外貨逼迫する中国、脆弱な対外金融力、再元安不可避に

中国経済の実情について、武者 陵司氏がJBPRESSに解説記事を書いていましたので、長文ですが、掲載しておきたいと思います(※1)。

要点としては、次の通りです。
①2009年以降中国経済成長を牽引したのはもっぱら投資であったが、その投資を可能にしたのは巨額の対外純資本流入であった。この資本流入に大いなる変調が起きている。
②対外純資本流入の変調は、外貨準備高の減少に現われている。一貫して増加してきた中国の外貨準備高が、2014年6月の3.99兆ドルをピークに、12月末3.84兆ドル、2015年3月末3.73兆ドル、7月末では3.65兆ドルと大きく減少している。
③外貨準備高と同様に対外純資産残高も2013年末の1兆9960億ドルをピークに2015年3月末には1兆4038億ドルと5922億ドルの激減していることが判明した。
④外貨準備高の性格が日本と中国ではまるで違う。日本の定義では日銀と財務省が保有する外貨の総額で、その大半はかつての外貨介入によって取得されたものであり、その源泉は全てが過去の経常黒字にある。また2015年7月末残高1.27兆ドルであり、その90%の1.12兆ドルが外国証券、大半は米国債となっている。
⑤それに対して中国の外貨準備高には政府、中央銀行のほかに国有銀行など民間保有の短期外貨資産が含まれていると見られる。そしてその源泉は、過去の経常黒字の積み上がりに加えて、海外からの借り入れが大きく寄与していると考えられる。
⑥また中国の外貨準備高が対外純資産の2.7倍に達するという奇妙なことが明らかになった。外貨準備高のうち自国資本の裏付けが37%に過ぎず、63%は外国資本によって支えられているのである。ちなみに日本の外貨準備高は対外純資産の41%であり、フルに自国資本によって裏付けられている。
⑦真の金融力は対外純資産額なのであり、2015年3月末の対外純資産が日本は2.9兆ドル(349兆円)であるのに対して中国が1.4兆ドルと半分しかないということは、中国の対外金融余力は日本の半分に過ぎないというのが実態なのである。
⑧元高神話が砕かれたことで、それは巨額の対外資本流入を所与としてきた中国金融をさらにひっ迫させ一段の元安期待を醸成せずにはおくまい。景気対策のためには元安が必要、しかしそれは中国経済の命綱である資金流出を招くという二律背反に中国当局が追い込まれていることも示唆している。
⑨ただ、米・日・欧先進国は経済拡大の途上にあり、世界リセッションの可能性は低い。

手持ちの日本株は下落していますが、バフェット指標から見ても、焦って買う場面ではなさそうです。FRBの金利引上げ動向への懸念もあり、ポジション的には当面現状維持としておきます。

画像
(日経平均6ヶ月:SBI証券より引用)
画像
(バフェット指標:GURU FOCUSより)


[以下、引用]
◆(※1)外貨逼迫する中国、脆弱な対外金融力、再元安不可避に

2015.9.2(水) 武者 陵司
JBPRESSより

(1) 世界市場のアキレス腱、中国

バンピーな世界株式

世界経済と金融市場のアキレス腱が中国であることがはっきりしてきた。国際金融市場を不安にしている資源国やアセアン、アジアNIES諸国の通貨下落、経済悪化はひとえに中国経済の急減速を原因としている。

鉄道貨物輸送量、粗鋼生産量、発電量、輸出・輸入額など中国の基本的なミクロデータはいずれもゼロないしはマイナス圏にあり、7%成長という公式統計は実態を反映せず、中国の経済は失速したという観測も誤りとは言えないかもしれない。

上海株式の再暴落を引き金に世界主要国株式はここ1週間で軒並み10~20%の急落症状を呈し、ヘッジファンドの仕掛け売りが功を奏した形となった。中国の経済金融危機が醸成されているという可能性が排除できなくなったのである。

まだ暗雲は晴れない

急落に伴い、当然のリリーフラリーが起きている。売り方の買戻し、日本の投資家などのポートフォリオリバランスによる株式比率引き上げ(GPIFなどの投資資金は日本株急落で日本株式投資比率が急低下しており、比率を復元させるための新規買いが必要となる)はある時点から株式需給を大きく改善させ、株価のリバウンドをもたらすだろう。

しかし、その株式反発が持続性のあるものになるためには、①中国経済が着実な成長軌道に戻ること、もしくは、②中国経済の悪化が世界に波及しないこと、のいずれかが満たされる必要がある。それの見極めがつくまでは、中国問題が市場の重石となり続けるだろう。

