日本のGDP(国内総生産)は約490兆円、東証1部の時価総額が史上最大の約600兆円

日経新聞に瀬川剛(せがわ・つよし)氏のコメント記事がありましたので、転載しておきたいと思います(※1)。

今後の相場の予感ということで、当室管理人同様、次の点に不安要素がある様子が伺えます。

①日本のGDP(国内総生産)は約490兆円ぐらいしかないのに、東証1部の時価総額が史上最大の約600兆円に膨らんだというのがどこまで正当化できるのか。
②中国株のバブルが破裂したが、中国国民の行動に影響を及ぼしてくるのはこれからではないか。
③アメリカの利上げも何が引き起こされるのかは分からない。

①はいわゆるバフェット指標に関するもので、600兆円÷490兆円=1.22倍という位置に株価がありますので、要注意領域に入っていることとなります。もっとも、株式時価総額がGDPの何倍で株価が下落するかということまでは分かりませんし、確たる根拠がある話でもありません。そうした経験則的な指標ではありますが、経済規模とその拡大率が株価を支えていることは間違いありませんので、両者に一定の高めの相関度があることは推認できます。

②の上海総合指数の下落については、中国政府の腕力で小康状態となっています。影響はすぐには出なくても、少しずつ逆資産効果が景気面に現れることになるのは確実です。

③米国の金利引上げは最大の不安要因と言えます。引上げの話が出てからすでに長い時間が経過しているので、幾分くたびれて来ていますが、新興国通貨の下落など、事前準備的な動きが随所に現れています。日本から米国に向けて資金が移動する可能性はそれほど高いとは言えない(つまり今後それほど円安にはならない)と思いますが、新興国についてはまだ資金が流出する可能性はあります。その場合は、さらなる新興国通貨安と新興国の景気停滞が起こります。

しかし、一度金利引上げが行われれば、材料出尽くし感から、新興国からの資金流出も一服し、その後は米国の景気拡大に順応・準拠した各国の通貨・景気の動きに収斂するものと思います。


[以下、引用]
◆(※1)チャートブックを捨てろ(瀬川剛)

2015/7/30 6:30日本経済新聞 電子版

株式ストラテジストとして活躍する瀬川剛氏。34年間の証券マン時代はファンドマネジャー、ディーラーの経験を持ち、運用の世界も知る実力派だ。その瀬川氏が個人投資家としての人生を歩み始めた。バブル崩壊など相場の荒波をくぐり抜けてきた真骨頂は、投資のシナリオを冷静に考えるためには「チャートブックを捨てろ」だという。

瀬川剛(せがわ・つよし)氏 1955年秋田県生まれ。金沢大学法文学部法学科(現法学部)卒、78年新日本証券(現みずほ証券)入社。2000年さくら証券(当時)、01年新光証券(現みずほ証券)と渡り歩く。個人向け株式営業からファンドマネジャー、ディーラー、ストラテジストと34年間一貫して株式市場に身を置いてきた。98年の新日本証券ディーリング室長時代には企業の実力以上に株価が上昇していた金融株を空売りし、その年の株式ディーリング収益を証券業界首位に押し上げた。12年に日経CNBCのコメンテーターに転身。15年7月に瀬川投資研究所を設立、代表に就任。

■個人投資家としてスタート、ETFに注目

この7月、瀬川投資研究所を設立しました。相場解説の仕事のほか、投資を実践する受け皿になればと考えています。5月まで3年間は日経CNBCでコメンテーターを務め、いろんな企業経営者にお会いできたのが最大の財産です。これを生かして行ければと思います。

個人投資家の立場になって分かったのは、デリバティブ(金融派生商品)の発達です。よく相場解説で「先物主導」という言葉が出てくるんですけれど、あまり意味がない。いまや構造的に先物が相場を形成しているからです。

たとえば、値動きが日経平均株価の2倍となる「レバレッジ型」ETF(上場投資信託)や、値動きが逆になる「インバース型」ETFがありますが、個人投資家にとっては極めて使い勝手がいい。きょうは荒れそうだということになれば、インバース型を買う人もいるだろうし、レバレッジ型を空売りする人もいるだろうし。

こうした商品が、かなりの流動性を持っていることがいい時代になった証しです。ETFの運用会社は先物を売買することでポジションをヘッジしながら投資家の注文を受けており、先物にそのときどきのマーケットのセンチメントが如実に表れるのは当たり前です。それがいまの東京市場です。

かつて先物やオプションを売り買いするには大がかりな証拠金が必要でした。ハードルが高かったんです。それがいまやレバレッジ型ETFが東証1部の売買代金トップになることもある。個人投資家はこの1カ月ぐらいの荒れ相場でもうまく立ち回っていると感じますね。洗練されていると思います。わたし自身もこれから投資を本格化させていきますが、こうしたETFの売買から始めようと考えています。

ディーラーの世界にも身を置きましたが、ファンドマネジャーの経験が長かったし、基本的な発想はファンドマネジャーです。次に何が起きるのか、シナリオを常に考えそれをまたつぶしてもう一度つくり直すという作業を毎日のように繰り返します。

