公的年金不安 貯蓄を食いつぶさない3つの対策

公的年金の支給額は、現役時代の給与額の50%行けば良い方だ、くらいに想定しておくのが無難な印象です(※1)。そればかりか、35%程度まで減額となってしまう可能性もあります(※2)。

公的年金の絶対額不足部分および将来的な目減り部分を補填する意味合いも、当然ながら我々個人投資家の資産運用の目的の一つとなっていますから、年金制度への目配りも怠れません。

ところで脱線話をすれば、当室管理人も、60歳の定年が間近となり、年金問題が他人事ではなくなっています。若い頃は、「年金などアテにせずとも、何とでもなる」くらいの元気さがありましたが、それも今は昔。50歳を過ぎて体力の衰えが進行しますと、人間楽な方向に流れてしまい、年金も大きな頼みの綱となって来てしまいます。

当室管理人は、資産形成(というよりも株式投資)は趣味の様に若い頃から手掛けていますが、運用内容が比較的安定化して来たのは、このブログを書き始めた6年ほど前からのことです。それだけブログを書くことはデータ認識や経済情勢の把握度合いを改善させ、運用上も有効性を持つというのが実感です。

さて、今回の日経新聞の記事(※1)では、公的年金の不足・目減り対策として、次の3点が提示されています。

①専業主婦の妻が来年から年収100万円で10年間働く
②夫が60歳の定年後も5年間働く
③投資によって金融資産の利回りを3%(現在は1%)に高める


この記事のモデルケースですと、何も対策を打たない場合は73歳で貯蓄ゼロ状態となりますが、そこを対策①または②のどちらかだけでも打つと、それぞれ6年間の延命ができ、また③だけだと8年の延命となる様です。①②③の合わせ技ですと、90歳でも余裕でオーケーという説明となっています。

様々な個人的事情とケースが存在するので、正確なところは各自が個別の判断をする以外にはありませんが、普通のサラリーマンである当室管理人の場合ですと、想定される年金額は240万円(月額20万円)程度ですので、これに60歳時点までの蓄積でいくらプラスできるか、という想定となります。さすがに月20万円ですと相当な緊縮財政にしないと生活の維持が困難な印象を持ちます。多分、当室管理人には運営不能な緊縮度となることでしょう。

自分にとっての年金問題は、結局は、月額いくらあれば退職後に自分が普通に生活できるかを想定し、それに適合する公的年金+上乗せの「じぶん年金」を確保するということに収斂されます。当室管理人の場合ですと、10万円程度の上乗せが必要ではないかと思いますので、運用益で月額10万円レベルが確保できるとするならば、将来的にも結構安泰かということになりますが、現実にはそこにまで至るのはなかなか厳しい道のりだと思います。

とはいえ、上記の選択肢では③以外にはありません(しかも利回り目標は3%よりもかなり上)。

なお、持ち家であれば、定年あたりで住宅ローンが終了すれば、家賃相当部分が無くなって管理費用だけの家計負担となって来ますので、生涯賃貸派の人よりは定年後の負担は小さいのかも知れません。


[以下、引用]
◆(※1)公的年金不安 貯蓄を食いつぶさない3つの対策
2014/7/6 7:00 ニュースソース 日本経済新聞 電子版より抜粋

厚生労働省が6月にまとめた公的年金の長期見通し(財政検証)で年金制度のもろさが改めて浮き彫りになった。年金水準は、政府が目標とする「現役会社員の収入の50%」を下回る可能性も出ている。

厚労省が公表したのは会社員のモデル世帯(妻は同年齢の専業主婦)の年金受取額。今後の経済状況により8つのシナリオを想定している。試算結果の一部をグラフAに示した。物価上昇率を年1.2%とみたケースだ。
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年金額を大きく左右する賃金水準については、年2.5%(物価考慮後の実質ベースで1.3%)ずつ伸び続けると想定している。8シナリオのうち悪い方から4番目だが、それでも楽観的な見通しに思える。

例えばいま30歳の世帯が65歳になった時に受け取るのは月26.3万円。今年度に65歳になる世帯が受け取る額(21.8万円)よりも多い。これは、年金額が賃金の伸びに大きく影響を受ける仕組みであるためだ。

それでも年金財政の厳しさはうかがえる。年金額が、その時々の現役世代の平均収入に比べてどれくらいにあたるかを示す折れ線(所得代替率)を見ると、世代にかかわらず右肩下がりになっている。

例えば50歳世帯では65歳到達時の比率は57%。それが歳を重ねるごとに低下する。現役収入の伸びを高く見ているのに加え、政府の方針によって年金の伸びを物価上昇率より低く抑える「マクロ経済スライド」が実行されることも影響。実質的に年金が目減りする。