以下では中国リスクの鍵となる、国際収支と対外バランスについて分析を試みる。

経済誌記者、中国株式市場混乱させたと「自供」 新華社

中国・上海の証券会社で、株価を見て頭を抱える男性(2015年8月26日撮影、資料写真)。(c)AFP 〔AFPBB News〕

(2) 資本逃避激増を示唆する外貨準備と対外純資産の減少

中国外貨逼迫の進行、外貨準備、対外純資産ともに急減

中国のアキレス腱はどこにあるかと言えば、それは対外資本収支であろう。中国の絶大な競争力に基づく貿易黒字・経常黒字が中国経済を牽引したのは2009年までであり、それ以降中国経済成長を牽引したのはもっぱら投資であったが、その投資を可能にしたのは巨額の対外純資本流入であった。この資本流入に大いなる変調が起きている、ここに中国のアキレス腱があると言える。

対外純資本流入の変調は、外貨準備高の減少に現われている。一貫して増加してきた中国の外貨準備高が、2014年6月の3.99兆ドルをピークに、12月末3.84兆ドル、2015年3月末3.73兆ドル、7月末では3.65兆ドルと大きく減少している。

2014年7月から2015年3月までの経常収支は2148億ドルの黒字、にもかかわらずこの間の外貨準備高が2632億ドル(=3兆9932億ドル-3兆7300億ドル)減少していたのであるから、この9カ月間だけで中国からの純資金流出(外貨準備以外の対外資本収支)が4780億ドルに上っていたと計算される。

さらに問題なのはそうした統計で捕捉されているものに加えて、簿外の資金流出が起こっていると見られることにある。それは2015年6月から初めて公表されたIMF基準にのっとった対外資産負債残高(International Investment Position)統計により明らかになった。

地下での資金逃避が急増している可能性

外貨準備高と同様に対外純資産残高も2013年末の1兆9960億ドルをピークに2015年3月末には1兆4038億ドルと5922億ドルの激減していることが判明した。本来、対外純資産残高は経常収支差額分だけ増加する計算であるはずなのに逆に減っている。この5四半期(2014年1Qから2015年1Q)合計の経常黒字は2952億ドルなので、純資産減少額と合わせて合計8874億ドルの対外資産価値が消失したことになる。為替換算損などがあり得るとしても、この差額は極めて大きい。

その原因として、①簿外の資金流出(=資本逃避)が起こっている、②帳簿上の資金流入が架空である、③対外資産において巨額の損失が発生した、④統計そのものが信用できない、の4つの可能性があるが、消失した金額の巨額さを説明できるのは(統計を信頼するとすれば)、①の資本逃避だけであろう。それは深刻な通貨信認に対する懸念と言える。

(3) 逼迫する中国の外貨事情、資本逃避、野放図の対外投資と流入資金の質の劣化

能力を超える対外投資

推測される資本逃避に加えて中国の外貨事情逼迫に拍車をかけているのが、①野放図の対外直接投資・融資と、②国際金融システム経由の資金流出、である。

中国企業の旺盛な海外投資と企業買収、「一帯一路」構想の下での巨額の対外投資、対外融資は止まらない。中国の直接投資残高は2013年末6605億ドルから2015年3月末9858億ドルと、15カ月で5割の急増となり、中国の対外プレゼンスを大きく高めている。また中国による対外ローンも同期間に3089億ドルから4319億ドルへと4割増となっている。

対中与信に懸念強まる

しかし他方中国への国際金融システムを経由した資金流入は大きく減少に転じている。中国に対するローン残高は2014年6月末6775億ドルをピークに2015年3月には4581億ドルへと急減している。海外金融機関がバブルの崩壊や企業収益悪化などの懸念を強め、対中国与信に警戒を強め新規融資を減らし既存ローンの回収を強化しているとも考えられる。

とはいえ、中国への総資金流入は、2015年3月まで大幅な増加を続けている。中国の対外債務残高は、対外純資産が減少に転じた2013年12月末以降も、大幅な増加を続けている。2013/12月末 3兆9901億ドル 14/3月末 4兆1374億ドル 14/6月末 4兆3163億ドル 14/9月末 4兆4918億ドル 14/12月末 4兆6323億ドル 15/3月末 4兆9769億ドルと、ここ15カ月で24.7%、金額にして9868億ドルも急増しているのである。

ただし資金流入の経路が大きく変わっている。15カ月間に9868億ドル増加した対外債務増加の中身は直接投資4203億ドル、証券投資(株式投資主体)5811億ドルの2つで、ローン減少1061億ドルを大きくカバーしているのである。

このように中国への資金流入の主体は直接投資、株式投資という名の、(厳正な審査を伴う)金融機関を介さない、またほとんどデューデリジェンスを経ない中国人や華僑系資本家による個人 or 家産資金にシフトしていると見られる。