■ファンドマネジャー時代に知った「バブルは政策で生み出される」

系列の投信運用会社に出向してファンドマネジャーを務めたのは1983年からの7年間。ちょうどバブルの萌芽(ほうが)期から膨張、そして破裂を経験しました。最近、中国株バブルの破裂が警戒されていますが、だいたいバブルというのは政策によって生み出されると思います。忘れもしないのが88年。当時の大蔵省が特金(特定金銭信託)やファンドトラスト(特定金外信託)の決算処理の弾力化方針を打ち出したのです。

財テクブームのさなかでしたが、株式相場の先行きは楽観できない状況でした。85年9月のプラザ合意による強烈な円高不況、そして87年10月のブラックマンデーによる相場急落に見舞われ、その後遺症から抜け出せなかったためです。金融緩和という追い風はありましたが、日経平均はブラックマンデー前の水準を取り戻せていませんでした。

当時、金融機関や一般事業会社の保有株式の評価は特金など特定勘定は時価、本体で保有する本体勘定は簿価といったように「簿価分離」と呼ばれる特異な方式が採られていました。本体で大量の持ち合い株式を持つ金融機関や一般事業会社にとっては、魅力的な仕組みでこれが特金などによる財テクブームを後押ししました。

ところが、株価の下落で特金などが損切りに動くと相場が暴落する可能性があり、危機感を抱いた政府は損が出ている特定勘定の株式を本体勘定に移すことで損を消しても構わないという異例の決算対策を容認したのです。すべからくバブルというのは振り返ってみると政策によって誘導されます。これで相場が上がらないわけがない。恐ろしいことになると直感しました。

■バブル絶頂期、投信の解約を促す

大蔵省の方針を聞いて、後輩のファンドマネジャーたちには「チャートブックは捨てろ」といいました。チャートを見ると怖くて買えませんから。当時の相場は大天井をブラックマンデー前に付けてずっと下がっていたんです。こんなの、チャートブックを持っていたら買えない。これから運用業界にものすごい勢いで金が入ってくる。我々は運用しなくてはならないんだ。あとはどこで逃げるかだと。ある意味、割り切りだと冷めていたんでしょう。

それからホントの意味での日本のバブルに火に油が注がれて、89年末、日経平均の3万8915円まで、一気に駆け上がることになったんです。でもこれはいずれ破裂すると分かっていました。

本体の証券には投信の解約の注文が来たら、どんどん解約してくれといいました。当時のファンドは年8~10%のプラスといったパフォーマンスが当たり前。それ以上を稼ぐと成功報酬をもらえるので、解約してもらうとその分もうかったからです。それに次の年も8%稼ぐと単純に考えればですよ。9年で株価は倍になる計算です。約4万円が9年後に8万円にならなきゃならない。そんなの物理的に不可能ですから。

90年に本体に戻ったんですが、そんな状況に嫌気がさしたこともあり、仕事を辞めようと思ったこともありました。バブル崩壊の時は3万8915円からわずか3カ月で3万円割れ。91年には損失補填問題が発覚しました。世間の批判は猛烈な勢いになり、証券業界は非常に厳しい状況になりました。歴史的な大暴落で92年8月に1万4309円でようやく底を打ちました。

■銀行株を空売りし、ディーリング収益が業界首位に

90年代後半の日本の金融危機時も忘れられません。98年にディーリングセクションのヘッドになりました。信用不安に乗じる気持ちはなかったんですけれど、ある銀行を空売りしました。もろもろのファクターを積み上げると株価は下がると確信したからです。

「チャートブックを捨てろ」といいましたが、この言葉はいわばチャートなど頼りにせずに、先入観を持たずあらゆる角度からシナリオを検討するということです。当時は空売りに対して心理的な抵抗もありましたが、ディーラーは買いだけが手法じゃないだろうと考えました。

98年は日経平均が10月に当時の安値1万2879円台まで下がった年でありながら、こうした戦略があたって株式のディーリング収益は年100億円程度を稼ぎ、業界首位になりました。ただ、銘柄によっては買っていましたので、売りばっかりやってたわけじゃないですよ(笑)。

この先、日本株は厳しい局面も考えておかなくてはいけないのかなと感じています。中国株のバブルが破裂しましたが、中国国民の行動に影響を及ぼしてくるのはこれからなんじゃないですかね。それからアメリカの利上げも何が引き起こされるのかは分からない。

そんななかで日本のGDP(国内総生産)は約490兆円ぐらいしかないのに、東証1部の時価総額が史上最大の約600兆円に膨らんだというのがどこまで正当化できるのか。企業が筋肉質になったといっても従業員や株主への還元圧力は一段と強まっている。これまでは収益力を高めるために従業員や株主に泣いてもらっていたわけですが、今後はそうも行かないでしょう。こうした状況を乗り越えて収益を伸ばせる企業とそうでない企業の二極化が大きなテーマになると思います。

(聞き手は電子編集部シニア・エディター 佐藤一之)
[以上 引用/マクロ経済動向と資産運用形成研究室]