日本経済低迷の主犯はやはり円高である

■円高は景気低迷の原因ではないと言うが・・・
ウォール・ストリート・ジャーナル日本版に、バブル崩壊以降の日本経済低迷の原因に関するIMFの見解記事が掲載されていましたので、全文を下記(※1)に引用しておきます。なお、IMFの主張そのものは、中国の元高警戒論に対するものであって、直接日本に対するものではありません。

IMFの主張内容を簡単に言えば、バブル崩壊以降の20年間にわたる日本経済の低迷の原因は、円高が主たる原因ではなくて、経済政策の失敗が主たる原因である、というのがその主張するところです。

確かに、経済理論に合致しない稚拙な経済対策が展開され続けて来ているのは事実であり、IMFの主張も一理あります。財務省主導による均衡財政主義を基調に、経済が少し回復し始めると逆噴射してみたり、順当な政策でも小出しに終始したりで、経済政策的には失敗続きと批判されても仕方のない面が多分にあるものと当室も認めざるを得ません。

しかしながら、当室流に中長期的視点から次の点を考慮するならば、必ずしも経済政策失敗説は、日本の景気長期低迷原因の本質を突いた的確な主張とは言い切れません。

すなわち、①経済の低迷期間として、20年は長すぎる。いくら経済政策が稚拙でも、基本的な景気循環の波というものがあるはずだ。②1985年のプラザ合意後の強烈な円高の影響は軽視できない度合いである。

下記のチャートは、日銀のホームページに掲載されているものです。大雑把にこのチャートを眺めますと、プラザ合意のあった1985年を境として、ドル円相場は250円近辺から一気に150円近辺まで約100円の円高となり、その後は一度円安に振れる年もありましたが、総じて今日まで緩やかに(?)円高が進行して現在の83円となっています。

1985年当時の1-2年間の変化率は約40%と強烈に円高方向でしたから、その対策に慌てて金融緩和政策と積極財政政策を発動したのは、必ずしも不当とは言えず、先の予想が出来ない中ではむしろ適切とも見えます。

そしてその後は、経済政策面では結果論的にはオーバーキル(引き締め策のやり過ぎ)でバブルが崩壊し、為替的には20年強かけて円高が進行しているわけですが、150円→83円まで45%円高と、途中にでこぼこや振れ戻しはあるものの単純に平均すれば、大体毎年2%ずつ円高が進行していることとなります。

■円高が景気低迷の重要原因の一つ
以下、検証や理論を無視して大胆かつ大雑把に考えてみますが、あるいは各種異論の多数あるところかも知れません。

GDPを構成する需要として内需(消費+投資+財政)と外需(輸出-輸入)があり、内需が一定とした場合に、外需は年率平均2%の長期継続的円高によって相当程度減殺されてしまうというのが、当室の考えです。

たとえば、金額100、粗利10(粗利率10%)の商品を輸出していると仮定して、円高が2%進行すると、単純に考えれば円貨での売上金額は98となります。売上額は2%減ということです。しかしながら、利益ベースではもっと打撃が大きく、おそらくは20%近い減益となります。なぜならば、コスト部分はすでに事前決定されており、この例では90部分については支払わざるを得ないため、円高による目減り2は利益部分で吸収せざるを得ないからです。それゆえ、利益は10→8となって20%の減益となってしまいます。

つまり、比率的には2%程度の円高であり、印象としての影響は軽微な感じがしますが、輸出企業の利益的には、思いの外、影響が甚大であることが判明します。

したがって、輸出企業が円高の中で利益水準を維持確保するためには、①コストダウン、②生産性向上、あるいは③技術革新などの付加価値上昇による値上げ、のいずれかを採用するしかありません。

その中で、②と③は、口で言うほど簡単ではありませんので、短期的には①のコストダウンを採用することとなります。その結果は、賃金の切り下げや、仕入れ値の引き下げという、つまるところ国内にデフレ効果をもたらす対応ということにならざるを得ません。かくして、円高はデフレ効果を発揮し、賃下げや仕入れ価格の引き下げは国民所得を減少させますから、結果的に有効需要を削減することとなります(当室では、物価の継続的下落(デフレ)は、一定の供給力に対する有効需要減少の結果と解釈しています)。

他方で、円高は「輸入物価を引き下げるため、原材料費が低下する」というプラスな一面も合わせ持ちますが、製造コストの中では、大雑把に見て、人件費、材料費、経費がそれぞれ1/3ずつなので、材料が100%輸入品であったとしても影響度は1/3部分に限定され、しかも現実には輸入原材料割合はさらに限定されるでしょうから、製品原価に占める円高による原材料価格低下効果はそれほど大きくはなりません。

昨今さらに、こうした円高よるデフレ効果を増幅したのが、賃金の安い新興国の物品、特に中国からの安価な製品輸入です。たとえば同じような鉛筆や消しゴムでも、普通に買うよりは100円ショップで買う方が安いため、どうしても安い方を選択してしまうのが人情です。そうであるならば、既存の日本製品は売れ残りますから、自然に新興国相手の価格引下げ競争となり、デフレ、特に賃下げ競争によるデフレ(つまりは国民所得の減少=有効需要の減少)となってしまいます。

なお、基本的に景気が良ければ、安い海外製品が輸入されても、デフレ効果としては副次的なはずですから、安い海外品輸入は、デフレの主たる原因とはなりません。現に米国は安い中国品を輸入していてもそれが原因でのデフレとはなっていません。日本のデフレの主たる原因は、やはり、マイルドに進行する円高の影響が巡って国民所得の減少(=有効需要減少)をもたらした結果と解釈するのが妥当です。