対中流入資金の質の低下

2015年3月末中国の対外債務残高の内訳は直接投資2兆7515億ドル、証券投資9676億ドルの2つで全体の75%に上っている。直接投資の内訳は香港経由が2兆ドル、他の先進国が7000億ドルとなっており、いかに中国が不安定、不確かな海外資金に依存してきたかが分かる。ひとたび中国のバブル崩壊が起きればそうした資産劣化が周辺国や中国人のリスクテイク能力を奪う悪連鎖の可能性は排除できなくなる。その過程では企業会計や統計に対する疑念、データの修正なども起きるだろう。

来る数四半期のデータ悪化は想像を絶する可能性も

問題は上述のデータは株価が上昇途上にあり、中国経済の減速も強く意識されていなかった2015年3月末時点までのものであることである。株価の暴落が始まり人民元切り下げが起こった6月末(9月末発表)、9月末(12月末発表)、12月末 (2016年3月末発表)でどのようなことになっているか、想像がつかない。

株価が暴落しているのだから証券投資の激減は避けられず、直接投資も増加し続けられるか疑わしい。加えて簿外の資金流出(資本逃避)がこれまでの年間数千億ドル規模で続いているとすれば、対外純資産と、外貨準備高の減少はより深刻なものになり、市場心理を悪化させるということになるかもしれない。

(4) 中国外貨事情の特徴、巨額の対外資金依存体質

実は借金に依存している中国の外貨準備

なぜ突如中国の対外資金不安が高まったのだろうか。それは「中国は世界最大の貿易黒字国でありその結果外貨準備高は世界最大の4兆ドル弱、第2位の日本の3倍という巨額の規模となり、中国は世界最強の金融力を持っている」というコンセンサスの誤りが、露呈したからである。

新たに発表されたIMF準拠の国際収支統計、対外資産統計により実態が白日の下にさらされた。そもそも中国の成長に貿易が大きく寄与したのは2007年までで、それ以降はもっぱら投資が成長をけん引してきたが、その投資資金は巨額の外貨流入、対外借り入れによって賄われた。その対外借入資金の増加が外貨準備の急増をもたらし、それを裏づけとしてなされたマネーの供給が空前の投資を可能にしたと言える。対外金融力の象徴とされている外貨準備高も実は過半が他国資本に依存したものであるとすれば、中国の対外金融力は相当に脆弱であると言わねばなるまい。

日中の外貨準備の性格が大きく異なる

そもそも外貨準備高の性格が日本と中国ではまるで違うことに人々は気がついてこなかったのではないか。外貨準備高とは対外決済や為替市場の安定のために当局が保有する資金である。日本の定義では日銀と財務省が保有する外貨の総額で、その大半はかつての外貨介入によって取得されたものであり、その源泉は全てが過去の経常黒字にある。また2015年7月末残高1.27兆ドルであり、その90%の1.12兆ドルが外国証券、大半は米国債となっている。

それに対して中国の外貨準備高には政府、中央銀行のほかに国有銀行など民間保有の短期外貨資産が含まれていると見られる。そしてその源泉は、過去の経常黒字の積み上がりに加えて、海外からの借り入れが大きく寄与していると考えられる。中国は民間や外資企業の外貨保有を厳しく管理しているため、貿易収入や対外借り入れなどによって取得した外貨の過半は銀行に預託され、その預託額が外貨準備にカウントされていると考えられるのである。

だから日本の対外総資産額に対する外貨準備高の比率は16%に過ぎないが、中国の対外総資産額に占める外貨準備高の比率は59%と異常に高いのである。

著しい過大評価、中国の対外金融力

また中国の外貨準備高が対外純資産の2.7倍に達するという奇妙なことが明らかになった。外貨準備高のうち自国資本の裏付けが37%に過ぎず、63%は外国資本によって支えられているのである。ちなみに日本の外貨準備高は対外純資産の41%であり、フルに自国資本によって裏付けられている。

だから日中間では外貨準備高に3倍の開きがあるのに、米国国債保有高は日本1.22兆ドル、中国1.26兆ドルとほぼ拮抗している(2015年7月末)ということも起きるのである。

このように見てくると、中国の外貨準備高は対外金融力や外貨介入余力を示すものとは到底言えないことが分かる。真の金融力は対外純資産額なのであり、2015年3月末の対外純資産が日本は2.9兆ドル(349兆円)であるのに対して中国が1.4兆ドルと半分しかないということは、中国の対外金融余力は日本の半分に過ぎないというのが実態なのである。

日本の外貨準備はひも付きのない自由な資金だが、中国の外貨準備の過半は多大なる債務を負っている資金、つまり他国資本なのであり介入には投入できない。故に中国に投融資している華僑系の膨大な資本が回収に転じ始めたら、上げ底の過大表示されている外貨準備高では到底足りなくなるという事態もあり得るのである。

