ミサイルと解散総選挙と株価との微妙な関係・山崎 元氏

東洋経済オンラインに掲載されていました山崎元さんのコラムを引用しておきたいと思います(※1)。要点は次の点です。なお、競馬は当室の所管外ですので、省略します。

①当面、日本の投資家にとって、実質的に最大の材料は来年3月の日銀総裁人事であり、金融緩和政策の十分な継続が期待できる人選になるかどうかだ。
②もう一点、ジャネット・イエレン氏が率いるFRB(米連邦準備制度理事会)の動向が気になる。同氏は、今のところ、利上げペースについては「ゆっくり」を示唆してハト派的だが、FRBの資産圧縮に関しては案外タカ派的で、どちらをより強く志向しているのかが分かりにくい。
③米国から見ると、より大きくて本質的な仮想敵国である中国を牽制するうえでは好都合な面がある。米国にとって北朝鮮は、憎いだけの相手ではない。米国が北朝鮮と「手打ち」をする可能性もある。

当面、手を出しにくい印象があり、打診買い程度にとどめておいて、現金ポジションを厚めにしておくという点では方針に変更はありません。

[以下、引用]
◆(※1)ミサイルと解散総選挙と株価との微妙な関係 米国が北朝鮮と「手打ち」をしたらどうなる?
山崎 元 :経済評論家 /東洋経済オンライン
2017年9月2日

北朝鮮が、ミサイル発射による挑発を強めている。8月29日には、日本上空を通過する弾道ミサイルが、襟裳岬から東に約1100kmの太平洋に落下した。北朝鮮の朝鮮中央通信は、「火星12号」の発射に成功したと発表した。また、金正恩委員長は、「日本人を驚かす」意図を持って、この発射を行ったとも伝えられている。全く、迷惑な話だが、確かに「少し驚いた」。

「親分」が「悪党」の存在を認めるという可能性

軍事は、物事の性質上、関係者の「手の内」がよく分からないゲームだし、複雑な利害と偶然が絡むので、経済を考えるような論理では理解しにくいが、難しいなりに考えてみよう。

最大の力を持ち、一連のゲームで最も重要なプレーヤーである米国の利害から考えるならどうなるだろうか。北朝鮮が「ほどほどの脅威」であり続け、一方で米国は先制空爆のような軍事的オプションを行使せず、場合によっては、北朝鮮と何らかの交渉(例えば相互不可侵条約の交渉)を行うことが、合理的であるように見える(軍事の専門家ではない筆者の個人的な見解だ)。

北朝鮮が「脅威」であり続けることは、米国の軍及び武器への需要を保つうえで好都合である一方、特に在韓の米軍・米国人への甚大な被害の可能性を考えると、先制攻撃が合理的な行動だとは思えない。一方、北朝鮮も、報復の大きさを考えると、先制的軍事行動は合理的ではない。「挑発」の範囲に行動を留めて、国内での金政権の体面を保ちつつ、米国との交渉の可能性を探るのではないだろうか。

わが国には、「強い親分・米国が、悪党・北朝鮮を懲らしめてくれる」ことを期待する意見の持ち主が一定数いるように思われる。筆者もその気分は分からなくはないのだが、親分と悪党は案外衝突せず、場合によっては、親分が悪党の存在を認めるかも知れない。その場合にも、われわれは親分に用心棒代を払い続けることになるのだろうから、日本としては冴えない話だが、各当事者にとって犠牲の少ない解決が合理的なのだとすると、こうなる可能性が最も大きいのではないか。

付け加えるなら、一般に、「隣国が大きくて強力であることは自国にとって嬉しいことではない」。仮に、朝鮮半島の南北の二国が宥和したり、まして統一されるような事態は、中国にとっては(たぶん、日本にとっても)嬉しくない。だが、米国から見ると、より大きくて本質的な仮想敵国である中国を牽制するうえでは好都合な面がある。米国にとって北朝鮮は、憎いだけの相手ではない。

もちろん、各プレーヤーが、どのような意味で「合理的」になろうとしているのかは分からないし、軍事には意外な偶然が作用することがあるので、「安心」はできない。

株価的には、8月29日の日経平均終値は、87円安の1万9362円であったから、ミサイルは、ニュースとして報道が大きかった割には、大きく影響しなかった。翌30日の日経平均は、143円高だったから、株式市場的には、北朝鮮のミサイルに対して「少し驚いた」だけにとどまった格好だ。

解散総選挙の可能性は?