■「試算より厳しく」

専門家の間では「将来の年金受給は試算結果より厳しくなるとみておいたほうが安全」(社会保険労務士の北村庄吾氏)との声は多い。

では家計はどうすればいいのか。ファイナンシャルプランナー(FP)の紀平正幸氏は、「早めに対策を打っていけば家計を防衛できる」と話す。その効果を示したのがグラフB。40歳の標準的な会社員世帯(手取り年収560万円、貯蓄300万円)を例に、対策の有無で貯蓄額が将来どうなるか試算している。
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「40代後半から教育費が膨らむ」「60歳で退職金を受け取る」といった一般的なライフイベントを想定。公的年金の受取額については経済環境が現在と大きく変わらないという設定だ。

まず対策を打たないケースでは、貯蓄額は73歳で底をつく。60歳でリタイアした後、医療や介護などの出費が増加。年金収入で賄えない分、貯蓄を取り崩さざるをえない。

対策を打つ場合はどうか。世帯収入を増やすため(1)専業主婦の妻が来年から年収100万円で10年間働く(2)夫が60歳の定年後も5年間働く(3)投資によって金融資産の利回りを3%(現在は1%)に高める――という想定だ。

貯蓄がマイナスになる時期は(1)、(2)のケースで約79歳。何もしない場合より6歳ほど先延ばしできる。(3)では81歳まで延びてより効果的だ。さらに、3つの策を組み合わせると貯蓄は90歳時点でなお約1500万円残る。もちろん前提によって試算結果は変わるが、「対策により家計収支が劇的に変化することを知るのが重要」(紀平氏)だ。

■公的制度を活用

FPの八ツ井慶子氏は「妻がフルタイムで稼いだり、夫が65歳以降もさらに働いたりすれば、収支は一層改善する」と助言する。金融資産で3%の利回りをあげるのは今の低金利からして一見難しそうだが、過去20年、世界中の株式や債券に分散投資していたら3%より高い利回り(円建てベース)を得られたというデータもある。

年金の実質目減りは避けられない道。自助努力で生き残りをはかるしかない時代になっている。(編集委員 田村正之)
[日本経済新聞朝刊2014年7月2日付]


◆(※2)山崎元のマルチスコープ  公的年金の財政検証から「灰色の未来」が見える
【第336回】 2014年7月2日 山崎 元 [経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員]

6月3日、5年に一度行われる公的年金の財政検証の結果が発表された。今回は、将来の経済のシナリオを8つに分けて、それぞれのケースについて、給付水準の調整が終わる年の「所得代替率」を発表した。

所得代替率とは、将来時点でその時代の現役世代が稼ぐ所得に対して、厚生年金受給者が受け取る年金額の比率を示したものだ。

給付水準は、「マクロ経済スライド方式」と呼ばれる調整方法で、年金財政を巡る環境の変化に応じて調整されることになっている。これは大まかに言うと、「年金給付を実質的に1年当たり0.9%ずつ減額する」形で、年金財政の均衡のために必要がある限り減額していく調整方法だ。

今回の試算は、経済前提によって、どの程度まで減額したところで年金財政が均衡するかを計算したものだ。

経済前提の置き方によって、調整が終了する年と所得代替率が変わることになる。前者は、2043年(ケースB)ということもあれば、2058年(ケースG)という場合もある。生産性の向上がバブル期並みまで高まる楽観的シナリオから、年金の積立金が枯渇する悲観的な(だがより現実的な)シナリオまで、8つのシナリオが並んでいる。

これをどう読んだらいいのかをズバリ言うなら、「年金はこのように大丈夫であり、その前提で年金運用を考えるべきだ」というお役所の「建前」は、シナリオEだ。

たとえば年金運用業界の人々は、長期的な(2024年度以降10年間の)経済像として、「成長率が+0.4%(実質)で、物価上昇率が+1.2%、実質賃金上昇率が1.3%、そして、年金積立金の名目の運用利回りが4.2%(数字は全て年率)」という世界があり得ることを、「信じたふりをして」行動することが求められる。

それにしても、「生産性」(より正確にはTFP:全要素生産性)の改善が1.0%にもなる楽観的なシナリオでも、実質成長率が0.4%しかないのだから、労働人口減少のインパクトは凄まじい。

さて、年金の将来像により近いのがケースGないしケースHであることは、ほぼ衆目の一致するところだ。

『週刊ダイヤモンド』(7月5日号)は、「100年もたない年金」と題した第2特集でケースGを前提とした年金の将来像を、年金加入者の立場から詳細に計算している。

このケースが想定する将来像は、実質成長率がマイナス0.2%、物価上昇率が+0.9%、実質賃金上昇率が1.0%、積立金の名目運用利回りは3.1%という世界だ。

ちなみに運用利回りは、想定される長期金利に内外の株式投資などによる利回りの上乗せ分を0.4%と見込んで計算されている。つまり、それぞれのシナリオでの長期金利は想定運用利回りマイナス0.4%で逆算できる。

