人民元のSDR採用に潜む落とし穴 中国からの資金流出がさらに加速、金融システムが窮地に?

中国経済については、下げ止まりという見解のエコノミストと、まだ悪化中という見解のエコノミストに分かれており、どちらかというと、下げ止まり意見の方が多い印象ですが、当室はまだ悪化中でこれから本番という悲観的(?)見解を持っています。

中国人民元はSDRの構成通貨に採用される機運となっていますが、これは人民元の自由化を促進しますので、
JPPressの記事の通り、「人民元に関する規制がさらに緩和されれば「中国からの資金流出がさらに加速する」との懸念も急速に高まっている」と言えます(※1)。

当ブログでも、先般、人民元の取引が自由化されればヘッジファンドはまず空売りを掛けるだろうと書きましたが、これはやはり確度は非常に高いと思います。

「人民元がSDR入りすれば「中国政府は人民元安を放置するのではないか」との憶測も生じている」とされ、さらに「中国の広義のマネーサプライは米国を上回り、世界全体の約20%を占めるほど巨大化している」のも異常であり、なおかつ「中国経済の急減速に伴い、金融機関の9月末の不良債権総額は4兆元(約77兆円)とスウエーデンのGDPの規模を上回ったとされ」ています(売りの要素ばかり巨大)。

それ以上にありそうなのは、簿外の債権債務の存在です。GDPの数値すら怪しい中国には、いかにも大量にそれが存在しそうです。最後の最後は分からないように人民銀行に「飛ばす」のでしょうか。

何でもありの体質ですので、マイナス要素は十分大きめに推測しつつ注視する必要がありましょう。


[以下、引用]
◆(※1)人民元のSDR採用に潜む落とし穴
中国からの資金流出がさらに加速、金融システムが窮地に?

2015.11.21(土) 藤 和彦 JBPress

中国・人民元、国際金融市場で存在感増す

人民元は晴れて第5の国際通貨の地位を得ることになった〔AFPBB News〕

11月13日、国際通貨基金(IMF)は外貨不足に陥った加盟国を支援する特別引き出し権(SDR)の構成通貨に「中国の人民元を採用することが妥当である」との見解をまとめた。同30日のIMF理事会で正式に決定されることとなる。

SDRとはIMFが加盟国に割り当てる準備通貨のこと。1960年代初頭に発生した国際通貨危機の教訓からIMFが1969年に創設した。IMFはSDRの一部を出資金に応じて加盟国に配分し、加盟国は国際収支が悪化したときなどにSDRを外貨に交換して対外支払いに充てることができるとしている。

SDRに採用される要件として、(1)モノやサービスの輸出額が多い国の通貨であること、(2)国際取引で広く使われ、外国為替市場で自由に取引されていること、が挙げられている。現在の構成通貨とその比率は、米ドル(42%)、ユーロ(37%)、英ポンド(11%)、日本円(9%)となっており、5年に一度見直しが行われる。

人工的な準備通貨であるSDRの発行残高は約3000億ドルで、世界の外貨準備高の2.5%にとどまる。SDRが対外的な支払いに利用されることはほとんどなく、世界の金融システムの脇役にすぎなかった。

だが、中国によって、このSDRに一躍スポットライトが当てられることになった。

中国政府の思い入れは本気だった

2009年3月の第2回G20サミットが開催される直前に、人民銀行の周小川総裁は「国際通貨体制改革に関する考察」と題する論文を発表した。米ドルが基軸通貨(準備通貨)の役割を果たす現在の国際通貨体制の限界を指摘し、「米ドルに代わり主権国家の枠を超えた存在であるSDRを準備通貨にすべきである」と主張する内容だった。

周総裁はその主張の根拠として、「現在のドルのように特定の国の通貨が準備通貨として使われる場合、それを発行する国は常に自国の利益を優先させるために世界経済が不安定化する恐れがある」ことを挙げていた。「リーマン・ショックはその当然の帰結である」と指摘したため、論文は世界中の主要メデイアに大きく取り上げられた。

周総裁は論文の中で「SDRとその他の通貨との決済の枠組みを確立し、SDRの使い道を国際貿易や金融取引に広げるべき」と主張しているものの、実現は極めて困難である。そのため、論文の意図は「米国を牽制しながら新しい国際金融秩序の構築に向けて自らの発言力を高めていくための中国の手段にすぎない」との見方が当時は一般的であった。