ミサイルの他に、投資家にとって気になる「リスク材料」として、早期解散総選挙実施の可能性が高まっていることが挙げられる。その場合、予想される投票日は10月22日(日)だという。

小池百合子・東京都知事を中心とする勢力の選挙態勢が整わないうちに、解散総選挙を実行し、自民党が多少は議席を減らすとしても自民・公明で過半数を確保して、政権の基盤を強化しようという狙いが解説されている。

野党の議員の動向などを見ると、「早期解散」には少なくとも「そうであっても、おかしくない」程度の現実味があるようだ。ただし、いざ解散ということになると、野党側の準備も急ピッチで進むことが予想され、内閣支持率の状況によっては、与党が大幅に議席を減らして、安倍晋三首相が引責辞任するような事態になる可能性も排除できない。何と言っても「選挙は水物」だ。

政治が、経済のためだけに行われるのではないこと、まして、株価や為替レートのためにあるわけでもないことは重々承知のうえで申し上げるが、筆者の思うに、日本経済及び日本の株価にとって最大のリスクは、日本銀行の正副総裁人事が行われる来年3月以前に安倍政権が潰れることだ。

当面、日本の投資家にとって、実質的に最大の材料は来年3月の日銀総裁人事であり、金融緩和政策の十分な継続が期待できる人選になるかどうかだ、と筆者は考えている。

付け加えるなら、安倍首相以外の後継候補として名前の挙がる人々はいずれも(今回、名指しは避けるがかなり広い範囲の方々だ)、財政的に安倍氏よりも「なにがしか緊縮的」だ。

実質的な緩和の効果が財政政策に左右されるようになった現状では、日本の経済と株価に対して「より心配」な人ばかりであることが気掛かりだ。また、いずれの方も、金融政策の重要性を十分に理解しているようには見えない。政治状況が流動化した時に、後継首相候補が、官僚受けを狙って消費税率引き上げを早々にコミットしたり、金融緩和の出口政策を前のめりに語り始めたりすると、それだけでかなりの円高・株安が起こりかねない。

ミサイルと解散の微妙な関係

さて、いずれも気になる「北朝鮮のミサイル」と「解散総選挙の可能性」だが、前者の後者に対する影響がなかなか微妙な関係にある。

善し悪しは、「悪し!」に決まっている北朝鮮のミサイル発射なのだが、「材料」としては、安倍内閣の支持率回復に貢献する事象だろう。国民は、ミサイルによって安全保障上の危険が高まっている時に政権交代を望まないし、安倍氏は北朝鮮に対して強硬な態度を取るので支持されやすい。加えて、ミサイルに報道が集中することで、森友学園・加計学園・稲田朋美前防衛大臣に関わる諸問題など、安倍内閣の支持率を引き下げた話題の印象が薄れる効果もある。

北朝鮮のミサイル発射には、安倍内閣の支持率を立て直して、「早期解散」シナリオを採用しやすくする可能性がある。

ただし、北朝鮮のミサイルが連日発射されたり、まして、わが国の領土・領海のどこかに着弾したりするような事態が生じた場合、「解散どころではない」という状況になる可能性もある。この場合、安倍首相が来年3月まで在任する確率が高まるので、株式市場の材料としてはむしろプラスだ。

仮に「着弾」があると、たぶん株価が急落するだろうが、全面戦争に移行するのでない限り急落した株価は「買い」だろうし、戦争になっても、戦力的には米国が圧倒的だろう。この場合も、急落があれば、株価的には「買い」である可能性が大きい。北朝鮮から見て日本は、脅す価値は大いにあるが、破壊することによって自分自身にとって利益が生じる相手ではない。

政治の一般論として、解散ムードが高まっているのに解散できずにいると、政権の求心力が弱まることが多い。安倍首相としては、早期解散を実施してから投票日までの間に北朝鮮のミサイルが発射されるような展開が政治的にベストなのかも知れない。

しかし、選挙は水物なので、投資家の立場では、次の日銀総裁人事(来年3月)の前に政権の存続をリスクに晒す早期解散シナリオが現実化することはかなり心配だ。

相場論的には、もう一点、ジャネット・イエレン氏が率いるFRB(米連邦準備制度理事会)の動向が気になる。同氏は、今のところ、利上げペースについては「ゆっくり」を示唆してハト派的だが、FRBの資産圧縮に関しては案外タカ派的で、どちらをより強く志向しているのかが分かりにくい。確かに、彼女の風貌は鳥に喩えるならフクロウのようで、ハトともタカとも判じがたい。FRBとしては、金融機関の収益にとって重要な長短金利の差をもう少し拡げたいのかも知れないが、長期金利の上昇は株価にとっては大きなダメージになり得るので要注意だ。
[以上引用 マクロ経済動向と資産運用形成 研究室]