がそうなれば現在の長期金利(0.5%程度)から見ても大いに得なのだが、意思決定の段階では、この利回りは不動産の投資リスクを負っての期待リターンだ。

では、不動産のリスクはどのくらいあるのだろうか。 

マンション相場のリスクを推測するために、優良マンションへの投資が多いと思われるJ-REIT、日本アコモデーション投資法人の取引価格のリスクを過去5年分の月末価格から計算してみた。結果は、約19%(リターンの年率標準偏差)であり、日経平均のリスクといい勝負だ。

一方、同法人は借り入れを行ってレバレッジを用いた投資を行っており自己資本比率は約45%だという。レバレッジ1倍のマンション価値のリスクは9%くらいだろう。

根拠なき断言にダマされない

ただし、個別のマンション投資への場合このリスクと同等だと見る訳にはいかない。

このファンドは100以上の物件に分散投資しており、立地の人気変動、個別物件のトラブルなどのリスクを分散している。

また、不動産の稼働率は95%を超えているとのことで、ビジネス的にも平均以上にうまく管理されている物件が多いと推測できる。個人のマンション投資よりはかなりうまく行っているケースだと見るべきだろう。

また、投資として考えた時、流動性や取引コストも問題となるが、個別不動産の場合買い手を見つけないと売れないし一括で売る必要があるのに対して、J-REITの場合市場でいつでも売れるし、分割して売却することもできる。

取引コストも、沖氏の著書によると売却価格の片道約4%という個別の不動産物件(所有8年で住み替えるなら年率1%の利回り圧迫に相当する)よりも株式並みの手数料でいいJ-REIT(ネット証券だと売却額の0.1%以内だろう)は圧倒的に安い。

あれこれの事情を考慮すると、個別の不動産物件に対して、標準偏差では9%の倍の18%くらい、せめて15%くらいのリスクを見ておきたい。

他方、内外株式へのインデックス投資だとリスクが18%程度で、期待リターンが金利プラス5%見込めるとするなら、金融資産への投資の方がリスクとリターンの効率が良かろう(機関投資家の運用計画における内外の株式の平均的なリスクプレミアムは5%強だ)。

取引コストを考え、メンテナンスのコストも考えると、3~4%という家賃利回りは実質で1%以上低下し、実質的な投資リターンを圧迫するだろう。

ちなみに、前掲書によると、平均的に見てマンションの価格は坪あたり4万円下がり、家賃は築年数が1年増す毎に1%下がる傾向があるという。家賃利回りに変化がなく、マンションの価格が下がらないというのは、相当に強気の前提条件だといっていい。

なお、「いい物件を選ぶと値上がりするマンションはある」という意見もあろうが、これは「全体が下げ相場でも、銘柄を上手に選ぶと儲かる株は必ずある」という証券マンの根拠無き断言に近いと言っておこう。少なくとも、事情通ではない「普通の人」は、自分には無理だと考えておくべきだ。

「普通の人」には大きなリスク

期待リターンが必ずしも高くなくても十分プラスならいいではないか、という考え方もあろうが、これは、資産のごく一部を不動産に振り向ける場合にいえることで、住宅ローンを組んで自宅用のマンションを取得するような、普通の所得と資産の家計にはマンション購入は過大なリスク・テイクと思われる。

仮に、2000万円の自己資金があって、6000万円のマンションを買う場合、3倍のレバレッジを掛けて長期間にわたる信用取引をするようなリスク・テイクとなる。少なくとも、リスクの取り方として上手いやり方ではない。

沖氏の勧めるような都心の新築マンションのファミリータイプの部屋(70平米以上)は7000万以上するので、普通のサラリーマンがローン無しで買うことは難しいし、まして、分散投資の一部として持つという運用をすることは不可能だ。