(5) 元高信仰の消滅が引き起こすもの

二律背反に追い込まれた中国の為替政策

以上のような外貨ひっ迫状況の下で実施された人民元切り下げは、元が上昇し続けるという元高神話を砕いてしまった。それにより中国企業の国際資金調達は今後著しく困難化し、中国からの資本逃避にも弾みがつくことも予想させる。

前回レポートしたように、8月11日から13日までの元安誘導は、景気悪化に直面している中国経済に対しては整合的なものであった。中国の輸出は1~7月累計で前年比-0.3%、7月単月では前年比-8.3%と落ち込み、これまでとは打って変わって輸出が成長の足かせとなっている。

今では中国主要都市の賃金はアジア新興国で最高となり、価格競争力の減衰が顕著になってきた。元高が競争力を弱めているのである。

また、今進行中の金融緩和を実効性のあるものにするためには、人民元安を容認せざるを得ないという事情がある。金融緩和により下落圧力を受ける人民元の価値を維持するためには元買いドル売り介入が必要だが、それは金融緩和を尻抜けにさせてしまう。やはり弱い経済実態には通貨安は必然なのである。

しかし元高神話が砕かれたことで、それは巨額の対外資本流入を所与としてきた中国金融をさらにひっ迫させ一段の元安期待を醸成せずにはおくまい。景気対策のためには元安が必要、しかしそれは中国経済の命綱である資金流出を招くという二律背反に中国当局が追い込まれていることも示唆している。

(6) 追加的不安、権力闘争と地政学

不安を高めているのが、国内の権力闘争と海外の厳しい習近平政権批判

国内ではハエも虎も叩く整風運動が経済活力を奪いリスク回避心理を強めざるを得ない。また習近平政権の相次ぐライバルの訴追により、本来集団指導であるはずの共産党統治が個人独裁化している。それは中国政府の統治能力、経済危機管理能力を大きく削いでいく可能性がある。

地政学的リスクも無視できない

米国と世界のリベラル・デモクラシー世論の対中硬化が顕著である。エコノミスト誌は、”Xi’shistory lessons”という過激なカバーストーリ―を掲載した。

表紙には、習近平国家主席が鉄砲を持っていて、鉄砲の先にペンが描かれている。エコノミスト誌の主張は ”How China rewrites thepast to control the future”、中国は、過去の歴史を書き換えることによって、軍事的台頭という将来の野望を正当化しようとしている、というものである。エコノミストは中国習政権による過去の歴史の書き換えとして、①日本の侵略に対して戦ったのは蒋介石率いる国民党政府であるのに、その成果をあたかも毛沢東率いる共産党の手柄にしていること、②過去70年間一発の発砲もしなかった平和主義の日本を侵略性を持つ国と悪魔化している、の2点を挙げ、それが中国習政権の軍事的野望を正当化するものとなっている、としている。

このエコノミスト誌の主張は、「侵略の過去を軽んじ、中国の脅威を誇張する」として、日本の保守主義者や安倍首相に批判を浴びせてきた、その見解そのものであり、エコノミスト誌が急速に軸を変えていることを示している。それは国際的リベラル・デモクラシーの陣営が大きく対中警戒にシフトしていることを示唆する。

米国は中国の南沙岩礁埋め立てによる滑走路、軍事基地建設を絶対に容認しないだろう。すでにレッドラインを超えた中国は、どう対応するのだろうか。9月の習近平訪米は、この問題を巡って正面衝突を引き起す公算が強い。この中国の意図をくじくにはどうするか、直接軍事的に退治できないとすれば、中国経済の衰弱しかないではないか、米国政権の優先順位は経済から地政学へとシフトし、それが世界株式の当面の制約要因になる、という要素を考えておくべきかもしれない。

(7) 当面の市場をどう見るか

以上は中国問題の潜在的リスクがいかに大きいかを物語るが、それが直ちに顕在化するとは限らない。また中国リスクは対中債権の大半を保有する、華僑資本が影響力を持つ国に集中しており、米日欧先進国への波及は限定的と見られる。

言うまでもなく米・日・欧先進国は経済拡大の途上にあり、世界リセッションの可能性は低い。加えて中国リスクの高まり、世界的株価下落に対しては各国では追加的政策、量的金融の増額、財政拡大が打ち出され、それも株価をさえるだろう。他方中国でも超弩級の景気対策、資本取引規制や為替統制、市場価格操作などが打ち出され、一定の成長復元、市場の鎮静化がなされる公算もある。

当面リーマンショックのようなスパイラル的悪循環の可能性は考えにくく、一方方向の株価下落にもならないだろう。当面振幅の大きなアップダウンが繰り返されるのではないだろうか。

(*)本記事は、武者リサーチのレポート「ストラテジーブレティン」より「第146号(2015年9月1日)」を転載したものです。
[以上 引用/マクロ経済動向と資産運用形成研究室]