原油60ドル割れの光と影

原油価格の下落が続き、12月12日現在、1バレル57.49ドルとなっています。

言うまでもなく、原油価格の下落は、輸入国や消費者にとってはコスト削減効果、物価下落効果による恩恵がありますので、所得が増加したのと同様のプラス効果となります。

その反対に、輸出国(資源国)と生産者にとってはマイナスです。

原油価格上昇により、シェールオイルの生産が採算ラインに乗ったことで、開発が進行してオイルの供給が増加していたわけですから、新興国の需要が引き締まれば、ほどほどの均衡点に向けて供給が価格によって調整されるのは自然の成り行きです。

ただ、今回の価格下落はややスピード感がありますので、いずれ再び揺れ戻しがあって、ほどほどの水準である60~80ドルあたりで均衡するような印象を持ちます。

原油(WTI原油先物)現在値 57.49↓ (14/12/12 17:14 EST)
画像
(原油価格(WTI原油先物)10年間:SBI証券より引用)

[以下、引用]
◆(※1)原油60ドル割れの光と影 / 豊島逸夫

2014/12/12 9:03日本経済新聞 電子版

WTI原油先物価格がついに60ドルの大台を割り込んだ。11日には米国ルー財務長官が「原油安の家計への実質減税効果」に言及していたが、同日発表の11月米小売り統計も、事前予測の0.4%を上回る0.7%を示し、前年同期比では5.1%増となった。

原油が60ドルを割り込めば、今年のクリスマスに向けて、消費者心理は1世帯当たり750ドルと推計される「臨時ボーナス」で盛り上がるだろう。特に、今シーズンは、ブラックフライデー短期決戦から、オンラインでじっくり見定めて買う長期戦にシフトしているので、心理的影響がジワリ効きやすい。

一方で、シェールバブルの危うさも強まる。最近、シェールオイルの採算コストが話題になるが、リグと呼ばれる採掘施設ごとに、コストが異なるので、全体像が分かりにくい。

例えば、最大のバッケン(ノースダコタ州)は40ドルから70ドルのレンジに分布している。テキサス州のイーグルフォード地区も40~70ドル。同パーミアン盆地で40~50ドルといわれる。

このようにコスト分布が割れていることが、原油先物市場の投機家にとっては、相場を動かしやすい原因ともなっている。都合の良いように、後講釈でいいとこどりできるからだ。

それにしても、WTI価格が50ドル台ともなると、一部のシェールオイルが採算割れに落ち込む例は増えるだろう。

また、シェールオイルの生産コストトレンドも急増中だ。ノースダコタ州鉱物資源局の統計によれば、州内の1油田当たりのコストは2009年の580万ドルから14年には890万ドルへと増加している。その主たる要因が、土地リース価格の急騰だ。

さらに、シェールオイル開発に投入された資金の焦げ付きなどが、金融機関にも波及する可能性も強まる。ただし、全米から見れば、一部の州の「シェールバブル破綻」ゆえ、その影響も限定的だ。

いっぽう、石油輸出国機構(OPEC)諸国の採算コストはサウジが10ドル以下、ナイジェリアが20~40ドル、ベネズエラで30ドル程度といわれる。シェールオイルに比し、価格競争力はある(ちなみにロシアも陸上油田で40~60ドルと、微妙なところにある。カナダのオイルサンドは50~100ドルといわれ、こちらは苦しい)。

しかし、米国を除く産油国は、原油輸出依存型経済ゆえ、60ドル割れはきつい。財政均衡価格(財政赤字を回避できる価格水準)の推計を見ると、サウジが99ドル前後、ロシアが100ドル前後、ナイジェリアが120ドル前後、ベネズエラが160ドル前後とされる。

サウジアラビアは75ドルが3年続けば、財政が危機的状況になるとの観測もある。いまや、シェア争いで、サウジアラビアと米国の「我慢比べ」と本欄では書いてきたが、このままでは、共倒れリスクが高まろう。

次に、今回の原油安は、米連邦準備理事会(FRB)副議長フィッシャー氏が言うとおり「サプライショック」の面が強い。しかし、需要も中国経済減速の影響を避けられない。今週開催の中央経済工作会議では、習近平国家主席が、「新常態=ニューノーマル」との言葉を使い、「清く正しく中成長」の方向性を打ち出した。これは経済成長率7%を意味すると市場では解釈されている。

さらに、ギリシャ不安が再燃する欧州経済低迷も、需要不足観測に拍車をかける。ここも原油空売りに走る投機筋がはやすところだが、中期的には新興国も原油なしではやっていけない。特に、内需型経済のインドは、必要な原油量の8割を輸入に依存する。それゆえ、原油安の恩恵を最も強く享受する国ともいえる。

ただし、インドは軽油・ガスなどエネルギー関連で国民に手厚い政府補助を行ってきた。首相選挙でも、エネルギー関連で、補助金付き液化石油ガス(LPG)ボンベの供給を消費者1人当たり6本に制限する案が大議論を呼ぶほどだ。国内ガソリン価格も保護されてきた。それゆえ、原油安効果を国民が感じにくい。

インドネシアでは低所得者向けの「補助金つきガソリン・軽油」に関して、補助金が削減されつつあり、市民感覚では、ガソリン高となっているほどだ。長期的には、補助削減・廃止という構造改革に追い風となりそうだ。国際エネルギー機関(IEA)の推計では、ガソリンなど化石燃料に対する補助金の総額は世界で5440億ドル(12年)と、世界国内総生産(GDP)の0.7%に相当する。

最後に、60ドル割れが来週開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)直前に起こったことで、米国利上げ議論への影響も避けられまい。NY連銀ダドリー総裁は「原油価格が20ドル下がれば、産油国から消費国へ6700億ドル(約80兆円)の所得再配分効果がある」と語った。

しかし、インフレ率が目標とする2%に届かないディスインフレ状況で、原油安が加速することは、無視できまい。特にハト派が、米雇用統計後高まる早期利上げ論への反対論の根拠の一つに挙げることは十分に考えられる。これは外為市場で、ドル安・円高の要因となる。

かくして、原油60ドル割れの影響は多岐にわたる。NY先物取引所では、ほぼ売り一色状態だ。モルガンスタンレーも15年4月に43ドル予測を出した。先安観の強い原油価格だが、その光と影も濃厚になりつつある。

豊島逸夫(としま・いつお)
豊島逸夫事務所(2011年10月3日設立)代表。11年9月末までワールド ゴールド カウンシル(WGC)日本代表を務めた。
1948年東京生まれ。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラーとなる。チューリヒ、NYでの豊富な相場体験をもとに金の第一人者として素人にも分かりやすく、独立系の立場からポジショントーク無しで、金市場に限らず国際金融、マクロ経済動向についても説く。
[以上 引用/マクロ経済動向と資産運用形成研究室]