ただ、政府がやろうと民間がやろうと、10年を超す超長期の経済見通しなど「全く当てにならない」に決まっている。

将来が不確実にしかわからない場合、まずは「悪い方のケース」を想定して、それでも大丈夫とするためにはどうしたらいいかを検討するのが、常識的なやり方だ。

今回、厚労省が想定した「最悪」であるケースHを見ると、現行制度通り機械的な給付水準調整を続けると、2055年に積立金が枯渇し、その後公的年金は「完全な賦課方式」になり、保険料と国庫負担で賄うことのできる給付水準は「所得代替率35%~37%程度」とある(「国民年金及び厚生年金に係る財政の現況及び見通し~平成26年財政検証結果~」厚生労働省、平成26年6月3日)。

厚労省の標準世帯(夫が稼ぎ、専業主婦、子ども2人)で年金にフル加入しいるケースを想定すると、「現役男子の手取り収入」が現在34.8万円に対して、「現在の」公的受給額は、夫の厚生年金が9.0万円、夫婦の基礎年金が12.8万円で、合計21.8万円、所得代替率62.7%というのが概略の姿だ。

ものは考えようであり、所得代替率が35%の年金があるなら、「全くないよりはかなりまし!」だ。年金は、倒産した会社の給料のように、ポッキリ折れてなくなるというわけではない。

厚労省の試算では、積立金が枯渇する2055年時点で、現在の物価水準に換算した収入が現役男子で45.8万円、年金受給世帯で17.8万円とある。

この間ざっと40年、物価は年間0.6%上昇し続け、実質賃金は0.7%上昇し続け、それでも年金給付額は今よりも4万円少なくなる。生きては行けるのだろうが、今の年金受給世代よりも相当に縮んだ生活が必要になる。これが、今回の試算では約40年後、現実的にはたぶんもう10年くらい早く訪れるかもしれない公的年金の現実だ。

「お先真っ暗」の暗黒ではないが、相当に憂鬱な「灰色の世界」だ。

「幸福感」や逆に「みじめさ」は、相対比較に大きく依存する。現在の現役男性の可処分所得34.8万円に対する35%を計算してみよう。12.18万円になる。住む地域や生活ぶりによっては、現状でこの収入で老夫婦が暮らすことが、全く不可能ということでもなさそうだが、65歳以降も何らかの収入を確保する方策を用意しておくのが現実的だろう。

年金財政検証と株式のPER
現在の株価は警戒すべき高値圏?

今回厚労省が用意したシナリオA~Eは、実質的にEをそれらしく見せるためのものであり、現在よりも全要素生産性が改善して、女性や高齢者の労働参加が増加する、経済政策が相当の成功を納めることを前提とする「おめでたい」シナリオだ。

だが、このおめでたいシナリオEが想定する10年から20年先の未来は、実質経済成長率が0.4%で、物価上昇率が1.2%(つまり名目成長率は1.6%)、長期金利は名目で3.8%、実質では2.6%という世界だ。

さて、あるべき株価を将来の利益の割引現在価値の合計だと考え、将来のキャッシュフローを現在価値に換算するときの割引率を一定として、さらに利益の成長率をずっと一定と仮定すると、「割引率=益利回り+利益成長率=金利+リスクプレミアム」という関係が存在する。

ここでさらに、企業の利益成長率がGDP成長率と同じだ(共に名目で)と考えてみよう。

すると、GDP成長率と金利は共に名目ではインフレ率を含むので、「リスクプレミアム=益利回り+実質成長率-実質金利」という関係が求められる。日経平均が1万5162円だった6月30日の東証一部の平均PER(利益は今期日本経済新聞予想ベース、加重平均)は15.58倍、益利回りに直すと6.4%だ。

すると、「やや楽観的な長期的将来像」を見込んだシナリオEを現状の株式価値計算に当てはめたときの、日本株の長期金利に対するリスクプレミアムは、6.4%+0.4%-2.6%=4.2%と、いささか小さいものになる。

筆者は、通常リスクプレミアムとして「6%なら普通、5%なら株価はやや高い」というくらいに見込んでいるので、今回の財政検証のような将来像を想定するなら、現状の株価のPERはすでに高めであるという不吉な結論となる。

仮に、この計算方法で6%のリスクプレミアムを確保するためには、益利回りを1.8%増やす必要があり、この場合のPERは約12.20倍と計算され、これを達成するためには株価が1万1872円まで下がらなければならない。

現状では、日銀の長期国債買い入れの影響もあって長期金利は0.6%近辺まで下がっており、当面の経済も1%台のプラスの成長率なので、PER15.58倍である現在の株価が高いようには見えないが、政府の長期経済見通し並みの成長率と政府が「普通の長期金利」だと考える長期金利水準に将来戻ることを前提に株価を見ると、現在の株価は警戒すべき高値圏であるように見えてしまう。

政府が年金の財政検証に用いた長期的な見通しを前提とすると、将来の年金受給者にとってだけでなく、投資家にとっても未来は灰色に見える。

[以上 引用/マクロ経済動向と資産運用形成研究室]