購入にローンが必要な人は、それが過大なリスク・テイクであるという理由でマンション投資を諦めるべきだろう。

「低金利」という言葉に引っかかるな

言うまでもなく現在は低金利であり、住宅ローン金利も未曾有の低さだ。「銀行が貸してくれるということは、信用があり大丈夫だと言うことなのだから、借りるべきではないか」、あるいは「低金利の今のうちに、できるだけ大きな金額を借りておけ」という意見があるかも知れない。

しかし、低金利でも銀行がお金を貸したがるのはなぜなのか。

それは、低利とはいえ銀行が儲かるからだ。現金で買わずにローンを使って買うことは、大雑把には銀行の儲けの分だけ損だと考えるべきなのだ。

例えば、固定で1~2%の低金利で借りていても、まとまった臨時収入があれば、ローンの期前返済を勧めるFP(ファイナンシャル・プランナー)は多かろう。返済を資金の運用として考えると、無リスクで1%或いは2%で運用できる先などないから、これは絶好の運用機会だ。ローンの期前返済が普通はあり得ない良い運用になるということは、ローンを借りている状態が損だったからだ。

ちなみに、不動産投資の利回りよりもローン金利の方が低いなら儲かっていると考えるのは、リスク付きの利回りである不動産投資のリターンと、リスク無しで返さなければならないローンの利回りを、リスクが異なるにも関わらず直接比較する誤りを犯している。(筆者は、この金融論的な誤りを某マネー本にちなんで「欲張り父さんの錯誤」と呼ぶことにしている)。

また、低金利で借りていて、将来金利が上昇すると、負債側では儲かっているような気になるかも知れないが、不動産価格は金利上昇によって下落するので、トータルでは儲かっていないことが起こり得る。

家は余るし、人手は不足する

今後インフレが起こった場合、家賃が上昇するし、不動産価格も上昇するかも知れないので、不動産投資が良いインフレヘッジになるという意見についてはどうか。

もちろん、固定利回りの長期債よりも、不動産や株式の方がインフレに強いことはいうまでもない。だが、賃貸派からいうなら、インフレになる場合、賃金も上昇するはずだから家賃が払えないということはあるまい。長期的には、人手は不足しており、家は余るのだから、賃金、家賃が共に上がるとしても、賃金の上昇率がより大きいと考えるべきだろう。そして、もちろん、デフレよりもマイルドなインフレの方が、職を得ることが容易だ。 

不動産価格の決定原理を考えると、家賃上昇率と金利の上昇率のバランスが問題になる。家賃に上昇期待が生じ、しかし金融緩和で金利が抑えられているインフレの初期はこのバランスが両方とも不動産価格にプラスに働くので不動産価格が上昇しやすい。これは、アベノミクス導入以降、最近までの不動産価格上昇の背景でもある。

一方、インフレ率が上昇してこれを抑える段階に入ると、金利の上昇が家賃の上昇率を上回る事態が起こる公算が大きい。この場合、不動産の理論価格は下落することになる。インフレの場合に、不動産が常に有利な運用資産ではない。

ちなみに、政府の中長期経済財政見通しによると、住宅ローンに影響が大きい長期金利は、経済再生が上手く行くケースでは2017年に2.3%、2018年には3.0%、潜在成長率付近で推移するベースラインケースでも2018年には2.0%に達すると予想されている。 

現在の金融緩和、円安、さらに今後に控える東京五輪などは、いずれも不動産価格を上昇させる要因となるが、機敏に売り抜けられる不動産のプロ以外の普通の人は、その後の変化のことも考えておくべきだろう。

まして、自己資産の何倍もの不動産物件をローン付きで買わない方がリスク面で身軽だろうし、東京圏でも手軽な価格の立地や、東京以外の地域の不動産は沖氏の著書でも値下がりが指摘されているのだから、全国津々浦々の「普通の人」は、「不動産は持つのが普通だ」と思わない方がいいのではないだろうか。
[以上 引用/マクロ経済動向と資産運用形成研究室]