しかし、中国政府のSDRへの思い入れは本気だった。

前回の2010年の見直し時に、中国は既に輸出額の基準は満たしていたが、人民元取引の自由度が不足しているという理由で採用が見送られた。捲土重来を期す中国は、今年に入ってからSDR入りを目指す方針を公式に示し、人民元の取引活性化に向けた通貨・金融市場改革などを積極的に実施してきた。

7月にIMF事務局から「運用上の課題がある」と指摘されると、人民銀行は10月にこれまで基準金利の1.5倍としてきた預金金利の規制を撤廃するという思い切った措置を講じた。基準金利や窓口指導が残されているとはいえ、2013年に実施した貸出金利の自由化と併せて金利を全面的に自由化したのだ。

人民元相場を従来より市場実勢に従って変動させるなど一段の改革を約束したこともあいまって、IMF事務局は「人民元は両方の基準を満たしている」とする見解をまとめるに至った。

これにより人民元は晴れて第5の国際通貨の地位を得ることになった。1993年秋の共産党中央委員会全体会合で「人民元の国際兌換通貨化を目指す」との決議を採択してから20年以上をかけての悲願を達成したのである。

最大の功労者は周総裁

中国政府が人民元のSDR入りを強く希望する背景には、来年から運用が開始されるアジアインフラ投資銀行(AIIB)の資金調達の円滑化という思惑もあったようだ。

中国国内の生産過剰を解消する切り札として期待が高いAIIBだが、「対外債務が対外資産を2.4兆ドル上回る中国経済の状況(外貨準備を除く)では、人民元が国際通貨にならないと国際金融市場から巨額の外貨は調達できない」(田村秀男産経新聞特別記者)。AIIBでは人民元での融資も検討されており、外貨獲得と人民元融資の実施の両面から人民元の国際通貨化は必要不可欠なのである。

今回の人民元のSDR入りの最大の功労者は、先述した論文の筆者である人民銀行の周総裁である。

周氏は1986年に共産党入党後、1991年まで国家経済体制改革委員会委員を務めた。ソ連崩壊後中国の専門家たちは、国有企業を民営化し価格の自由化を導入したロシア・東欧型の経済モデルを導入すべきかどうか激しい議論を行っていた。その中にあって周氏は民営化を拒否し、共産党による支配の下で国有企業の収益性を向上させる中国独自のやり方を主張したと言われている。

1991年に中国銀行副頭取に抜擢されてからは、金融畑を歩むようになった。2003年に人民銀行総裁となると、保守派から改革派に転じた。2005年に人民元の事実上のドル・ペッグ制の廃止など人民元改革の担い手としてワシントンから一目も二目も置かれる存在になる。周氏は現在も総裁の地位にあり、過去最長の在任期間を誇っている。

特に2013年に、中国本土と香港など本土以外との間の資金の流れに関する規制を撤廃したことが、人民元のSDR入りに大きく貢献した。これにより中国の貿易額に占める人民元決済の比率が5年間でわずか0.02%から約25%に急拡大したからだ。

人民元のSDR採用で、周氏は「中国の最も偉大な改革者の1人としての同総裁の地位は確かなものになった」(11月16日付ブルームバーグ)ようである。

中国からの資金流出がさらに加速?

しかし、人民元に関する規制がさらに緩和されれば「中国からの資金流出がさらに加速する」との懸念も急速に高まっている。

中国政府の「人民元の国際通貨化」という野望達成と裏腹に、景気の急減速により人民元への信頼が急速に落ち込んでいるからだ。米財務省の推計によれば、2015年1~8月の間に中国から5000億ドルの資本が流出したという。

既に人民元の規制緩和による資金流出拡大の事態が起きている。8月11日、人民銀行がIMFの指導に沿って人民元の対ドルレートの決定方式を見直したが、これにより元安観測が高まり、2000億ドルに上る資金流出が発生した。中国当局は資金流出に歯止めをかけるために、総額2290億ドルの元買い・ドル売り介入を行う事態に追い込まれた(11月16日付ロイター)。

関係者の間から「資本規制のおかげで流出を防げた」と溜め息が漏れたが、内需型の安定的な経済への転換を図るためには、人民元取引を含めた金融制度の改革がさらに進展しないと海外からの投資は拡大しない。

人民元がIMFから「容易に取引ができ、資産の優れた保存手段である」とのお墨付きを得たことから、英スタンダード・チャータード銀行は「今後5年間に1兆ドルが中国の資産に振り向けられる」と試算している。しかし、人民元改革をさらに進めていかないと「絵に描いた餅」になりかねない。