■円高の原因は通貨供給量の不足
それでは、円高の原因は、というと、通貨供給量の不足が原因であることは明白です。つまり、通貨供給の元締めである日銀の政策が、円高を招来させているということ以外にはありません。

通常は国際的投資資金移動の結果として相対的に高金利の通貨が値上がりするわけですが、日本の場合は、国内の借入資金需要が低迷しているため低金利が維持され、金利要因による円高は発生しません。むしろ海外との金利差的には、ここ1-2年を除けば円安方向となりましょう。

しかしながら、貿易黒字部分を国内企業が円転する「ドル売り円買い需要」が常時存在するため、恒常的貿易黒字体質の日本側の要因として、なだらかに円高となる要素が常に存在していることとなります。すなわち、過去20年間にわたって少しずつ円高となっている要因は、貿易黒字部分の円転、ここにあるものと当室は思料しています。

そうであるならば、日銀が貿易黒字外貨部分に相当する金額の円貨を供給すれば、つまり政府がマイルドに為替介入さえすれば、円高は防止できるはずです。それをしないで放置するのは、円高のマイルドな進行を容認し、結果的にデフレと不況を容認していることと同じことです。

為替介入を実施しないとすれば、貿易黒字外貨の円転による円高が進行し、中長期的には企業生産の海外移転が進み、やがて国内の雇用先が減少して失業率が増加し、ますます不況が深刻化します。そしてそれは、貿易黒字が消滅して円高が進行しなくなる均衡点に到達するまで続きます。

それでいいのだというエコノミストもいますし、様々な考え方は存在するものと思いますが、基軸通貨国でない日本としては、貿易収支(経常収支)は恒常的に赤字とはできませんので、収支均衡するかやや黒字を維持するあたりが通貨価値を維持し、必要な物資を常時輸入可能な状態に維持出来て安全です。

■政府の取るべき対応
製造業の国際競争力を維持し、貿易黒字を少額でも維持するためには、まずは①政府、日銀が、輸出産業保護のための均衡為替レートを設定し、そして②為替介入によってその設定為替レートを一定幅で維持する、という政策が必要でしょう。

米国はドルで支払い、ドルで決済していますので、米国人にとっては輸出入についても国内取引と何ら変わりがなく、極端な貿易不均衡が生じない限りは文句は言いませんから、適切な為替レートの設定は日本の政策決定次第ということになります。

つまり、輸出を維持し、不況を脱するには、日本政府が欧米先進国と協議して適切な水準の為替レートを設定し、政策的に介入維持すれば良いだけだということになります。

政府に累積する外貨準備(ドル)は、海外資源権益や不動産、株式、知的所有権、企業買収などの国策的買収政策に使用すれば米国内で資金が回り、米国内の雇用が維持確保されますので、マイルドである限り米国も文句は言わないはずです。

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 (赤:ドル円スポットレート、青:実質実効為替レート2005年=100。日銀ホームページによる)

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(※1)【ブログ】IMF、日本の経済停滞の円高主因説に反論 (2011年 4月 12日 ウォール・ストリート・ジャーナル日本版より)

「国際通貨基金(IMF)は11日発表した「世界経済見通し」で、1980年代の急速な円高が日本経済の長期停滞を招来したとの中国でよく聞かれる議論に対し、3ページにわたる異例の反論を展開した。

IMFの主任エコノミスト、ブランシャール氏

同見通しは、中国人民銀行(中央銀行)の顧問である李稻葵氏が「中国は外国の圧力を受けて円相場の大幅上昇を受け入れた日本の80年代の過ちを繰り返さない」と述べたとする昨年の共産党機関紙、人民日報の報道を引用した。その上で、日本が円の対ドル相場の大幅上昇を容認した1985年のプラザ合意が日本経済の危機を引き起こしたとみる李氏の主張に真っ向から反論した。

IMFは、真の問題は日本の政策当局が円高の影響を過度に懸念し、1986年上半期の成長鈍化に過剰反応し、同年に「大規模な景気刺激策」を導入したことであると指摘し、以下のように述べた。

「政策金利は約2%引き下げられ、金融緩和姿勢は89年まで維持された。一方、86年下半期にはすでに力強く景気回復が始まっていたのに、87年に大型の財政刺激策が導入された。同年には、日本の生産は急激に増加し、信用の増加や資産価格の上昇は加速し、株価と都市の不動産価格は85年から89年にかけて3倍に膨らんだ。そして、90年1月に株式市場のバブルは破裂し、1年も経たずに株価は3分の1下落し、その後20年間にわたって経済低迷が続いた」

「言い換えれば、円高に対する過度の懸念があったため、過度の景気刺激策が講じられたということである」

それだけではない。IMFは数本の学術論文を引用して、日本の銀行は危機以前から資本不足の状態にあり、バブル崩壊後当局が銀行に対し損失の実現化を強制するのを遅らせ、しかも97年に早まって景気引き締めに乗り出したことが、景気回復を妨げた可能性があると論じた。

IMFの反論掲載は、中国に対し人民元の切り上げを求めているだけでなく、80年代終盤の日本のように現在中国で危険な資産バブルが形成されつつある可能性があるとの見方を強めていることを示している。

世界経済見通しは別の箇所で、「中国と香港での融資と資産価格は、ブームの様相を呈しており懸念される」と指摘、「信用の拡大はこれまでの融資のブームと破裂時の拡大と比べても高水準を続けている。また、不動産価格の大幅修正の可能性に対する懸念も高まっている」と述べた。

ただしIMFは、「中国の為替レート調整力や大規模な外貨準備、資本規制により、日本でみられたような急速な円高は回避できるだろう」として、人民元の完全な変動相場制への移行を求めることまではしなかった。 」
(以上、引用)