円安効果で「中国から国内回帰」 大手製造業の方針は正しいか?

円安による製造業の国内回帰というテーマについて、高橋洋一先生の論説が現代ビジネスに掲載されていましたので、全文掲載しておきたいと思います(※1)。

高橋先生の論説は分かり易く核心を説明していますが、やや単純化が過剰な部分もありますので、当室としては、8~9割の同意というところです。要点としては、次の通りです。

①為替は二つの通貨の交換比率なので、どちらが相対的に多いかどうかで決まる。
②円安は、円がドルに対して相対的に多いということなので、日本が金融緩和すればそうなる。
③金融緩和すれば、モノに対しても円が多くなるので、モノの価格は上がる。つまりデフレになりにくい。
④インフレ率と失業率には逆相関の関係がある。
⑤円安になると失業率が減る。
⑥円安はGDPを増加させる。日本に限らずどこの国でも、自国通貨安はGDPを増加させ、自国通貨高はGDPを減少させる。
⑦最近、円安によって雇用を確保できることについて、具体的な事例もでてきた。例えば、パナソニックなどが製造拠点を国内に移す方針を打ち出している。こうした動きは、中国での人件費高騰に加えて、最近の円安により海外拠点での採算がとれなくなっているからだ。パナソニックやシャープでは、1ドル120円より円安になると国内生産のほうが収益になるという。
⑧国内の雇用を考えると、国内回帰が望ましい。そうした海外に出て行った企業はなかなか戻らず、円安傾向が一定期間定着すると確信しないと国内回帰は難しい。
⑨ただ、昨年の総選挙の勝利で、安倍政権が長期政権になったので、経済界でその確信が出始めた。今後、国内拠点が増え、輸出が一気に増えてくると、安倍政権の地方創生でも具体的な成果が見えてくるはずだ。

それにしても、第2次安倍政権の発足した時点(2012年12月26日)の株価&ドル円レートを再確認して見ますと、日経平均を見ただけでも7~8割の上昇です。それと比較した現在の当室運用資産の伸びは実に乏しい状況であり、単純に日経平均だけを買っておいた方が有効性が高かったという単純な結論に到達することを改めて認識せざるを得ません。もう少しマクロ的な運用視野が必要ということなのでしょう。
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(日経平均3年間:SBI証券より引用)

[以下、引用]
◆(※1)円安効果で「中国から国内回帰」 大手製造業の方針は正しいか?
高橋洋一「ニュースの深層」/現代ビジネス
2015年01月12日(月) 高橋 洋一

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第2次安倍政権発足の2012年12月26日の株価&ドル円レート

1ドル120円で「日本経済は危険」!?

2年ほど前、安倍政権がスタートした直後、1ドルが120円になると日本経済は危険といっていた著名な経済学者がいる。もともと、世界標準のインフレ目標を理解できずに、金融緩和による円安の弊害をいおうとした発言だ。

為替は二つの通貨の交換比率なので、どちらが相対的に多いかどうかで決まる(本コラムでは、何度も指摘しているが、例えば、2011.08.22付け「史上最高値を突破した円高につける薬はある 為替を読む『高橋法則』と民主党代表選の見方」)。

円安は、円がドルに対して相対的に多いということなので、日本が金融緩和すればそうなる。その一方、モノに対しても円が多くなるので、モノの価格は上がる。つまりデフレになりにくい。逆をいえば、円高はデフレ状態と整合的になるので、円高論者はデフレ論者でもある。

冒頭の経済学者はデフレ論者でもあるので、円安が不味いといったわけで、それなりに意見には矛盾ない。デフレ論者の特色は、雇用を考えない。これは、インフレ率と失業率には逆相関の関係があるので、デフレがいいという人は高い失業率は問題にしない。その経済学者もそのとおり日本には失業問題はないという立場であろう。