中国政府は市場の動向を注意深く観察しながら段階的に金融改革を進めていくしかない。だが、その道は極めて狭いと言わざるを得ない。

ますます高まっている資金流出の圧力

以前の本コラムで、反腐敗運動が金融界にも及んだことを紹介した。11月に入り、ヘッジファンド業界の著名人がインサイダー取引と株価操作の疑いで取り調べを受けるとともに、証券監督管理委員会のナンバー2も「重大な規律違反の容疑がある」として中央規律検査委員会の調査を受けており、金融関係者の間で衝撃が走っているという(11月18日付ブルームバーグ)。人民銀行にまで汚職調査のメスが入り、11月18日同幹部3人が厳重警告などの処分を受けた。

約1.2兆ドルに及ぶ中国の対外短期債務残高の主な受け皿は金融セクターだろうが、市場への政治の圧力がますます嵩じる中で、中国の金融市場の魅力が著しく減じてしまうのではないだろうか。

中国の富裕層の間にも「遺産税(相続税)がいよいよ導入されるのではないか」との不安が高まっている。遺産税については2004年以降政府内で議論されていたが、格差解消の観点から「政府が来年から深セン市で試験的に導入される」の噂がもっぱらである。

11月13日には偽造防止のために新100元札が流通し始めたが、「紙幣の大量の投入でインフレが起きるのではないか」との不安も国民の間で高まっている。

さらに、人民元がSDR入りすれば「中国政府は人民元安を放置するのではないか」との憶測も生じている。SDRにおける人民元の比率を日本円より多くするため、政府は多額の外貨準備を使って人民元の水準を維持し中国経済のGDPをドルベースで大きく見せてきた(IMFはSDR通貨の比重算定に当たり金融取引に重点を置くため、人民元の比率は中国政府の努力にもかかわらず日本円と同等になる可能性が高いようだ [11月19日付ロイター])。だが、今後はその必要がなくなるからである。

このように現在の中国ではますます資金流出の圧力が高まっているが、人民銀行幹部は「為替相場の柔軟性を一段と高めて人民元のさらなる国際化を推進すべきだ」と発言した(11月19日付ブルームバーグ)。海外のヘッジファンドなどは人民元の空売りなどで一攫千金を得る機会を手ぐすね引いて待っている状況だと言っても過言ではない。

金融システムを蝕む不良債権問題

さらなる資金流出で最も心配されるのは金融システムである。中国の広義のマネーサプライは米国を上回り、世界全体の約20%を占めるほど巨大化している(11月20日付ブルームバーグ)。

中国経済の急減速に伴い、金融機関の不良債権に注目が集まっている。9月末の不良債権総額は4兆元(約77兆円)とスウエーデンのGDPの規模を上回ったとされる(11月13日付ブルームバーグ)。

中国4大国有銀行が10月末に発表した1~9月期の決算報告によれば、景気低迷により同期の利益率は1%を切り、極めて低調であった。11月5日の人民銀行の発表によれば、4大銀行の10月末の融資残高は35.7兆元(約685兆円)となり2009年以降で初めて減少した(前月比656億元減)。

収益が大幅に悪化した金融業にとって、頼みの綱はシャドーバンキングの金融派生商品への投資である(11月1日付ウォール・ストリート・ジャーナル)。これらの投資からの収入は金融機関の投資収入全体の4分の3を占めるに至っているが、バランスシートに記載されておらず、大幅な焦げつきが発生するとの懸念が高まっている。

トルコで開催されたG20サミットで、習近平国家主席は「世界は経済成長の新たな原動力を早急に見い出す必要がある」との認識を示した。しかし、中国に代わる世界経済の成長エンジンは当分の間見つかるはずがない。

悪化する不良債権問題に加えて資金のさらなる海外流出が生じれば、大量の金融機関が倒産し、金融システム全体が麻痺する可能性がある(中国政府は今年5月預金保険制度を導入した)。

人民元がSDRに採用されたことにより、中国は名実ともに超大国の地位に上り詰めた感が強い。だが、その代償は極めて大きいのではないだろうか。IMF加盟国の金融危機を救うSDRに自国通貨が採用されることが自国の金融危機の引き金になってしまったとしたら、皮肉以外のなにものでもない。中国経済がハードランデイングとなるリスクが高まっており、一寸先は闇である。
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[以上 引用/マクロ経済動向と資産運用形成研究室]