というわけで、デフレ論者は、円安になると失業率が減るという事実は無視する。昨年12月22日の本コラム「「円安批判」は的外れ。財務省利権の「外為特会」を今こそ活用せよ!」で指摘したように、円安は失業率を低下させるにもかかわらずだ(下図)。
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ちなみに、円安はGDPを増加させる。実は、日本に限らずどこの国でも、自国通貨安はGDPを増加させ、自国通貨高はGDPを減少させる。
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こうした分析は、経済政策では常識であるが、例えば、2009年度の経済財政白書では「いずれの国でも自国通貨高は景気にマイナス」と書かれている。

大手製造業が続々、中国から日本国内回帰の方針

最近、円安によって雇用を確保できることについて、具体的な事例もでてきた。例えば、パナソニックなどが製造拠点を国内に移す方針を打ち出している。パナソニックのほかにも、シャープ、ホンダ、TDK、ダイキン工業などにもみられる。これらの企業は、これまでの中国展開を見直して、国内回帰になっている。

具体的には、パナソニックは静岡県袋井市や神戸市の工場、シャープは栃木県矢板市や大阪府八尾市の工場、ホンダは熊本県大津町の工場、TDKは秋田県の工場、ダイキン工業は滋賀県草津市の工場に、それぞれ移管するという。

キヤノンでも、海外拠点の撤退まではないといいながら、海外生産比率を減らして国内生産比率を高めるので、国内回帰の流れである。

これまでは、円高に中国などに進出せざるを得なかったが、やっと国内回帰できるようになったわけだ。中国に進出して中国の雇用にはプラスであったが、その分日本の雇用にはマイナスであった。それが、日本回帰で日本の雇用を、地方で創出できるようになったのだ。安倍政権の地方創生には、絶好の追い風になるだろう。

こうした動きは、中国での人件費高騰に加えて、最近の円安により海外拠点での採算がとれなくなっているからだ。パナソニックやシャープでは、1ドル120円より円安になると国内生産のほうが収益になるという。

小泉政権以降の歴代政権での為替レートを確認しておこう。
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小泉政権は2001年4月26日から2006年9月26日までで平均円ドルレートは1ドル116円、
第一次安倍政権は2007年9月26日までで119円、
福田政権は2008年9月24日までで108円、
麻生政権は2009年9月16日までで96円。

民主党に政権交代後、鳩山政権は2010年6月8日までで91円、
菅政権は2011年9月2日までで83円、
野田政権は2012年12月26日までで79円。民主党政権時代の平均は83円。

自民党に政権交代して第二次安倍政権では120円程度まで戻したが平均円ドルレートは102円だ。民主党政権に比べて20円程度の円安だ。

安倍政権、長期化見通しで企業も国内回帰へ

1996年からの四半期ベースのデータで、海外直接投資と円ドルレートの相関係数をみると▲0.5である。
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決して強い相関とはいえないが、それなりに為替が円安になると海外直接投資が減少することを示している。円高になると、企業は儲けるために、中国などへ海外進出をせざるを得ない。

具体的にいえば、10円の円高で年間1.4兆円程度の海外直接投資をせざるを得なかった。その分、国内への投資が減っていたわけで、投資額1億円で雇用創出は10人程度といわれるので、10円の円高で、国内雇用を14万人も失っていた計算である。安倍政権は民主党政権より20円程度も円安なので、海外直接投資を抑えて、国内で30万人程度の雇用創出に成功したはずだ。

円安批判者から、しばしば指摘されるのが、輸出が伸びていないことだ。それは確かにある。ただ、その理由が、これまでの円高放置によって、いったん海外に出て行った企業があるからだ。その代わりに、そうした企業では、海外投資収益が好調である。

ただし、国内の雇用を考えると、国内回帰が望ましい。そうした海外に出て行った企業はなかなか戻らず、円安傾向が一定期間定着すると確信しないと国内回帰は難しい。

昨年の総選挙の勝利で、安倍政権が長期政権になったので、経済界でその確信が出始めたのだろう。今後、国内拠点が増え、そこでの生産が増え出すと、輸出が一気に増えてくるだろう。そこまでくると、安倍政権の地方創生でも具体的な成果が見えてくるはずだ。
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[以上 引用/マクロ経済動向と資産運用形成研究室]